胎動
世界に大陸は一つの頃。
古は魔物王の御世。
人間は、魔物に使役される奴隷であった。
酷使されながら子孫を殖やし、己の生活を楽にしたいと非力な人は技術と知恵を身につけ、高度な文明を発展させたある時、人は気付き始める。
『なぜ、未だもって魔物に服従などせねばならぬのか』
人間は考える。
己が恐れ慄いた魔物たちを倒す事は、かなわぬことなのだろうか。
培った知恵と技術をもってすれば、ただ暴力だけで威圧する魔物を倒し、自由を得るのではないか…。
そこから、人間と魔物との永き争いは始まる。
人間は何代も子孫を重ねるが、戦いは一進一退の膠着状態が続き、魔物を倒す決定的な“力”に欠けていた。
両雄が戦乱に身を投じ、多くの血を流し、多くの生命を犠牲にして無常に時は訪れる。
魔物には適わぬと絶望しはじめた時、ある刀鍛冶の前に黄金に輝く神鳥が現れ、彼に魔物王を封じる強力な武器の製作方法を授けた。
刀鍛冶は神鳥の言葉に従い、一本の魔剣を創り上げた。
魔剣を扱う戦士を中心とした十六人の英雄と、神鳥の力によって魔物王と多くの魔物は魔界に封じられた。
『強欲な汝らの辿る先は滅び。汝らが貪欲になればなるほど、世界は汝らの期待を裏切る。世界は枯れ、人という罪人は滅ぶ。私の望みどおりに』
魔物王は封じられる間際、世界に轟く声でそう呪詛を吐き、大地を二つに裂いて消えた。
大陸に残された魔物は、主を失い統率を無くして、支配することを忘れた。
そして、ただ闇雲に人を襲う凶暴な生命体へと退化した。
それと共に、人々はようやく自由を手に入れた。
人間たちは魔物王に立ち向かった十六名の勇敢な英雄たちを讃え、十六の都市を大陸に形成した。
魔界を封じた場所は『常世の門』と呼ばれたが、永き世の間に、魔物王の存在と共に、次第に人々の記憶から消えていき、伝承にその存在を残すだけとなった。
世界の支配者となった人間は、世界に満ち足りた豊かな資源を占有し、永く平和を得た。
けれど思い知る。
魔物王の真の恐ろしさを。
魔物王が封じられる直前に放った厄の呪詛により、在る時突然に、急速に大地は恵みを失い、世界に飢餓と滅亡の影が身を落としはじめた。
歳月を経、己が欲のために、人間は再び戦乱と云う大いなる過ちを選択する…。
次章からはもう少しライトな文章になります。よかったら見て下さいね。