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後編


 シュテラはザムゾンの胸に腕を回して、キュッと抱き締めた。

「うれしい…おじさま」

 前は腕を精一杯伸ばしても腹部に引っかかっているだけだったのに、今は背中に回っている。

 ザムゾンの手もシュテラを強く抱き締めた。

 彼の男性としては細いがシュテラにとっては頼りがいのある強い腕と、背中に暖かい掌を感じる。

 温もりは背中から体全体に浸透し、心の奥底まで暖めてくれる。

 シュテラは無意識のうちに緊張していた事に気がつき、体から力を抜く。

 やっといつもに戻れた。

 安心のため息をつきながら思ったシュテラだったが、ふと何かが違うと感じた。

 顔を上げて彼を見つめる。

 向かい合わせで座るとザムゾンの顎のところまでシュテラの頭が来ている。

 この前会った時には、まだ胸のところくらいまでだった。

…私。大きくなっている。

 その位置を確認して、違和感の正体が判った。

 言葉では大きくなったと言っていたが、今まで実感が沸かなかった。

 自分の成長を改めて感じて、シュテラは嬉しくなった。

 大きくなって正しく力を持てば、ザムゾンと過ごす時間を自分の意思で増やす事も可能だろう。

 そう信じ、それを望みに日々を励んでいる。

 以前のように、一緒に暮らすには自分はどんな人になればいいのか。幼いながら常に考えながら生きてきた。

 もちろん、幼さ故にやってはいけない事も我慢できない事もあったのだが。彼女の年齢にしては、かなり頑張っている。

…でも。今は忘れる。

 シュテラは思った。

…おじさまは、私の傍にいる。

 これがシュテラの望んだ全てだ。

 この幸福の時間に水を差す様なことを考えたくなかった。

 離れている間、いろんな事があった。たくさん学び、自分なりに知識を重ねてきた。

 中には悩んで迷い答えの出ないこともある。彼の意見を聞きたいとずっと思っている事がある。

 でも、甘える事が許されるなら、そんな難しい事など考えず、今は楽しく過ごすことだけを今は考えたい。

 楽しい時間を過ごしたとしても、それは永遠ではないし。

 別れの間際には、また再び考え始めなければならないと判っているから。

 シュテラがザムゾンの胸にひっついたまま、まずは、どんな楽しい事を話そうかしら…と考えていると、聞きなれた尖った声が降ってきた。

「それで…私への挨拶はどうなったのかしら?」

 ローザが不機嫌さを隠さずに言った。

 空気がピリッと緊張を帯びる。

…あ・忘れていた。

 慌ててシュテラはどう謝ろうかと考えた。

 シュテラはローザと繋がった部分があるので、詳細は伝わらなくても、どんな気持ちであるのかは筒抜けだ。

 だから、言い訳をしようと思った事も筒抜けなのだが、彼女の存在をないがしろにしたことが問題なのだ。

 心を尽くして言葉にする大切さをローザは常々口にしているから、シュテラは自分の精一杯で考え始めた。

 ザムゾンが顔を動かす気配がした。シュテラは顔を上げ、二名を見た。

「嗚呼。そうでした」

 緊張感の無い、のほほんとした声でザムゾンが今思い出したかのような声で返事をする。

「ただいま帰りました。ローザ。相変わらず貴方のステキなお姿を拝見できて光栄です」

「本当にそう思っているのかしら?」

「勿論。僕の気持ちに嘘偽りはありません。そのお力も健在ですね。お元気そうでなによりです」

 ザムゾンが心を込めて挨拶をすると、ローザは鷹揚に頷いた。

「それから…僕の居ない間、シュテラを護って下さってありがとうございました」

「おかえりなさい。ザムゾン。『唄う鳥』を護る事は自らに課した役目だから、礼は不要よ」

 ザムゾンの方に留まったまま、ツンと顔を背ける。

 距離を置く事はない。

 本気で怒ったから、術を使って消える事は…二人には姿を見えないようにする事は簡単だ。

 なのに文句を言うだけで、離れることはない。

 その距離感でローザの怒りは形ばかりだと判る。二人の世界に入ってしまって、仲間はずれにされた事に拗ねているのだと、誰にでも判る素振りだった。

「まぁまぁ、そう機嫌を損ねないでください。あなたから冷たくされると、僕は哀しいですよ」

 ザムゾンがそう言うと、ローザはまんざらでもない顔をする。

「それに僕はシュテラの育ての親…乳母みたいなものですから…この子の成長を見守る保護者としての礼ですよ」

 ザムゾンの言葉を聞いて、シュテラは目を瞠った。

 さっきシュテラが言った言葉を使って自分達の関係を説明する。

 彼と心が通じている証のようで嬉しくなる。

 輝く笑顔でザムゾンを見つめると、その視線に気がついたように、ザムゾンはチラと目配せをする。

「そう…判ったわ。なら、言い心がけとして。その言葉受け取っておきましょう」

 年長者の威厳を感じる声でやや横柄にローザは言う。

 続けて、口調を柔らかくすると機嫌を直したような口ぶりで問いかけた。

「それにしても、ずいぶん永い不在だったわね」

「それを言われると、辛いですね。もう少し早く帰ってきたかったのですが…色々とありまして…」

 ザムゾンは困った顔をして言った。

 最後の方は何でもハッキリと言う彼にしては珍しく言いにくそうにする。

 そんなザムゾンを見てローザは禍々しさを含んだ笑顔で笑った。

…ローザ?

 全身を不安が駆け抜けた。

 見たことの無い表情でローザが笑った。理由がそれだけでも充分だ。

 何故か遠い手の届かない場所にいるように感じた。

 心や体の奥深い部分でひとつになっている筈なのに。一瞬。こんなに近くにいるのに。

 口の端から見える鋭利な牙がシュテラの心を不安にさせる。

「色々あったのは判るわ。随分と魔力が強くなったわね。以前とは見違えるくらい強い術者になった。あなたも良く頑張りましたね」

「判りますか」

 褒められてザムゾンの顔が明るくなる。

 喜ぶザムゾンの顔をローザはやや冷たい瞳で見つめ返した。

「そうね。あなたが…あの術に…禁術に手を染めたって事位までは判るわ」

 朗らかに見せかけた硬い声でローザは言い、彼女の言葉を聞いていたザムゾンの表情が一瞬で闇をまとう。始めてみる彼の表情。

 ローザどころかザムゾンまでも、遠くに行ってしまうような不安感に襲われ、シュテラはたまらず会話に割り込む。

「…きん…じゅつ…って、なに?」

「ローザ!」

 シュテラが聞いていると気がつかなかったのが、ザムゾンがハッとした顔をし咎めるようにローザの名を呼んだ。

「どうしたの。声を荒げたりして」

 ザムゾンの尖った声を平然と聞き流し、ローザは返答した。

「シュテラの前で変な事言わないで下さい。僕の使った術は禁じられているものではありませんよ」

 きっぱりとザムゾンは言いきったのだが、その表情は暗いままだった。

「あら、そうだったかしら?」

「ええ。あの場所では許されています」

「なるほど。そう、あそこまで行って来たのね。それは長旅だわ」

「僕にとっては、色んな意味で長い永い旅でした」

「そうかもね」

 ローザの言葉にザムゾンが、しみじみと返す。二人とも、その場所のことを知っているようだ。

 それもあまり良い意味では無さそうだ。

 シュテラはいつのまにか自分だけが仲間外れになったような気がした。

 ザムゾンを服ごと揺さぶると、声を上げる。

「どこまで、行ってたの?」

 ザムゾンとローザが、今思い出したようにシュテラを見つめ、顔を綻ばせた。

 暗い空気が一瞬で消え去ってしまう。

「ずっとずっと遠くだよ」

「シュテラが待ちくたびれるくらいね」

 二名はシュテラに柔らかく言葉を返した。

 自分の存在がこの場を明るくした。その事実がシュテラを勇気づける。

「待ちくたびれてないもん。ちょっと、寂しかっただけだもん。遠いって…どれくらい」

「シュテラが心を飛ばせる距離の十倍くらいかな」

「そんなに遠く?」

「そうだよ。でもアナトールならそれくらいの距離、簡単に飛ばせたね」

 ザムゾンは少し遠い目をして、言った。

 アナトール。その名前はシュテラの父親の名前だ。

「父様?」

「そうだよ」

「スゴいのね」

「アナトールはスゴイ術者だった。それにとても優しい人だったんだ。憶えているだろう」

 ひとつひとつを噛み締めるように言う。

 ザムゾンの言葉で、シュテラの脳裏を寡黙だけど優しくて病弱な男性の姿が浮かび上がった。 

 他の人がどう言おうとシュテラにとっての父親の姿はそれだ。だがシュテラやザムゾン以外の人には違う。

「うん。憶えている。でも…」

 シュテラは答えた。他の人が父のことをどう見ているのか、ザムゾンに言おうかどうしようか迷った。言ったらザムゾンが悲しむかも知れないと思う。でも言ってしまいたい。

 この前ザムゾンと再会した時には、父に対する神殿の人の複雑な気持ちを察しても、どう表現していいのか判らなかった。自分の感じ方と他の人の感じ方に、違いがあるという事だけしか判らなかった。 だが、今はその気持ちがどういうものなのか判っている。ザムゾンの不在の間にシュテラは人の心の複雑さを理解できるほど成長していた。

 だから、今までは悩まなかった事が悩みごとになる。ローザには事あるごとに相談したが、「『唄う鳥』という異質な存在は、人には理解できないのよ」とか何とか言って答えにならない答えしか出してくれなかった。

 知識は教えてくれるが、人としての考え方は教えてくれない。

 沢山の人の人生を見てきただろうから。もっと色んな人生について話してくれてもいいと思うのだが、ローザは子供にはまだ早いと、父を含めて歴代の『唄う鳥』…シュテラの先祖に当たる人たちの話もあまりしてくれない。

 それに、そもそも竜が人間の社会に関して理解できるかと言えば無理だろう。

 人としての悩みを吐き出しても「人は大変ね。私はそうは思わないけれど…」と返されて終りだ。

だからこういう事はザムゾンにしか相談できない。言いたくてもじもじしているとシュテラの言葉をザムゾンが促した。

「でも?」

「でもね。他の人には父様…優しくなかったみたい」

「そんな事ないよ。優しかった。この国民、みんながどうしたら幸せになれるか、悩み考えた優しい人だった」

 ザムゾンが力強く言っても、シュテラは納得できなかった。他の人が考えるアナトール像は全く違う。

「でもでもでも…神殿を何度も焼いたって聞いた。神殿の人が何人も死んだり怪我したって聞いたわ。それは嘘なの」

「それは本当の事だ」

「じゃあ…」

「シュテラ。よく聞いて。アナトールがこの国の人を害したからと言って、彼が優しくなかったわけじゃない。彼はこの国の国民を救うために、そんな風になってしまったんだ」

「それって、どういう事?」

 ザムゾンの言うことの意味が判らない。

 シュテラが首を傾げると、ザムゾンは沈黙して少し考えるような瞳をした後、慎重に口を開く。

「隣の国と戦争をしていた事は知っているよね」

「うん。歴史で習った。11年前に休戦協定を結んだって」

「その前の事は?」

「えっとね。たくさん戦いがあったの…」

 ザムゾンの話したい事は判らなかったが、シュテラは歴史の勉強をした成果を見せるチャンスとばかりに話はじめた。

 彼女は暗記が得意だ。年表と戦いの名前とその場所。

「そうだね。スゴイなシュテラ」

 勉強の成果を知って、ザムゾンは素直に賞賛の言葉を述べた。彼の言葉はシュテラの心を輝かせる。

「いっぱいいっぱい勉強したのよ」

「ホントに偉い子だ」

 ザムゾンはご褒美というかのようにシュテラの頭を撫で、シュテラは気持ち良さそうに目を細めた。

「じゃあ。話やすいな。休戦協定をこの国に有利な条件で結べたのは、この国が強かったからだ。だけど、その強さはたった一人のお陰でもある」

「たった一人…って。父様?」

「そうだよ。シュテラ。彼が戦場に立つ前は、戦況ははかばかしくなかった。かの国は魔術の先進国だからね。戦場で苦戦を強いられたばかりか、国内も混乱していた。そんな中で状況を覆したのが、アナトールだ」

 ザムゾンは誇らしげに言葉を続けた。

「彼はローズと繋がり、竜の力を自在に操れる。シュテラ。君も訓練すれば、ローズの力を使えるようになる筈だ。伝説だけでなく、一夜にして国全体を焦土と化す力。だが、君にもうひとつの力が備わっている」

「もうひとつの力?」

「ああ。これは、本来の君の一族が持っている力…心を読む能力だ」

「心を読む能力?」

「そうだよ。シュテラは何度も経験しただろう。言葉に出さなくても、相手の思ったことが自分に伝わってくる感覚」

「……うん」

「アナトールはね。その力も強すぎた。彼は戦場に立っていても、敵・味方、どちらともの心が気持ちが伝わってしまうんだ。君には戦争というのが、どういうものなのか判らないと思うけれど…戦地は戦わなければ殺されてしまう場所だ。彼は戦うために…戦に勝つために自分自身に術をかけた」

「術?どんな?」

「人の事など構わず、周囲一体を焼き尽くす。人間兵器になってしまう術だ。戦場では敵の只中に入ることで味方に犠牲は出さなかったが…戦争は続いていても、四六時中戦っているわけではない。神殿に戻る必要もあった。彼には国の神事があったからね。だから、不安を抱えながらも神殿に戻り、神殿に戻っている間はその力が出ないように、何重にも封じの術で封じていた。でも、封じの術は完璧じゃない。僅かな亀裂でも入れば、彼は暴走した。『調停者』の持つ、自分の命を力に変えて封じの術くらい強力な術ならば押さえ込めるけど。その封じの術を使うと有能な術者の『調停者』が一人亡くなり、『唄う鳥』は封じの術が解かれるまで、自分では全く術が使えなくなる。ほとんどの魔力が使えなくなる。天候の予言も、危機の回避も無理だ。災害や病が大きくならないように、防ぐ事もできなくなってた。あの時、彼の不在は色々と不便なことを招くことだったんだ。この国がどれだけ『唄う鳥』に依存していたのかよく判るよ」

「でも…今は…私そんなにお仕事してないよ」

 シュテラの行っている事は月に一度、神殿内で行われる天候の予言と、祭りの際に国内で起こることの託宣だけだ。

 他は神殿のトップにいる神官達が様々な魔法のスペシャリストだから、彼らに任せておけばよいことになっている。

「ああ。そうだね。今はほぼ元通りになっている。アナトールが元に戻した。『唄う鳥』は元は、託宣以外の神事に関わっていなかった。で三十年前に流行り病が国の中で猛威を振るって、術を使える人が激減したため、アナトールがひとりで何でもするようになったんだ。『唄う鳥』は竜に繋がり、不死の力を有する。絶対に死なない人に大事な事をお願いしておけば、国からは失われないだろうってわけ。託した時はみな必死で、それしか選択肢がなかったのかも知れないけれど。平和になってからも、ずっと彼ひとりに色んな事を押し付けていたのは間違いだった」

 怒った声でザムゾンが言った。その声にシュテラは驚く。温厚で優しい彼の顔しか見てなかったからだ。だけど、その言葉でザムゾンがどれだけシュテラの父を理解し大切に思っていたのか判る。

 ザムゾンの言葉の全てをシュテラは理解できなかったが、相応の理由があって父は危ない力を手に入れ、それによる事故を何回も起こしたという事は判った。

「アナトールが起こした大きな暴走は三度。三回、神殿内部は丸焼けになったという訳。そして、調停者も三回替わった」

 切ない瞳をしてザムゾンが言葉を続ける。

「休戦調停を結んで、和平協定による平和が訪れて。もう大規模戦闘が行われなくなったと確信した時、彼は一番確実な方法でその力を封じたんだ」

「一番確実な方法?」

「どうしたと思う?」

「わかんない」

「『唄う鳥』そのものの力を手放したんだ」

「『唄う鳥』の力…」

「自分では、平和な世界を築けないとアナトールは思っていた。戦争しか知らないし。戦の中でしか生きられなかった。彼は戦時下に生まれ、人生の半分を戦場で過ごしたんだ。いつか来る平和を夢見て。だから未来に力を託した」

「それって…私?」

「そう。シュテラ。君にその力を渡した。君はアナトールと同じ道を歩いてはいけない。彼とは違った『唄う鳥』にならなければならない。判るかな?」

 突然、自分の事を言われ、シュテラはビックリする。父のおかれた状況も違えば、今の時点でやっている事も異なっている。アナトールと同じ『唄う鳥』にはなれないことは明白だが、ザムゾンがこのままの自分で良いと言っているのか判らない。

 いや。話の流れで考えると父から未来を託されたシュテラは、彼の希望に沿うような働きをしなければならないという事だ。

 ザムゾンの言葉は偉業を果たさなくてはならないと言われているように聞え、シュテラは困った顔をした。

「何だか難しそう」

「そんな事ない。簡単だ」

「かんたん…なの?」

「ああ。シュテラ。アナトールのことを思い出してご覧。彼はシュテラにどうして欲しいと言ってた?」

「わかんない。だって父様、私に出来ることしか言わなかったもん」

「それでいいんだ。シュテラの父様はシュテラに毎日どう過ごしなさいって言ってた」

「…毎日、元気で楽しく過ごしなさいって言ってた。みんなと楽しく過ごせるには、どうすればいいか考えなさいって」

「ちゃんと憶えているじゃないか」

「でも…そんな事。『唄う鳥』じゃなくても出来る。私には私だけにしか出来ない事があるんでしょう。それがこれだって思えない」

「すぐに判るようになる。そのまま真っ直ぐ伸びていけばいいんだ。君の望みが夢が、この国の未来を作る」

「私の夢……」

 話をしながら、シュテラは自分の夢を思い出した。

「あのね。私、夢があるの」

 シュテラが言うとザムゾンは嬉しそうな顔をした。そっか。こんな事でいいのか。自分は自分のままで、ありのままの自分でいいのか。シュテラはそう感じ、どんどん元気になっていく。

「どんな事?」

「旅に出たいの。この神殿から出て色んな人に出会って色んな場所に行きたい。おじさまが話してくれた、外の街のお菓子や料理…屋台の料理も食べたいし…野宿もしてみたい。おじさまとローザと一緒に」

 シュテラは、チラリと上目使いにザムゾンを見た。シュテラが望んでいるのは、平民と同じように旅をする事なのだが、それは彼女にとっては難しい事だ。子供だという事もあるが、大切に護られ、ほとんど神殿の外に出る事すら難しいのだ。これから状況が劇的に変化するとは今のシュテラには思えなかった。だけど。夢を諦めることも出来ない。

「……無理だと思う?」

 尋ねるとザムゾンは首を横に振った。

「いや…そんな事ないよ。実現させるにはかなりの苦労と努力が必要だけど、シュテラがそうしたいってずっと思っていたら、きっと叶う」

「ほんとうに?」

「本当だとも。ローザもいいだろう」

「まぁ…旅くらいなら、いつでも直ぐにでも私が出してあげていいわよ」

 楽しそうにローザが言うと、ザムゾンは慌てた。

「ローザ。力押しで勝手に出ていく事は勧めないで下さい。僕は正攻法で、周囲に認められた状態で、シュテラを旅に出してあげたいんです」

「そう。なら、貴方達で頑張ることね。私はことの成り行きを観察することにするわ」

 少し呆れたようにローザが告げると、ザムゾンはあからさまにホッとした顔をした。

「ええ。ありがとうございます。シュテラ。僕と一緒に夢を叶えよう」

彼が言うのならば確実だ。心強い援軍を得てシュテラの顔がこれ以上ないくらいに輝く。

「うん。ありがとう。おじさま。いつか一緒に旅にでようね」

 シュテラは約束というように、彼の胸にキュッとしがみついた。

 家族の存在をしっかりと感じながら、シュテラはいつ叶うともない夢を、再び心に刻み付けた。




やっと終わりました~


長くかかってしまって申し訳ありません!!!



少しでも楽しんでもらえたら幸いです。



他の話はもう少しお待たせしないで、書きたいです(切望)


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