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中編

ずいぶん永い間、更新できませんでした。

申し訳ありません…そして、終わりませんでした。

ごめんなさい!!次には終わります



 ザムゾンの瞳はシュテラを慈しむ光に満ちあふれている。

 体つきは記憶にある彼より少し小さくなっているようだし、彼のまとう力の波動が少し変った気はするが、彼女を見る瞳や彼の持つ根源的な存在感は変わらない。

 変ったとすると、シュテラ自身も同じように変化している。

 シュテラの持つ全ての能力を持って彼を観察したが、記憶の中の彼とは大きな違いは認められなかった。

 何もどこも変わっていない。

 別れた日のままのザムゾンである事を実感して、シュテラは安堵する。

 嬉しくなってくる。

 ついつい頬が微笑みで緩みそうになる。

 だがシュテラはそれを必死で抑え、険しい…怒っているように見える表情を作った。

 出会い頭にザムゾンが口にした言葉は、彼女には聞き逃せない言葉だからだ。

 シュテラは強い瞳でザムゾンを見つめると、口を開く。

「おじさま。その呼び方はイヤ。止めて!」

 キッパリと言い切った。

「…そういう訳にはいかないよ」

 ザムゾンは困った顔のまま、微かに笑みの気配を忍ばせ、シュテラの言葉をすぐさま否定する。

 その様子は自分の言葉がまるで本意ではないようだ。多分、そうなのだろう。

「私の事、シュテラって呼んで。じゃなきゃ。ダメ」

 シュテラがそう断言すると、ザムゾンは頬を緩ませた。

 瞳に溢れる愛情。

 大切な子供を見るような瞳でザムゾンはシュテラを見つめた後、気まずそうに目を逸らした。

「本当ならば、僕は君に会える身分じゃないんだ。こんな風に気軽に話す事もいけない事なんだよ。突然全部は出来ないだろう。だから段階を踏んで…」

 まるで自分に言い聞かせるようにザムゾンは呟いた。

「身分が何よ!」

 ザムゾンの言葉を遮るように、シュテラは叫んだ。

 一歩も譲らない意思表示。

 拒否せず受け入れたら、彼は少しずつ自分との距離を広げていくだろう。

 身分が違う。

 それだけの理由で。シュテラから離れていく。

 いつか手の届かない遥か遠くまで彼が行ってしまいそうだ。

 その不安を吹き飛ばすように、自分自身に言い聞かせるように、シュテラは頑なな態度を取った。

 自分さえ折れなければ、多分ザムゾンは離れていかない。

 彼が本心からそれを望んでいる訳ではないはず。

 自分の傍を離れたい訳じゃないはず。

 シュテラはその事を確信していた。

 頑なな態度を取った時の彼は、いつも困った顔をしながら何処かしら嬉しそうだからだ。

 そしてそれは今もそう。

 シュテラは駄々をこねる子供のようにふくれっ面をした。

 屋敷の誰にも見せない顔で言葉を繋ぐ。

「おじさまは、私が赤ん坊の頃から私の世話をしてくれて、私のことをよく知ってくれている…えーっと。あの…ほら、乳母みたいなものでしょう?貴族にはよくある事だって言われたわ。母君がご多忙だったりお体が弱かったりしたら、平民から乳母をお願いするのよ。乳母ってよくある事よね」

「確かに乳母はよくある制度だけど…」

「でしょ。それに乳母だったら、成人してからも近くに住んでいる事もおかしくない。正式な場所に出れない事は仕方ないけど…でも、一緒の屋敷に住まう事は何もおかしな事じゃないわよ。ねぇ…おじさま。違うかしら?」

「乳母…か。シュテラが赤ちゃんの頃から世話をしたのは確かだし、やってた事を考えれば同じ事だが…」

「でしょう。そうでしょ?」

 ザムゾンがシュテラの言葉に絆されてきたのを感じ、シュテラは表情を柔らかくして甘えるように上目使いに見る。

「まぁね。僕がやってきた事は、そうとも言えるな」

「ねぇ。だから、二人だけの時はいいでしょう?むかし通りでも」

「驚いたな…ずいぶんと賢くなった。僕の降参だ。君の言う通りだよ。シュテラ」

 とうとうザムゾンは諦めたような困った笑いをして彼女の名を呼んだ。

「おいで。シュテラ」

 ザムゾンが腕を広げる。

 受け止めてくれる大きな手の前で、シュテラも精一杯小さな腕を広げてザムゾンに抱きついた。

「おじさま…おかえりなさい」

 どう返事されるか試すようにシュテラは言った。囁くように告げた言葉は震えていた。

 さっきまで強気だったが、今のはちょっと自身がない。自分にとって彼は家族同然で、他には家族と思える人はいないが、ザムゾンは違うからだ。

 元々街で暮らしていたし、新しい家族を外に作った可能性も無いとは言えない。

「ただいま。シュテラ」

 不安の渦巻くシュテラの頭上から、柔らかいザムゾンの声が降り注ぐ。

 広い胸はシュテラを包み込み心の底まで温めていく。

 この腕が近くにある。心も以前と同じように傍にいる。それだけでシュテラは満足だった。

 無意識のうちに、シュテラの目元からじわりと涙がにじんできた。

 慌てて止めようとしたが、水滴はシュテラの意思に反して止まってはくれないどころか、堰をきったかのように流れてくる。

 泣いている事を知られたくなくて、こんな姿を見られたくなくて、シュテラはザムゾンの胸…体格差から、やや下の腹部に近い部分だが…に咄嗟に顔を押し付けた。

「どうかしたの?シュテラ」

 無用な心配をさせたくなくてシュテラは努めて明るい声を出した。

「ううん。何でもないの」

 だが、返事をする声は濡れていて、泣いている事は明白だ。

「シュテラ……」

 戸惑うようにザムゾンは名前を呼び何かを言いかけ口を開いたが、小さくため息をつくと無言でシュテラの頭から背中を撫ではじめた。

 二人とも言いたい事も聞きたい事も沢山あった。だけど、今は言葉は必要なかった。

 シュテラの目から涙が枯れるまで、ザムゾンは彼女を慰撫するように撫で続けた。




「二人とも私の事忘れているわよ」

 麗らかな声が天井から降ってくる。

 ザムゾンが声のした方向を向くと、小さな竜…ローザが翼を羽ばたかせ、シュテラの肩にふわりと留まる。ザムゾンと真っ直ぐ顔をつき合わせるような格好になり、ザムゾンはローザを見た瞬間、満面の笑みを浮べた。

「帰ってきても。私に挨拶ひとつもないのね。薄情だわ」

 ザムゾンの笑顔を尻目にローザは皮肉を口にする。

 鱗に覆われた厳つい顔や、心を見透かすような赤い妖しい瞳は、見た事の無い者には異形の存在でしかないが、ザムゾンとシュテラにとっては見慣れて家族同然の存在だ。

 黙っていれば宝物殿にある彫刻のような、作り物めいた姿形も、しゃべり始めれば豊かな感情と表現力を持っている事も判っている。

 だから機嫌を損ねると、元に戻すのも難しいと充分判っている。

 ザムゾンは慌てた表情をして、口を開いた。

「そんな事ないですよ。ちょっと緊急事態だっただけです」

「見ていれば判るけれどね」

 ローザはザムゾンの顔を見て楽しそうに言った。

 本気で気分を害したのではなく、からかわれただけだと知って、ザムゾンは大きくため息をつき肩を落とした。

「相変わらず、手厳しい」

「これは意地悪よ」

「どうして、また?」

「判っているでしょう。シュテラに寂しい思いをさせているから」

 ローザがそういうと、俯いたままのシュテラの体がピクッと動いた。

 ザムゾンもローザもシュテラの方を見たが、ローザは何も見なかったような様子で続ける。

「ホントは、もっとヒドイ意地悪をしたい気分でいっぱいなのだけど…それはシュテラが嫌がるだろうから。これくらいで許してあげるわ」

「僕が不甲斐ないばかりに苦労をかけます。申し訳ない」

 ザムゾンはシュテラをチラチラと見ながら、大人しく謝った。

「あなたに甲斐性があるとは思っていないけどね。…この娘、あなたが居ない間、ひとりですごく頑張ったの。それだけは言っておきたくて」

 ローザが楽しそうに告げると、シュテラが突然顔を上げた。

 肩に留まるローザを顔を真っ赤にして怒った瞳で射るように見る。

「ローザ!余計なこと言わないで」

 瞳は潤んだままで、瞼には細かい水滴がついた状態で睨んでみたところで可愛いだけだが、シュテラ自身はそんな事はお構いなしで言い切った。

「まぁ…シュテラったら強がりばっかり」

「ローザ!」

 ローザが茶化すように言うと、シュテラは尖った声を上げた。

「まぁまぁ。シュテラ。ローザ。落ち着いて。判ってます。シュテラが頑張っている事は…ここに来るまでに、調停者殿とも話しましたし…シュテラが立派な態度で生活しているって聞いてます。偉かったね。シュテラ」

「おじさま」

 ザムゾンが褒めるとシュテラ怒った顔は瞬時に柔らかくなる。

「それもこれも、あなたと一緒にいたいからなのよね。次の調停者になるのでしょう。勉強は進んでいるのかしら?」

 嬉しそうな顔をしたシュテラの横でローザが問いただすように言った。過去ザムゾンがその可能性を口にした事はある。

 出自には関係なく能力だけが問われ、そうなれば『唄う鳥』と一緒にいなければならない職業だ。

 そして調停者であるという事、それがどんな高位の貴族よりも尊まれる。

 『唄う鳥』と同じく国の要という位置づけをされている。皇帝や皇太子のその下に配される。

 だが、ザムゾンの有する能力は高くはなく、調停者ほどの術者になるためにはかなりの困難が予想された。

 シュテラとしては、ただ彼と一緒にいられれば良かった。

 だから、そんななれるかなれないか判らないものよりも、彼である事が傍にいる意味になる「育ての親」…乳母という理由の方が簡単のようにも思えたのだ。

 シュテラの考えを立証するかのように、ザムゾンは視線をさまよわせる。

「それは…えーっと…まだ…」

「ダメね。そんな事じゃ。待ちくたびれてしまうわ」

 嘲笑うようにローザが言う。その言い方にはシュテラがカチンときた。

「ローザ。私そんな事、思ってない」

 怒った声でシュテラが言うと、楽しそうにローザが返した。

「思ってもいないの?」

「……ぅ…」

 ローザに真っ直ぐ聞かれると困る。

 思っていないと言ってはみたものの、本心では思っている。

 でも大好きな彼を苛められるのは嫌なのも確かだ。

「我がまま言っちゃダメなんだからね。おじさまを困らせるローザは嫌い」

「そう。じゃ…」

 ローザは冷たく返すと、翼を広げ飛び上がる。

「私はシュテラから嫌われたから、この子の肩に乗るわね。いいでしょ」

 優美な動きでザムゾンの肩に飛び乗る。

 あんなに責められ苛められたのに、ザムゾンは嫌な顔ひとつせず、瞳に誇らしげな色を浮べ、嬉しそうに微笑んだ。

「それは…まぁ…」

 ザムゾンを庇ったシュテラだけが浮いた形になる。仲間はずれにされたような気になり、シュテラの感情は頂点に達した。

「おじさまも嫌い」

 シュテラはザムゾンの体を強く押し、距離を置く。踵を返してそのまま走り出しそうになる。

 背中を向けたシュテラの腕をザムゾンは掴んだ。

「シュテラ。嫌わないで。嫌われたら、僕かなしいよ」

 ザムゾンの哀しそうな声を聞いて、シュテラは立ち止まる。

「かなしい?」

「うん。哀しい。許してくれないかな?」

「許さない訳じゃないけれど…」

「あっちへ行こうか。ゆっくり話そう」

「……うん」

 ザムゾンはシュテラの手をしっかり握って歩き出した。シュテラもそれに従う。

 部屋の奥へとザムゾンは進んだ。

 ザムゾンは窓の前に肩に担いでいた荷物を置き、シュテラが外を見るために持ってきた椅子に座ると、シュテラを抱き上げ向かい合わせに膝に乗せる。

 ザムゾンの肩にはローザが乗ったまま。

 シュテラが見上げるとザムゾンの顔とローザの姿が目に入った。

 待ちかねていた時間が訪れていた事に、ふと気がつく。

 家族がそろった。それを改めて実感する。

 仕切りなおしとでも言うかのように、ザムゾンは表情を改めると笑顔を浮かべる。

 そしてシュテラの望んでいた言葉を告げた。

「独りにしてゴメンね。色々いっぱい我慢しただろう。シュテラが良い子でいて、僕は嬉しいよ。しばらく滞在出来るから、いっぱい話そう。いっぱい遊ぼう」




大変ながく更新を休んでいてスミマセン!!!

年末からしばらく忙しかったのもありますが、今まであまりにも考えずに書いてたなぁ~と反省して、今後の展開で悩んでいました。

なかなかまとまらず時間だけが経って、悩んだ割りに出来はよくありませんが…

今後はもう少し悩むクセをつけて行こうと思います。

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