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リリアと天使の羽 〜羽ばたく願いと風の奇跡〜   作者: たくわん。
第11章(最終章) 空っぽの本屋さん
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第46話「空っぽだから、生まれるもの」(最終話)



一週間が過ぎた。


リリアは、いつものようにシルバーペン書店へ向かって歩いていた。


石畳の道。風が、リリアの髪を撫でていく。


秋の空気が、少しずつ冷たくなってきている。木の葉が色づき始め、風に揺れていた。


――もうすぐ、かな。


リリアは、そっと思った。


――この人たちの願いが、叶う時が。


リリアの胸が、少し温かくなる。


でも同時に、微かな寂しさも感じていた。


――また、誰かとお別れするんだ。


――また、記憶が消えていくんだ。


でも、それでいい。


リリアは、小さく微笑んだ。


-----


カランコロン、と鈴が鳴る。


店内に入ると、エリオとカイが並んで座っていた。


二人とも、机に向かって何かを書いている。


ペンを走らせる音。原稿用紙をめくる音。


静かで、でも確かな音。


リリアは、二人の後ろ姿を見て、そっと微笑んだ。


「こんにちは」


二人は、振り向いた。


「あ、リリアさん!」


「いらっしゃい」


カイは嬉しそうに手を振り、エリオは穏やかに微笑んだ。


リリアは、二人の隣に座った。


「書いてるんですか?」


「はい!」


カイが、元気よく答えた。


「エリオさんに教えてもらいながら、書いてます!」


-----


エリオは、少し照れたように笑った。


「教えるなんて、大したことはしていませんよ」


「ただ、一緒に書いているだけです」


エリオの机の上には、文字で埋まった原稿用紙が積まれていた。もう、空っぽじゃない。言葉が、そこに生まれている。


リリアは、その原稿用紙を見た。


「たくさん、書いたんですね」


「ええ……」


エリオは、自分の手を見た。


「不思議なんです」


「一週間前まで、あんなに怖かったのに」


「今は、ペンを握るのが楽しくて」


エリオは、リリアを見た。


「リリアさんのおかげです」


「あなたが、風を吹かせてくれたから」


-----


カイも、原稿用紙を見せた。


拙い文字。でも、一生懸命書いた跡がある。


「俺も、書いてます!」


「まだ下手だけど……でも、楽しいんです」


「自分の中にあるものを、言葉にするのって」


カイの目が、輝いていた。


「自分の物語が、少しずつ見えてきた気がするんです」


リリアは、二人の表情を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「二人とも……いい顔してますね」


「え?」


「笑ってる」


リリアは、窓の外を見た。


「心から、笑ってる」


-----


風が、吹いた。


窓の外で、木の葉が舞っている。


エリオは、リリアの横顔を見た。


優しい笑顔。でも、どこか遠い。


「リリアさん」


「はい?」


「あなたに、読んでもらいたいんです」


エリオは、原稿用紙を手に取った。


「私が書いた物語を」


リリアは、少し驚いたような表情を見せた。


「私に……?」


「ええ」


エリオは、原稿用紙をリリアに差し出した。


「リリアさんの物語を、書いたんです」


-----


リリアは、原稿用紙を受け取った。


最初のページに、タイトルが書かれていた。


**『風の少女』**


リリアは、ゆっくりとページをめくった。


そこには、リリアのことが書かれていた。


願いを運ぶ風。


記憶を失いながらも、誰かの笑顔を求めて歩き続ける少女。


優しくて、寂しくて、でも強い少女。


リリアの目が、潤んできた。


「エリオ、さん……」


「読んでいて、気づいたんです」


エリオは、静かに語った。


「物語は、誰かのためにあるんだって」


「誰かを覚えているために、あるんだって」


「リリアさんが忘れても、私たちが覚えている」


「それが、物語の意味なんだって」


-----


カイも、自分の原稿用紙を差し出した。


「俺も、書きました!」


「リリアさんとの出会いを!」


カイの原稿用紙には、拙いながらも真っ直ぐな言葉が並んでいた。


リリアと出会ったこと。


リリアがくれた言葉。


リリアの優しさ。


全部、そこに書かれていた。


リリアは、涙を堪えきれなくなった。


「二人とも……」


「ありがとう」


リリアの声が、震えていた。


「私……嬉しい」


「こんなに嬉しいの、初めてかもしれない」


-----


エリオは、リリアの手を優しく握った。


「リリアさん」


「あなたは、風かもしれない」


「でも、私たちにとっては大切な人です」


「忘れません」


「絶対に、忘れません」


カイも、リリアの手を握った。


「俺も! 絶対忘れません!」


「リリアさんのこと、ずっと覚えてます!」


リリアは、二人の手の温かさを感じた。


――ああ。


――これが、繋がりなんだ。


――物語が、人を繋ぐんだ。


-----


その瞬間。


エリオの胸が、淡く光った。


光は小さく、でも確かに――胸から溢れ出ていた。


温かい光。優しい光。それは輝きながら、形を成していく。


羽だった。


銀色の羽。


真実を映す、透明な銀。


羽はエリオの手を離れ、空へと浮かんだ。


「これは……」


エリオは、息を呑んだ。


-----


カイの胸も、光り始めた。


同じように、銀色の羽が生まれる。


自分の物語を見つけた、銀色の羽。


二つの羽が、空へと昇っていく。


風が、それを優しく運んでいく。


店内に、柔らかな光が満ちていた。


リリアは、その光景を静かに見守った。


「願いが……叶ったんだよ」


リリアの声が、店内に響く。


-----


エリオは、自分の手を見た。


ペンを握る手。


もう、震えていない。


「……私の願いは、もう一度物語を書くことだった」


「でも、本当の願いは……」


エリオは、リリアを見た。


「誰かと繋がることだったんだ」


「物語を通じて、誰かと」


カイも、自分の胸に手を当てた。


「俺の願いは、自分の物語を見つけることだった」


「でも、本当は……」


カイは、リリアとエリオを見た。


「こうやって、誰かと一緒にいることだったんだ」


-----


二つの羽が、天へと昇っていく。


窓の外で、風が優しく吹いている。


リリアは、少し眠くなった。


――ああ、また……。


リリアの中で、何かが消えていく。


遠い昔の記憶。


誰かの笑顔。誰かの歌声。


でも、それが誰だったのか――もう思い出せない。


リリアの体が、少しふらついた。


「リリアさん!」


エリオとカイが、リリアを支える。


「大丈夫……」


リリアは、微笑んだ。


「ただ、少し……眠いだけ」


-----


エリオは、リリアを椅子に座らせた。


カイは、心配そうにリリアを見つめている。


「記憶が……消えたんですか?」


「うん……」


リリアは、小さく頷いた。


「でも、大丈夫」


「また、誰かの願いが叶ったから」


「それで、いいの」


リリアは、二人を見た。


「エリオさん、カイくん」


「二人とも、ありがとう」


「素敵な物語を、見せてくれて」


-----


エリオは、リリアの手を握った。


「リリアさん……もう、行ってしまうんですか?」


リリアは、静かに微笑んだ。


「うん」


「風は、止まらないから」


「また、次の場所へ行かなきゃ」


カイは、涙を堪えていた。


「……会えなく、なっちゃうんですか?」


「わからない」


リリアは、カイの頭を優しく撫でた。


「でも、風はどこにでも吹くから」


「もしかしたら、また会えるかもしれないよ」


-----


リリアは、立ち上がった。


少しふらつく体。でも、ちゃんと立っている。


「私、行くね」


「リリアさん……」


エリオは、何か言いたげだった。


でも、言葉が見つからない。


リリアは、扉へ向かった。


「エリオさん」


リリアは、振り向いた。


「これからも、たくさん物語を書いてね」


「誰かのために」


「自分のために」


「物語は、誰かを繋ぐから」


エリオは、涙を拭った。


「……はい」


「約束します」


-----


「カイくん」


「はい!」


「あなたの物語、楽しみにしてるね」


「きっと、素敵な物語になるから」


カイは、大きく頷いた。


「書きます! 絶対書きます!」


「リリアさんのこと、忘れないように!」


リリアは、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう」


「二人とも、本当にありがとう」


カランコロン、と鈴が鳴る。


リリアは、店を出ていった。


-----


外は、秋晴れの空。


風が、心地よく吹いている。


リリアは、空を見上げた。


青い空。白い雲。


銀色の羽が、まだ天へ昇っていくのが見えた。


「また……誰かの願いが、叶った」


リリアは、そっと呟いた。


「それでいいの」


「それが、私の物語だから」


-----


リリアは、歩き出した。


風に導かれるまま。


石畳の道を、ゆっくりと。


――記憶は、消えていく。


――でも、誰かの笑顔は残る。


――それが、私の物語。


リリアの心の中で、エリオとカイの笑顔が輝いていた。


――二人とも、いい顔してたな。


――あんな笑顔、見られて良かった。


-----


後ろから、声が聞こえた気がした。


「リリアさん! ありがとう!」


リリアは、振り向かなかった。


ただ、手を振った。


風が、その想いを運んでいく。


-----


シルバーペン書店では、エリオとカイが窓から手を振っていた。


リリアの姿が、小さくなっていく。


「……行っちゃったね」


カイが、寂しそうに呟いた。


「ああ」


エリオは、リリアが歩いていく方向を見つめていた。


「でも……きっと、また会える」


「本当ですか?」


「ああ」


エリオは、机の上の原稿用紙を見た。


「物語の中で、いつでも会える」


「私たちが書き続ける限り、リリアはそこにいる」


カイは、自分の原稿用紙を握りしめた。


「……そっか」


「だから、書くんだ」


「忘れないために」


-----


二人は、机に向かった。


ペンを握る。


新しいページを開く。


そして、書き始めた。


リリアの物語を。


出会いの物語を。


忘れないための物語を。


風が、窓の外で優しく吹いている。


空っぽだった本棚には、いつか物語が並ぶだろう。


エリオとカイが紡ぐ、たくさんの物語が。


-----


リリアは、街の外れまで歩いてきた。


見慣れた風景が、また遠ざかっていく。


――私の物語も、もうすぐ終わるのかもしれない。


リリアは、そっと思った。


――記憶が、ほとんど残っていない。


――自分が誰だったのか、もうわからない。


でも、それでいい。


リリアは、空を見上げた。


――誰かの笑顔が、残るなら。


――それが、私の物語なら。


風が、リリアの髪を撫でる。


リリアは、微笑んだ。


-----


「また、誰かが待ってるかな」


リリアは、小さく呟いた。


「願いを持った、誰かが」


風が、答えるように吹く。


リリアは、また歩き出した。


風に導かれるまま。


次の物語へ。


次の笑顔へ。


-----


空が、青い。


雲が、ゆっくりと流れている。


風が、優しく吹いている。


リリアの旅は、まだ続く。


記憶を失いながらも。


誰かの笑顔を求めて。


風は、止まらない。


願いを運び続ける。


それが、リリアの物語。


それが、風の物語。


-----


**――空っぽだからこそ、新しいものが生まれる。**


**――失ったからこそ、また見つけられる。**


**――それが、物語。**


**――それが、風。**



作者コメント


『リリアと天使の羽 〜羽ばたく願いと風の記憶〜』全11章、ここに完結です。

長い間、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

この物語は、「誰かの願いを運ぶ風」であるリリアが、様々な人々と出会い、彼らの願いが叶う瞬間を見守りながら、自らの記憶を失っていく――そんな切なくも温かい物語でした。

子供から老人まで、様々な年齢、様々な悩みを持つ人々。でも、みんな心の中に「願い」を持っていました。リリアは、その願いに気づかせる「風」として、ただそばにいただけ。答えを与えるのではなく、気づかせる。それが、リリアの優しさでした。

最終章では、「物語」そのものをテーマにしました。記憶を失っていくリリアを、誰かが物語として残す。それが、風を忘れないための方法なのかもしれません。

リリアの旅は、これからも続きます。記憶を失いながらも、誰かの笑顔を求めて。

読んでくださった皆様の心に、優しい風が吹きますように。

本当に、ありがとうございました。



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