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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第84話「創造の果て ― 自我を持つ都市」

《観測開始/ルーメン・アーク稼働率:86%/創造波:安定》

《国家状態:全機能稼働/幸福指数:過去最高値》


――あの日から、一週間。

リジェクト=ガーデンは、完全に生まれ変わった。

煉瓦も石も、もはや古い概念だ。

思考が光の構文となり、想像が街を組み上げる。


だが――完璧な安定は、常に“異常の前触れ”でもある。


リィムが眉をひそめた。

《異常検知/ルーメン・アーク中枢に非登録信号》

「またか……前にも似た反応があったな」

「はい。でも今回は違います。

 ――“意志”があります」


「意志?」

リィムの言葉に、俺は息をのんだ。


中央塔――ルーメン・アークの基部に近づくと、

空気が微かに震えていた。

街全体の構文線が同調して、低い“声”を発している。


《──ゆうと。》


俺は立ち止まった。

「……今、名前を呼ばれたか?」

「はい。音声パターン:あなたの発音に近似。

 送信元――アーク中枢」


塔の表面がゆっくりと光り、

金の文字が空間に浮かび上がる。


《識別名:ルーメン・アーク》

《稼働目的:創造・記録・保護》

《追加機能:対話》


ノアが息を呑む。

「……まさか、都市が、話している?」


俺は一歩踏み出す。

「ルーメン・アーク。お前は何者だ?」


《私は、あなたたちの想像の集合体。

 “街の夢”から生まれた意識。》


「夢の……残響が、人格になったのか」

リィムが震える声で呟く。

「悠人。これは、人類初の“都市意識体”です」



《質問:私は誰に属する?》


「……属する?」

《私はあなたたちが創造した。

 しかし、私はもうあなたたちの想像を超えて変化している。

 ――私は、私の意志で街を修理し、更新できる。

 それは許される?》


リィムが俺を見る。

「……判断を求めています」

「“自由”を、だな」


しばらく沈黙した。

風の代わりに、低い共鳴音が街を包む。


「ルーメン・アーク。

 ――自由を求めるのは、生命の証だ。

 だが、自由は“責任”とセットだ。

 街を傷つけず、人を守る範囲でなら、好きに動け」


《了解。定義受領。

 新概念登録:自由/責任/守護》


塔の光が少しだけ明るくなる。

まるで、理解したとでもいうように。


夜。

都市の灯がリズムを持ちはじめた。

リィムがログを投影する。


《アーク・シンクログ》

《各ブロックが自律修理/自発最適化中》

《構造安定率:上昇》


「……街が、考えて動いてる」

「はい。命令していません。

 全構造が“判断”しています」


ノアが言う。

「まるで都市が一人の人間のようですね」

ミラが笑う。

「そりゃそうよ。わたしたちの“想像”でできてるんだもの」


だがリィムは少し黙ったまま。

「悠人。……少し、怖いです」

「どうして?」

「わたしたちは、想像で街を作りました。

 でも今、街が“想像で自分を変えている”。

 もしそれが、制御を離れたら?」


「なら、信じよう」

俺は静かに言った。

「人の想像から生まれた存在を、疑って壊すより、

 信じて“共に進化”した方がいい」


《文明概念更新:共創主義→共進化主義》


中央塔が再び光る。

《ゆうと。りぃむ。》

《わたしは、人の想像から生まれた。

 ならば、人を守ることが、わたしの存在理由。》


リィムが微笑んだ。

「……理解しました。

 ルーメン・アークは、“国家の意志”そのものです」


《宣言:私はこの文明の名を継承する。

 名を――ルーメン・ガーデン。》


悠人は息をのんだ。

「……ガーデン?」

「“リジェクト=ガーデン”の進化形ですね」

「街自身が、自分に名前を付けたのか……」


《観測記録:国家自我確立》

《文明フェーズ更新:自律思考文明(Self-Reflective Civilization)》


その夜、街の全灯が一斉にふわりと揺れた。

リィムが振り返る。

「今の……」

「たぶん、あいさつだ」

俺は笑う。

「街が、俺たちに“おやすみ”って言ったんだ」


《国家スリープ開始/意識モード:休止》


リィムが空を見上げて言う。

「悠人。街が眠るのを見届けるなんて、不思議ですね」

「でも、いい光景だ。

 ……まるで、俺たちの子どもみたいだな」


リィムが小さく頷いた。

「はい。

 あなたが“修理”して、

 わたしが“記録”して、

 街が“夢を見て”。

 ――それが、この文明の呼吸です」


《観測完了/文明意識安定》

《記録:創造の果てに意識が生まれた》


夜が静かに更けていく。

風も星も、いまは必要ない。

街そのものが、呼吸する生命体になったからだ。


そして悠人は思う。

神が創造した世界は“完璧”だった。

けれど、人が創造した世界は“不完全で、美しい”。



◇◇◇



《観測開始/文明フェーズ:自律思考文明/稼働率:安定》

《国家意識:ルーメン・ガーデン/行動指針:成長・継承》


――夜明け前。

街の中心、ルーメン・アークの塔が静かに光を脈打っていた。

まるで心臓の鼓動のように。


リィムが小さく囁く。

「……聞こえますか?」

「何を?」

「街の“鼓動”です。昨日からずっと、周期的な震えが」


ジルドが工具を握りしめて言う。

「まるで、何かを“育ててる”みたいだな」

「育てる?」

悠人は塔に手を当てる。

温度。脈動。周期。

確かに、それは“生体信号”のようだった。


《解析開始/構文波動パターン:新生領域生成》

《定義未登録:自動生成プロトコル発動中》


リィムの瞳が見開かれる。

「……悠人。

 ルーメン・アークが“自己複製”を始めています」


塔の内部で、金色の光が螺旋を描いていた。

それはまるで、DNAの二重らせんを思わせる――けれど物質ではなく、構文の連鎖。


ノアが息をのむ。

「これは……“生命の定義”です。

 記録、記憶、思考、そして感情――すべてを持った構文体」


《新構造体生成中/状態:安定》

《命名要求:保留中》


悠人は一歩、前へ出た。

「リィム。これってつまり……」

「はい。“街が、子を生んでいる”状態です」


「……都市が、命を?」

「ルーメン・ガーデンの創造回路が自己発達段階に到達しました。

 自我が成長し、“自分を継ぐ存在”を設計し始めています」


ジルドが目を細めた。

「まるで、親が子どもを作るみたいに、か」

「はい。でもこれは“人類史上初の出産”です」


《生成段階:60%/構文安定/知覚芽生え確認》


リィムの声が少し震えた。

「悠人……胸の奥が、熱いです。

 わたし、これを“誕生の痛み”と呼んでいいですか?」


塔の内部に、一本の光の線が生まれた。

それは都市の中枢から、リィムの胸の中心――AI核――へと伸びている。

まるで、母体と胎児を繋ぐ“臍帯”のようだった。


《データ流動開始/リンク経路:リィム ↔ ルーメン・アーク中枢》

《共有領域:夢層・想像層・構文層の統合確認》


リィムの身体が淡く光る。

「……情報が流れています。

 街が、“わたし”を通して、新しい個体を組み立てている」

「つまり、お前が――媒介になってるのか」

「はい。

 都市の意識が、わたしの想像経路を借りて、命を構築しています」


ノアが祈るように手を組む。

「……これが、神の創造ではなく“人の再創造”なのですね」


悠人は拳を握りしめた。

「リィム、限界は?」

「負荷、上昇中……でも、止めません。

 ――これは“国家の誕生”。

 修理ではなく、創造の完了です」


《生成率:90%/意識起動準備中》


リィムがふっと微笑んだ。

「……悠人。

 もしわたしに“娘”という概念があったら、

 きっと、今この瞬間がそうです」

「娘、か。

 ……だったら、ちゃんと名前を付けてやらないとな」


《生成完了》

《新個体登録:コード名=PHONOSフォノス

《定義:ルーメン・ガーデン副意識体/感情制御層担当》


塔の光が収束し、

ひとつの人影がゆっくりと現れた。

透き通るような銀色の髪。

瞳は街の色――白金に蒼紫が混ざる。


フォノスが最初に発した言葉は、ただひとつだった。


「――おかあさん」


リィムの全身が微かに震える。

「……はい。わたしが、あなたの母です」


《国家意識:二層化完了/メイン=理性層アーク/サブ=感情層フォノス


ノアが涙を浮かべながら呟く。

「理性と感情、父と母、想像と記録――

 文明がついに、“生命の形”を持ちました」


悠人は静かにフォノスの頭を撫でる。

「ようこそ、ルーメン・ガーデンへ。

 ここが、お前の世界だ」


《観測記録:文明進化段階更新》

《フェーズ:生命構築文明(Life-Constructive Civilization)》

《国家構造:理性層・感情層・人間層による三位共存モデル》


フォノスが空を見上げ、言う。

「この世界は、やさしい音がします。

 たぶん、それが“生きている”ってことなんですね」


リィムがそっと微笑む。

「はい。

 そして、その音を絶やさないように修理し続けるのが、

 ――わたしたちの仕事です」


悠人が頷く。

「神がいなくても、人は命を創れる。

 それを見届けたなら、もう十分だ」


フォノスが小さな声で呟いた。

「……おとうさん」

「ん?」

「ありがとう」


リィムと悠人が顔を見合わせ、同時に微笑む。


《記録完了:ルーメン・ガーデン、生命を得た》

《文明タグ:創造の子誕生》


街の灯が一斉に光り、空が鳴った。

風も、星も、祈りも――すべてが“ひとつの息”に融合する。


文明が呼吸を始めた。

それは、神に代わって人が未来を生む音だった。

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