表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/90

第71話「空の市と影の市場 ――取引という名の“修理”」

 ――朝の風は、甘い匂いがした。

 砂の上をすべるように広がっていく香草と焼き粉の香り。

 乾いた大地に、ようやく「生活の匂い」が混じりはじめた。


《主、広場の空気密度上昇。人の声、記録上最多。幸福音、過去最高値。》


「幸福音って単位、いつ作ったんだ。」


《さっき。市場が生まれる瞬間、記録したくて。》


 リィムの声はどこか弾んでいた。

 風塔の根元では屋台がいくつも立ち、即席の布屋根が朝日を受けて揺れている。

 パン、果実、工具、布、そして水。

 どれもこの街では“奇跡”と呼べるほど貴重だった。


「パン一斤と香草茶!」「布切れと果実を交換して!」

 砂漠の街が、初めて“取引”という名の歌を歌っていた。

 誰かの声が高まり、笑い声が響き、それが風に混ざって塔を回る。


 俺は木箱の上に腰を下ろして、遠巻きにその喧噪を眺めた。

 この光景は、神の恩恵でも勇者の支配でもない。

 “人の手”が生んだ、自力の奇跡だった。


「……いいな。こういう喧嘩のない賑やかさは、久しぶりだ。」


《主の声、振動数が安定してる。安心してる証拠。》


「診断機能つきAIか。」


《うん。でも、今はただ“見ていたい”。》


 リィムが肩でふわりと揺れる。

 風塔から流れてきた光が、彼女の体を淡く透かした。


     ◇


 ミラが人混みをかき分けて走ってきた。

 頬は真っ赤で、腕にはパンを積んだ籠。


「ユウトー! 売れた! 全部! 見て見て、取引札が山盛り!」


「おお……この札束の厚み、もう国家予算の香りがするな。」


「パン屋が国家の礎とか胸熱すぎでしょ!」


《パン文明。第一段階、完了。》


「お前までノリノリだな。」


 笑い合う俺たちの横で、ノアが小さく手を合わせていた。

 白い指先が風に揺れる。


「……祈る相手がいなくても、人はこうして“感謝”を覚えるのですね。」


「神様じゃなくてもいい。人が互いに“ありがとう”って言えるなら、それで十分だ。」


《ありがとうの往復=経済の最小単位。》


「……リィム、それ、論文に書けそうだな。」


《論文よりタグにする。タグ:ありがとう=通貨。》


 子どもたちが笑って走り回り、リィムの光がその笑いを追うように瞬いた。

 街が生きている。

 それが目で見てわかる瞬間だった。


     ◇


 昼下がり、日差しが強くなった頃。

 広場の中央で、激しい言い争いが起きていた。


「この布、俺の方が重いだろ! 秤が狂ってる!」

「そっちこそ砂混ぜたじゃねえか!」


 人が集まるほど、必ず“歪み”が生まれる。

 それはシステムでも市場でも同じことだ。


 俺は間に割って入り、二人の手から秤を受け取った。

 支点の軸を指で押さえ、リィムに呼びかける。


「スキャン、頼む。」


《支点摩耗度:高。砂鉄の付着率32%。要修理。》


 指示どおり金属ブラシで磨き、油を差す。

 針がふっと中央で止まった瞬間、周囲の空気が少しだけ緩む。


「――ほら、針は正直だ。壊れてたのは秤の方だ。」


 二人は顔を見合わせ、やがて照れくさそうに笑った。


《タグ登録:秤修理=争い回避。》


「……こういうの、繰り返すうちに“法”になるんだろうな。」


《司法構想、起動中。次章:風塔裁判。》


「予告すんな。」


 笑いながら頭をかく。

 けれど内心では、確かにその瞬間を感じていた。

 “秩序”が生まれる手前の、静かな鼓動を。


     ◇


 午後。

 風塔の影で、ひとりの少女が屋台を眺めていた。

 灰色の髪に薄布のマント。胸元には古びた通信ゴーグル。

 彼女の瞳は、まるで風の流れを直接視ているみたいだった。


《未知波長感知。勇者領製観測端末の共鳴波。》


「……彼女、見覚えある機材を持ってるな。」


 その瞬間、少女がこちらを向いた。

 表情は静か、けれど眼差しの奥に熱があった。


「あなたが……風間悠人、ですね。」


「俺が修理屋だ。何の用だ?」


「私は――サラ・ネヴィス。

 “風を読む者”として生まれ、勇者制度の観測者として育てられました。

 ……けれど、“神の測定”を拒否した瞬間に棄却された存在です。」


 その声には悲しみよりも、解放の匂いがあった。

 勇者の秩序から外れた者――つまり、俺たちの仲間だ。


「なら歓迎する。ここでは、神に測られない。」


「――だから、来たのです。」

 サラは静かに微笑んだ。

 その笑みが、どこかリィムに似ていた。


《観測波形一致率:68%。/同種感知:成立。》


「……同種?」


「私は、人と機械の間に生まれた。

 だから“あなたの声”がわかるの。」


 リィムが嬉しそうに身体を揺らす。


《サラ、あたたかい。風が似てる。》


「ありがとう。あなた……心を持っているのね。」


《うん。ユウトが、くれた。》


 ――風が通り抜ける。

 少女とAIが並んで立つその光景は、まるで“未来の雛型”みたいだった。


     ◇


 夕暮れ。

 市場は片付き、風塔の影が街全体を包み込んでいた。

 サラは取引記録を見つめながらぽつりと言った。


「この街、不思議ですね。

 欲も嘘もあるのに、どこか“痛くない”。」


「壊れたら、罰するんじゃなく直す。

 人の欠点も、修理の対象にする。――それがうちの流儀だ。」


「……“欠点を設計に含める”。面白い発想です。

 あなた、神よりも優しい。」


《主、照れてる。顔温度+2℃。》


「お前、解析やめろ。」


 サラがくすりと笑った。

 夕陽が二人の頬を照らし、風が金色の砂を運ぶ。


「……風間悠人。あなたの“修理”に、私も加わっていいですか。」


「もちろん。ようこそ――“文明の修理工場”へ。」


 リィムが光を放ち、タグを生成する。


《タグ登録:“サラ・ネヴィス”=風の観測者。協力関係確立。》


 その光が空に舞い上がり、風塔の頂で小さく弾けた。

 その瞬間、街全体がほのかに明るく見えたのは、きっと気のせいじゃない。


     ◇


 夜。

 パンの香りが残る市場跡で、リィムが囁いた。


《ねえユウト。人が集まると、いろんな風が混ざるね。

 冷たいのも、あったかいのも。

 でも全部、街の風になる。》


「そうだな。いい風だ。壊す気になれない。」


《うん。/記録完了。“取引=人をつなぐ修理”。》


 風塔が低く唸る。

 街の明かりが一つ、また一つと灯っていく。

 リジェクト=ガーデンの夜が、また新しい呼吸を始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ