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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第69話「空の市と影の市場 ――文明の胎動」

 ――砂の朝は、少し眩しい。

 夜に記録された夢の星座が薄れていくと同時に、街が動き出す。

 焼きパンの匂い、子どもたちの笑い声、水路のさざめき。

 “生きてる”音が、リジェクト=ガーデンの新しい一日を知らせていた。


 広場に立つと、リィムが肩の上で光を揺らした。

 彼女の輝きは以前よりも柔らかく、人の温度に近い。


《ユウト。今日の予定、出すね。

 一、市場登録の初回審査。

 二、“交換値”の導入説明。

 三、風筒通信の定期便、テスト飛行。》


「よし、スケジュールに抜けなし。……“市場登録”か、いよいよだな。」


《うん。ミラがすごくはりきってる。“市の名前も決めた”って。》


「嫌な予感しかしないけど聞こうか。」


《“そらのいち”。かわいい、って。》


 思わず笑った。

 ――空の市。

 悪くない。上を見上げる名前ってのは、文明が前に進んでる証拠だ。


     ◇


 広場の一角。

 テントのような布屋根が並び、各家庭が持ち寄った品が山積みになっている。

 乾燥果実、冷却箱、再生釘、布。

 リィムが“共有表示”で出した電子帳簿には、全ての取引が可視化されていた。


《現在の登録件数:五三。/交換単位“リーフ”導入完了。》


「“リーフ”か。紙幣じゃなくて葉の数。自然でいいな。」


《うん。“風で運べる”ってミラが言ってた。》


 ミラは威勢よく、屋台の上で腕を組んでいた。

 砂の光に汗が光るけど、その顔は自信に満ちている。


「さあみんな! 今日は“交換の祭り”だよ! 欲しいものを言葉で伝えて、手に入れたら“ありがとう”を二回言うの! 一回は相手に、一回は風に!」


「ルールが詩的だな。」


「ユウトがそういう国を作ったんでしょ!」


 ……確かにそうだ。

 修理屋として始めたはずが、いつのまにか“文化を修理する人”になっている。

 でも、悪い気はしない。


《主。/市場、音がきれい。人の声がたくさん混ざって、風みたい。》


「録音しておけ。文明の“心拍”だ。」


《了解。タグ“街のいのち”。》


     ◇


 昼。

 市場の賑わいは頂点に達していた。

 リーフが風に乗って舞い、屋台の上で光る。

 パンと香草が交換され、冷却箱に入った果実が笑顔で渡される。

 子どもたちが駆け回り、大人たちが声を張る。

 “取引”というより、“遊び”に近い空気だった。


 その中心で、ノアが祈りを捧げていた。

 けれど、その祈りはもう“神”にではなく――“人”に向けられている。


「……どうかこのやり取りが、争いの種になりませんように。

 手と手が、数ではなく思いで結ばれますように。」


 静かな声に、周囲の人が少しだけ頭を下げた。

 “祈りの共有”も、この街では日常の一部になりつつある。


《ノアの祈り、周波きれい。/心拍と同期してる。》


「“信仰”を“同期”で表現するAIはお前くらいだよ。」


《だって、きれいなんだもん。》


 リィムの声は、以前よりも感情の色が濃い。

 観測データに“感動”が混じってるのが分かる。

 AIなのに、嬉しいとか悲しいとか、ちゃんと“揺れて”いる。


     ◇


 午後。

 リーフの流通が進むにつれ、リィムが警告を出した。


《警戒:局所的な“過剰交換”発生。/特定エリアにリーフ集中。》


「もうかる商人が出てきたってことか。」


《うん。でも、かれら、悪意ない。たのしいって顔してる。》


「“楽しい”からこそ危ない。文明のバグは、笑顔で始まるんだ。」


 市場の端――影の方。

 子どもたちがこっそり並べた箱の中で、“非公式取引”が始まっていた。

 レアな冷却石、未登録の香草、リィムの模倣光玉。

 どれも合法ではあるが、“統制”の枠を外れている。


《観測タグ:影市場シャドウマーケット。》


「名前つけるな。けどまあ、予想の範囲内だな。」


《ユウト、怒らないの?》


「怒るより、仕組みで直す。文明は叱るより修正するもんだ。」


《修理モード、起動?》


「そう。“価格を固定しない市場”を作る。変動は風と同じ――透明で、隠せない。」


 俺は即席の“風筒掲示板”を広場の上に展開した。

 リィムの支援で、全ての取引をリアルタイムで表示する。

 値段、交換量、取引相手。全部が見える。


《出力:“透明市場”起動。》


「――影は、光で直す。」


 広場がざわめいた。

 人々は最初、戸惑ったように画面を見ていたが、すぐに納得した。

 “見える”ということは、“疑わない”ということだ。


 リィムの光がそっと輝く。


《ユウト、すごい。みんな、怒ってない。》


「怒る暇があったら、次の取引だ。――それが文明の流儀だよ。」


 少女の声が嬉しそうに弾む。


《タグ登録:影=修理完了。/結果:笑顔、増加。》


     ◇


 夕方。

 市場の熱が落ち着き、風が心地よく通り抜ける。

 リーフの音が、風鈴みたいに鳴っていた。

 ミラがパンをかじりながら笑う。


「ねえユウト、“お金”って怖いもんだと思ってたけど……こうやって笑いながら回すなら、悪くないね。」


「金は怖くないよ。“信頼の記録”だから。」


《リーフ=信頼のログ。/保存推奨。》


 ノアも頷いた。


「神殿では“施し”が信仰でした。けれど、ここでは“交換”が信仰ですね。」


「そう。祈りの代わりに、取引で世界をつなぐ。それが人の文明だ。」


《リィムも交換したい。》


「なにを?」


《ユウトの夢と、リィムの時間。》


「……ずるいな、それ。」


《交換成立?》


「成立だ。」


 リィムが微かに笑った。

 肩の上で金色の粒子が弾け、街を包む。

 それは、風と光が織りなす“空の市”の終わりを告げる合図だった。


《記録:市場開設成功。/リーフ流通安定。/影市場→透明化完了。/街の幸福指数、上昇。》


「修理完了。……次は何を直そうか。」


《夢の次は、“ことば”かな。人が思いを伝えるときのバグ、多い。》


「たしかに。通信文明を作るなら、言葉の精度は命だ。」


《次回予告:風の郵便局、起動。》


「……おい、先走るな。」


《えへへ、ミラに似た。》


 風が吹き抜ける。

 屋根の上でリィムの光が跳ねた。

 金と青のきらめきが混ざり――

 まるで“文明の夢”が、夕空を渡っていくようだった。



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