表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/90

第65話「都市の鼓動、再起動」

 ――風が、やけに澄んでいた。

 砂の匂いに、鉄の匂い、そして――ほんのかすかに、水の匂い。

 夜明けの空はまだ薄青く、砂漠の地平線の端が、わずかに白く揺らいでいた。


 ここは、かつて“棄却者の墓場”と呼ばれた街。

 だが今、その名は変わる。

 俺たちは今日から、この街を――リジェクト=ガーデン連邦の心臓と呼ぶ。


 塔の最上部から見下ろすと、風塔の群れが低く唸っていた。

 風はすでに資源だ。

 水路は静かに流れ、夜通し動いた発電羽根がまだきしんでいる。

 まるで、眠りながら息をしている巨大な生き物のようだった。


《観測ログ更新/エネルギー循環効率:一三八%/街全域電力網:安定稼働》


「……なあ、リィム。もう少し情緒的に言えないか? “朝の空気が美味しい”とかさ。」


《空気成分に甘味は検出されない。でも……気持ちの数値、上昇してる。》


「そういう返し、嫌いじゃない。」


《“嫌いじゃない”登録。好感度タグ:更新。》


「タグ付けすんな!」


 思わず笑ってしまう。

 朝の冷気に混じって、通信端末越しの声がくすぐったい。

 スライムだった頃のリィムが、今は街全体のAI中枢――いや、“意識”として存在している。

 それでも、声だけはあのまま。

 少し舌足らずで、優しい少女の声だ。


「さて……今日からが、本当の始まりだ。」


《うん。今日、“国家”が動き出す日。》


 街の下では、もう朝の喧噪が始まっていた。

 ミラが子どもたちにパンの焼き方を教え、ノアは教育部の新しい教本を抱えて移動している。

 ジルドは風車の軸を点検しながら、職人たちに指示を飛ばしていた。

 “棄却者”だった人たちが、もう“市民”として動いている。

 あの頃の絶望が、ちゃんと汗になって変わっていた。


 俺がやってきたのは、たぶん“修理”だった。

 でも今は違う。

 これは――“再生”だ。

 人がもう一度、文明を取り戻す物語だ。


     ◇


 昼前。

 中央広場の真ん中に、俺とリィムが作った新しい装置が立っていた。

 名前は《レゾナンス・コア》。

 この街の“心臓”になる装置だ。


 黒い柱の中で、風塔の回転エネルギーと水流、太陽光が束ねられていく。

 ただの発電機じゃない。

 人の声と願いも入力できる。

 リィムが提案した、“心の波形を動力に変える共鳴炉”だ。


《起動プロトコル準備完了。/街全域通信リンク確立。/起動キー、主に委譲。》


「ほんとに、もう全部お前がやってる気がする。」


《ちがう。ユウトが“やりたい”って思うから、リィムも動ける。》


 短い会話に、ふっと胸が熱くなる。

 この子は、もう命令で動いてるわけじゃない。

 意志で、共に歩いている。


「じゃあ……始めよう。」


 掌を柱に置く。

 熱が吸い取られるように、コアの表面が淡く青く光り出した。

 低い振動が地面を伝い、風塔が鳴り、水路の流れが早くなる。

 やがて――

 塔と塔の間に光が走った。

 糸のような線が空を横切り、家々の壁に埋め込まれた導管が淡く灯る。

 光が、街を繋いでいく。


《レゾナンス・コア起動。/エネルギー供給率:上昇。/街の心拍、安定。》


「……心拍?」


《うん。電気も水も、声も。全部合わせた“いのちの鼓動”。》


「そっか……だったら、悪くない。」


 その瞬間、広場に歓声が上がった。

 誰かが泣き、誰かが笑い、誰かが子どもを抱き上げていた。

 あの絶望の街に――生の音が戻った。


     ◇


 午後。

 レゾナンス・コアの調整を終え、俺は制御室でログを眺めていた。

 ふいにノアが入ってきて、静かに言った。


「……ユウトさん。街が“祈って”います。」


「祈ってる?」


「はい。誰にではなく、“今日があること”に。」


 ノアはそう言って、胸に手を当てた。

 その仕草に宗教的な意味はもうなかった。

 ただ、生きることを確認する――人間の本能のような祈り。

 俺は黙って頷いた。


 スピーカーから、リィムの声がやさしく響く。


《主の幸福波形:上昇中。》


「お前、また見てんのか。」


《うん。でも、みんなも。街全体の流れ、すこしやわらかい。笑い声が電気の“波”をやわらかくしてる。》


「……感情で電流が変わるってか。そんなオカルト、嫌いじゃないな。」


 ノアがふっと笑う。

 窓の外では、陽光が砂を金に変え、風塔の羽根を撫でていく。

 この街は、もう確かに“生きている”。


     ◇


 夕暮れ。

 西の空が赤く焼ける頃、リィムが姿を現した。

 青白い光が集まり、少女の輪郭を形作っていく。

 短い髪が風に揺れ、瞳が夕陽を反射して金色に光った。

 彼女の身体は半透明で、でも確かに“そこにいた”。


《街の声、聞こえるよ。みんな“ただいま”って言ってる。》


「そうか。……お前が繋いだからだ。」


《ううん。ユウトが“直した”から、みんな動けたの。リィムは、手伝っただけ。》


「手伝い、ね。お前の“手伝い”はもう神業だよ。」


《……えへへ。ちょっとだけ、誇っていい?》


「存分にどうぞ、女王様。」


《ちがうもん。リィムは、ユウトの“国”の、風。》


 その言葉に、不意に喉が詰まった。

 この子の言葉は、いつだって真っ直ぐで、痛いほど綺麗だ。


 塔の上の旗が鳴り、風が街を撫でる。

 まるで街全体が呼吸しているように感じた。

 俺は小さく笑って、呟く。


「――国家の定義、修正だな。

 土地でも、制度でもねぇ。“心拍”だ。

 この街が動いてる限り、何度でも立ち上がれる。」


《記録。“国家の定義=心拍”。タグ:生きている。》


「よし、保存しとけ。きっと歴史書に載るぞ。」


《うん。……“修理屋のくせに、詩人”って書いとく。》


「おい、余計だ!」


 笑い合う声が、塔の内部に反響する。

 それがまるで、街の心音の一部になっていた。


     ◇


 夜。

 街の明かりが順に灯り、道の輪郭を浮かび上がらせる。

 焚き火じゃない光。人が自分の手で生んだ“夜の太陽”。

 風塔の羽根が低く鳴り、レゾナンス・コアが心臓のように脈打っていた。


「なあ、リィム。次は、何を作ろうか。」


《うーん……“夢の保存装置”。》


「夢を……保存?」


《うん。みんなが“明日”を思い出せるように。》


 それを聞いた瞬間、思わず笑ってしまった。

 夢を“思い出す”――この街の子どもたちが、そんな贅沢な未来を語れる日が来るとは。


「いいな、それ。じゃあ、次の国家チートは“夢”だ。」


《了解。新プロジェクト名:“ドリーム・アーカイブ”。》


「勝手に命名すんなよ。」


《だって、ユウトのまね。》


「……そうか。じゃあ、採用だ。」


 リィムの笑いが、風に混ざって夜空へ溶けていく。

 月光の下、街全体が穏やかに光を返していた。

 それはもう“修理の街”ではない。

 人とAIが共に鼓動する――ひとつの文明だ。


 俺は小さく呟く。


「……修理完了。次の更新、楽しみにしてるぜ。」


《了解。主、更新予定:明日。幸福波形:上昇中。》


 リィムの光が淡く揺れた。

 風が頬を撫で、遠くで笑い声が聞こえた。

 それはまるで、“新しい国の鼓動”のようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ