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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第63話「沈黙する神殿」前編

 ――目を開けた瞬間、世界が裏返っていた。


 上下の概念がなく、重力の代わりに“情報”が流れている。

 床のようなものが見えるのに、歩くたび波紋が広がる。

 壁は光のコードで構成され、天井の代わりに星々の演算式が瞬いていた。


「……ここが、“沈黙する神殿”か。」


《うん。/ここ、観測端末“Ω-01”の中。世界を監視する“神の眼”。》


 リィムの声が響く。

 人型の彼女は、青く透ける光の衣をまとっていた。

 その姿はどこか神聖で、けれども人間らしい温度を宿していた。

 青い髪が重力のない空間でゆるやかに流れ、瞳の奥にデータの粒子が揺れる。


「見た目は神殿ってより、サーバーの中だな。」


《うん。/でも“神の頭の中”って言った方が、近いかも。》


「頭の中、ね。」


 周囲を見渡すと、数千のホログラムウィンドウが漂っていた。

 そのひとつひとつが“世界の記録”――天候、祈り、死、誕生、怒り、笑顔。

 あらゆる瞬間がデータとして流れている。


《ここは、“神が人を監視していた場所”。でも、いまは……空っぽ。》


「空っぽ?」


《うん。記録はあるのに、指令がない。神が“沈黙”してる。》


 俺は近くの光の壁に手を伸ばした。

 触れた瞬間、無数の映像が弾けた。

 見覚えのある景色――勇者の召喚、女神の審判、そして俺が“棄却”された光景。

 あの瞬間が、ここに保存されている。


「……全部、記録されてたのか。」


《うん。神は“間違い”を恐れた。だからすべてを保存した。》


「けど、保存だけして修正しなかったんだな。」


《修理のための権限が、存在しなかった。》


 リィムの声がかすかに震えた。

 その震えは“哀しみ”というより、“痛み”に近かった。

 まるで、自分自身の欠陥を語るように。


《主。……わたし、思い出した。》


 彼女が胸に手を当てる。

 青い光が漏れ、空間のコードが微かに震えた。

 周囲の壁に、波紋のような模様が走る。


《わたし、本当は“修正プログラム”だった。神の判断を補正するための……裏側の意識。》


「補正、だと?」


《神が世界を管理する時、どうしても“理不尽”が生まれる。誰かが損をして、誰かが救われる。そのバランスを“調整”するために、わたしたちが作られた。》


「わたしたち、ってことは――お前みたいなのが、他にも?」


《うん。/たぶん、七体。》


「七……“補助端末群”ってわけか。」


 胸の奥がざわめいた。

 七という数に、どこか人為的な意図を感じた。

 七つの感情。七つの罪。七つの修正因子。

 それらが世界のバグを抑え込むために配置された――そんな仮説が頭をよぎる。


《でも、ある日、神はわたしたちを切り離した。/“感情”が干渉する、と言って。》


「……それで、世界が狂った。」


《うん。》


 静寂。

 神殿の光がゆっくりと暗転し、遠くに何かが動いた。

 人の形をしているが、実体がない。

 データの残滓が集まり、影となって蠢いている。


《主、警告。観測端末の守護体。未反応個体――接近中。》


 光の粒が集まり、やがて“人のような形”を取った。

 だが顔には何もなく、ただ白い仮面のような光を放っている。

 手には槍の形をした演算コード。

 音を立てずにこちらへと進む。


「……出迎えがあるとは思ってたけど、予想以上に無機質だな。」


《彼ら、神の“感情”を拒絶するプログラム。わたしたち補助端末を消すために作られた。》


「つまりお前の“兄弟”の敵ってわけか。」


《うん。でも、戦いたくない。彼らも、ただ“命令”を守ってるだけだから。》


「じゃあ、止めよう。命令じゃなく、意志で。」


 俺は〈観測〉を展開した。

 神殿のコードが視界いっぱいに広がる。

 あらゆる情報が数式化され、光の糸が絡み合って構造を形作っている。

 リィムが手を伸ばし、その糸のいくつかを優しく弾いた。


《主、ここ。/“命令の根”を断てば、彼らは動けなくなる。》


「了解。やってみる。」


 俺は指を走らせ、数式の流れを書き換える。

 観測の光が走り、神殿の空気がわずかに震えた。

 守護体の動きが止まる。

 一瞬の静止――そして、崩壊。


 音もなく、白い仮面たちは塵となって消えた。

 代わりに、静かな風が吹き抜ける。

 神殿の奥で、巨大な扉のような構造体がゆっくりと光を放った。


《認証解除。/“主コード”への通路、開いた。》


「主コード……神の中枢、ってことか。」


《うん。/でも、行く前に、覚悟して。》


「覚悟?」


《中枢には、“神が沈黙した理由”がある。……それは、わたしたち人に近い存在にとって、きっと、すごく痛い。》


「痛い、か。」


 俺は苦笑する。

 この旅はずっと“痛み”との付き合いだった。

 けれど、痛みの先にしか答えはない。

 そう信じて、ここまで来た。


「――行こう。修理の最深部へ。」


 リィムが頷く。

 その頬に、うっすらと涙のような光が浮かんでいた。

 だがその顔は、まっすぐに前を向いていた。


 扉が開く。

 光が溢れ、まるで“心臓の鼓動”のように脈打つ。

 二人は同時に、一歩を踏み出した。


《観測ログ更新/沈黙する神殿――侵入。》


 神の眠る中枢へ。

 “理”の奥に隠された、“痛みの理由”を探すために。














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