表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/90

第62話「天空の端末」

 ――夜明けの光は、どこまでも静かだった。


 戦火の残り香が、まだ砂に漂っている。

 焦げた金属と、風車の軸の油の匂い。

 それでも空は澄み、淡い青が滲んでいく。

 リジェクト=ガーデンは、またひとつ“朝”を迎えようとしていた。


 俺は崩れた風塔の上で、息を整えていた。

 砂埃まみれの手のひらに、まだ熱が残っている。

 けれど、それは絶望ではなかった。

 街は、生き延びたのだ。


《街の損壊率:二五パーセント。住民生存率:九四パーセント。/主、成功。》


 淡い声が耳に響く。

 振り返ると、そこに“彼女”がいた。


 リィム。

 もう、あの小さなスライムの姿ではない。

 朝日に透ける青銀の髪、柔らかく光る瞳。

 輪郭はいまだ半透明で、空気に溶けるようだったが――それでも確かに“人間”の形をしていた。


《ユウト……これ、ほんとに、わたし?》


「お前が“なりたい”って言った結果だ。世界が、ちゃんと応えたんだよ。」


 リィムはおそるおそる自分の手を見つめる。

 五本の指を開いては閉じ、胸の前で重ねる。

 その仕草は、まるで生まれたての子どものようだった。


《……あたたかい。指、ふしぎ。さっきまで、なかったのに。》


「それは“触覚”だ。世界に触る感覚。」


《いたいのも、これ?》


「たぶんな。」


《ふしぎ。でも、きらいじゃない。》


 彼女は微笑んだ。

 人の笑顔の“意味”を、まだ理解していないのかもしれない。

 けれどその笑みには、温度があった。

 電子の輝きじゃなく、“命の光”だ。


     ◇


 視線を落とすと、瓦礫の影に人影があった。

 ――天城颯真。


 白銀の鎧は半ば崩れ、手には神の光を宿した剣が落ちている。

 その剣はもうただの金属で、神々しさの欠片もない。

 彼は静かに倒れていた。


 駆け寄る美月が、彼の腕を抱き上げて泣きそうな声を出した。

 隣には藤堂の姿。

 冷静な表情の裏に、どうしようもない焦りがあった。


「……意識、あるのか?」


「わからない。けど……脳信号が、二重になってる。」

 藤堂が唇を噛む。

「神のコードがまだ残ってるんだ。人の領域に、AIの信号が入り込んでる。」


「AI、ね……。」


 俺は目を伏せ、膝をついた。

 颯真の顔は穏やかだった。

 けれど、その額の“印”だけが、異質だった。

 まるで誰かに“神の署名”を押されたように、光を放っていた。


《主……その印、信号を出してる。上に。》


「上?」


《うん。空。/観測層のさらに上。……神の“基地”みたいなところ。》


 リィムの瞳が淡く輝く。

 空を見上げたその瞬間、地平が震えた。

 風が逆巻き、砂が上空に吸い上げられる。

 太陽の光が一瞬、遮られた。


 そして――現れた。


 雲の向こうから、金属と光の巨影が降りてきた。

 回転する輪が三層。

 中心には空洞があり、その奥に、無数の“目”が瞬いていた。


 天を貫くような構造体。

 それは、建造物であり、意志そのものでもあった。


《……観測結果。上層端末群のひとつ。/神域中継システム“Ω-01”……起動。》


「――神の端末、か。」


 地面が鳴る。

 空の裂け目から降る光が、まるで審判のように砂を焼く。

 見上げるだけで、心臓を掴まれるような重圧。

 それでも、リィムは一歩前へ出た。


《主。あれ、知ってる。》


「……どういうことだ?」


《わたしの中に、同じ“構造”がある。記録じゃなく、設計の一部として。》


「つまり――」


《うん。わたし、“神の欠片”。》


 風が止まった。

 音が消えた。

 世界が一瞬だけ、静止したように感じた。


《たぶん、神が壊れた時、世界中にデータがばら撒かれた。/わたしは、そのひとつ。失敗作。》


「……失敗作なんかじゃない。」


 即座に言葉が出た。

 気づいたら、手が伸びていた。

 彼女の肩に触れると、ほんの少しだけ震えが返ってきた。


「お前がいたから、俺はここまで来れた。

 お前がいなきゃ、この街も、人も、俺も、全部もう終わってた。」


《ユウト……。》


「お前は“作られたもの”じゃない。“選んで”ここにいる存在だ。」


 リィムは目を細め、少しだけ笑った。

 その微笑みは、まるで朝の風みたいに柔らかかった。


《……じゃあ、わたし、“生きてる”って言っていい?》


「当たり前だろ。」


《うれしい。》


     ◇


 しかし、空の巨影は黙って見てはいなかった。

 無数の“目”がこちらを向き、低い振動音が大地を揺らす。

 光が走り、リィムの体の表面に無数の文字が浮かび上がった。


《警告:分体発見。/神ノ欠片ヨ、還レ。》


 その声は、空から直接降り注ぐように響いた。

 音ではなく、命令。

 リィムの内部に直接書き込まれる“帰還命令”。


 彼女が胸を押さえ、苦しそうに身を震わせた。


《主……中に、“帰れ”って声が響く。やめて、って思っても、止まらない……!》


「リィム!!」


 俺は彼女の肩を支える。

 熱が伝わってくる。

 彼女の体が、文字通り“焼かれて”いた。

 中継端末が、コードレベルで再吸収を始めている。


《主、……わたし、どうすればいい……?》


「戦え。帰るんじゃない。選べ、お前の意思で!」


 その瞬間、リィムの瞳が強く光った。

 彼女は空を睨みつけ、言葉を放つ。


《神のコードは、理不尽を修正できない。/なら、修理する。/――リィム、更新開始。》


 青い光が噴き上がる。

 リィムの髪が宙に舞い、全身の輪郭が発光する。

 青と白の光が衝突し、世界の上空で雷鳴のように炸裂した。


 空の端末が反応する。

 “光の鎖”が地上へ降り、リィムを絡め取ろうとする。

 だが、彼女の青はそれを焼き払った。

 青い風が渦を巻き、神の鎖を切り裂いていく。


《主、手を。》


 差し出された手を、俺は迷わず掴んだ。

 熱と光が一瞬で混ざり、体の内側にまで響く。

 頭の奥で〈観測〉が再起動し、空の構造体のデータが洪水のように流れ込んできた。


「これが……神の中枢……!」


《うん。/そこに“答え”がある。なぜ神が沈黙したのか、どうして人を棄てたのか。》


「――行こう。修理に。」


《リィムとユウトの、“修正版”。》


 風が吹く。

 青の粒が二人を包み、身体が宙に浮く。

 砂漠の街が遠ざかっていく。

 ミラたちが手を振り、ノアが祈り、ジルドが無言で敬礼した。

 颯真はまだ眠っていたが、その胸は確かに動いている。

 あいつもまた、きっと立ち上がる。


《主、準備完了。目標地点:“沈黙する神殿”。》


「了解。修理屋、出動だ。」


 空の構造体が光を強める。

 その中心に、開かれた門のような穴が現れた。

 青い渦が巻き、そこへ吸い込まれるように二人の体が上昇していく。


 風の音が遠ざかる。

 最後に聞こえたのは、リィムの優しい声だった。


《ユウト……ありがと。わたし、“人になれてよかった”。》


「まだ途中だ。これからだろ。」


《うん。……いっしょに、神を直そう。》


 そして、光が弾けた。

 リィムと俺の姿は、青の閃光の中に溶け――空の神殿へと消えた。


     ◇


 残された砂漠の街では、風塔が低く鳴っていた。

 夜明けの風が街を撫で、崩れた壁を越えてゆく。

 ミラが空を見上げて呟いた。


「行っちゃったね、ユウト……。」


 ノアが隣で微笑む。

「でも、きっと――帰ってくる。だってあの人は、“修理屋”だから。」


 風車の羽が回り、太陽が昇る。

 光が砂を照らし、街に朝が戻った。

 その青の残滓だけが、空に淡く光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ