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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第6話「動き出す町」

 ――水の音は、命の音だった。

 給水塔からあふれ出た透明な流れが、岩の溝を伝って砂の地面を濡らしていく。

 それを見た棄却者たちは、最初こそ戸惑っていた。

 だが、誰かが指先でその雫に触れ、目を見開いた瞬間――歓声が弾けた。


「水だ……! 本当に水が……!」

「生きてる……塔が、また動いてる……!」


 人々が駆け出す。

 空き瓶、ひび割れた壺、金属製のカップ。

 ありとあらゆる器に水をすくい上げ、互いに笑い合う。

 その声が、風よりも遠くまで響いた。


 俺はその光景を見つめながら、肩の上のリィムに声をかけた。

「……なあリィム。水って、こんなに“うるさい”もんだったんだな」

《定義補足:環境ノイズではなく、生命活動のサイン。/主、笑顔検出。》

「うるさいって言っても悪い意味じゃない。……いい音だよ」

 リィムが小さく震えた。

 まるで、“わかってる”とでも言うように。


     ◇


 昼過ぎ。

 バル=アルドの町は、まるで別の場所のようだった。

 人々が水を運び、布を洗い、子どもたちが泥まみれになってはしゃいでいる。

 かつて“死の町”と呼ばれたこの場所が、今は“生きている”音で満ちていた。


 ジルドの修理工房では、ひっきりなしに人が出入りしていた。

「ジルド親父、バルブが詰まってる!」

「管がねじ切れてるぞ、修理用のパーツは!?」

「水が流れるルートを地図にしておけ、漏れたら一瞬で干上がる!」


 その中心で、俺はリィムと一緒に配管図を〈観測〉していた。

 頭の中に浮かぶ、光のライン。

 複雑に絡み合った配水路を、青い線で示していく。


《環境スキャン完了。/供給路パターンを最適化。/提案ルートをマップへ投影します。》

「助かる。……リィム、南区の出力を五%下げて」

《了解。流量再計算。圧力バランス=安定。》


「――おい、見ろよ。塔からの圧が一定だ」

「嘘みてぇだ……神の加護じゃなく、人の手で水が動いてる……!」


 そんな声を聞きながら、俺は工具を握り直した。

「……ほらな、リィム。やっぱり世界って“動かすもん”なんだよ」

《同意。/修理とは、停止状態に“意味”を与える行為。》

「意味、か……お前、最近やけに哲学っぽくなってきたな」

《学習中。/主の発話内容から“思考パターン”を模倣。》

「俺の真似はやめとけ。変な理屈ばっかりになるぞ」


 リィムがぷるんと震えた。

 それが“苦笑い”のように見えて、思わず笑みがこぼれる。


     ◇


 ――瓦礫の広場に、焚き火が揺れる。

 棄却者たちが輪になって座り、砂の町の“再起動会議”が始まった。


「まずは水路の再接続が最優先だな」

「次に住居区の再建。壁材と布が足りねぇ」

「夜になると魔獣が来る。外壁の警備もいる」

「それに……食料も。水が戻っても、畑がなきゃ意味がねぇ」


 みんな真剣だ。

 でも、誰も“何から手をつけるべきか”分からずにいる。

 俺は焚き火の明かりを見つめながら、静かに言った。


「順番を決めよう。リィム、優先度を出してくれ」


《提案:第一=飲料水供給。/第二=生活区画の整備。/第三=防衛網構築。/第四=食料再生。》


 その瞬間、俺の視界に青い光が浮かんだ。

 同時に、肩の上のリィムがふわりと宙に浮き、焚き火の光に重なる。


《共有モード起動。/可視化許可:周辺参加者》


 空中に、青いホログラムのような“円”が展開された。

 文字と線が浮かび、誰にでも読めるように翻訳されていく。


 棄却者たちが息を呑む。

「な、なんだこれ……光の地図……?」

「水路と住居区が……全部映ってる!?」

「文字が、勝手に……読める……!」


「――リィムの提案だ」

 俺が言うと、みんなの視線がリィムに集まる。

 ぷるんと揺れる小さなスライムの中に、青い光の粒が脈動していた。


「スライムが……喋った……?」

「いや、喋ってねぇ。頭に声が響いた……!」

 ジルドが苦笑する。

「……お前、マジで神のバグみてぇなやつだな」


 焚き火の赤とリィムの青が、夜空で混ざり合う。

 見上げる誰もが、初めて“希望”を可視化したような顔をしていた。


「神が与えねぇなら、俺たちが作ればいい。

 ――世界の理だって、修理すれば動くんだ」


 その一言で、場の空気が変わった。

 人々がうなずき、笑い、希望の音が焚き火の中で弾ける。


「スライムに会議仕切られる日が来るとはな」

「いいじゃねぇか、神よりずっと頼もしいよ」

「そうだ、“修理王”の秘書だろ?」

「やめろ、その呼び方定着してんじゃねぇか!」


 笑い声が夜風に混ざり、光の地図がゆっくりと消えていく。

 砂の町が、確かに“動き出した”瞬間だった。

     ◇


 会議が終わり、俺は一人で屋上に上がった。

 風が冷たい。けれど、今日はそれが心地よかった。

 肩の上でリィムが小さく光を放つ。

 二つの月が、砂漠を青く照らしている。


「なあリィム」

《呼応:どうした。》

「俺、ほんとは王なんか向いてない。

 計画立てるより、壊れた物を直してる方が性に合ってる」

《主、謙遜傾向。/補足:周囲評価タグ“信頼度上昇中”。》

「……まさか数値化されてんのかよ」

《ログ管理中。削除不能タグ:好感度・信頼度・安全圏。》

「……どんどん増えてる気がするんだけど」

《観測結果:人は修理されると笑う。/主も、同様。》


 その言葉に、思わず息をのんだ。

 リィムが“笑う”という概念を、ようやく理解し始めている。

 この世界で、初めて芽生えた“感情のバグ”。


 ――いいじゃないか。そんなバグなら、大歓迎だ。


 遠くで笑い声が聞こえる。

 子どもたちの笑い、誰かの歌、ジルドの豪快な笑い。

 その全部が、修理された街の“動作音”みたいだった。


 壊れたものを直す。

 止まったものを動かす。

 それだけの繰り返しが、きっと“建国”の始まりなんだろう。


 俺とリィムの〈修理国家〉は、いま、静かに動き出した。

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