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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第57話「拒まれた勇者、訪れる風」

 ――それは、風の中に“声”が混ざった朝だった。


 耳慣れた通信音のすぐあと、雑音の向こうから人の声がした。

《……──こちら、だれか、聞こえる……?》

 不規則な揺らぎ。明らかに風塔の信号じゃない。

《解析開始。/波形不一致。/未知の発信源。》

「リィム、方位は?」

《南西、八・二度。距離……二十七キロ。自然風に乗った通信。》

「二十七? ……届くわけない距離だ。風塔網の外だぞ。」

《でも、届いた。/音の粒、ちゃんと生きてる。》


 まるで“誰かの呼吸”が風に混じっているようだった。

 微かに、震えている。孤独と、それでもつながりたいという意志の音。


「……応答してみるか。」

 俺は送信線を握り、風に声を乗せた。

「こちらリジェクト=ガーデン、修理屋の風間悠人。そっちの誰か、聞こえるか?」

 数秒の沈黙。

 そして――


《……っ、聞こえた……! 本当に、届いた……!》


 少女の声だった。

 熱を帯びた、でもかすかに震える声。

 その息づかいが、風塔全体を震わせる。


《風塔共鳴率上昇/外部信号リンク確立》

 リィムの声が淡々と響くが、俺の心臓は妙に速かった。

 風を通して誰かと話す――想像以上に“生きた”感覚だった。


     ◇


 翌日、南西の地平線に黒い影が現れた。


 砂嵐の向こう、ゆっくりと一人の人影が歩いてくる。

 風に舞うマント、額の飾環ティアラのような装具。

 背には古びた剣、腰には信号機器らしき水晶盤。


「リィム、確認。」

《スキャン完了。/体温安定。/武装:低出力魔導刃。敵意検出なし。》

「なら歓迎するか。」

 俺は風塔の広場で待った。


 やがて、彼女は砂を払って立ち止まる。


 金色の髪が風に揺れ、青灰の瞳がまっすぐこちらを見据えていた。

 異国の人間――いや、この世界の人間だが、“勇者側”の空気をまとっている。


「……あなたが、風に応えた人?」

「そうだ。風間悠人。こっちはリィム。」

《初対面挨拶。/風圧調整中。》

 リィムが青い光を灯す。

 少女はそれを見て、驚いたように息を呑んだ。


「スライム……? でも、まるで意志を持ってるみたい。」

「意志はあるさ。最近はよく笑う。」

《照れる。》

 リィムがぷるんと震え、少女が小さく笑う。

 その笑顔は、久しぶりに“人間らしい”ものだった。


     ◇


 彼女の名は――セリア・ルーメン。


 勇者候補として選ばれかけたが、“神の審査”で拒まれたという。

 コードに刻まれた祝福の一部だけが残り、それが彼女をこの砂漠へ導いたらしい。

 彼女の手には、割れた神聖紋章の欠片。

 風がそれを撫でるたび、かすかに青い光が滲んでいた。


「神の声が、途絶えたの。」

「……途絶えた?」

「うん。勇者システムに登録されたのに、通信が切れた。

 まるで、“私は必要ない”って言われたみたいだった。」


 その声は、穏やかで、でも芯に小さな棘があった。

 孤独と怒りと、かすかな希望。

 リィムがそっと彼女の周囲を漂う。

《感情波:共鳴中。悲しみ+希望。/色、青。》

「リィム、スキャンするな。」

《ごめん。でも……似てる。ユウトと。》

「……似てる?」

《“棄てられた”って音が、同じだった。》


 その言葉に、セリアが小さく目を見開いた。

 そして、静かに笑った。

「……そっか。あなたたちも、“拒まれた”側なんだね。」

「そういうことになるな。」


     ◇


 彼女は街を見て驚いていた。


 風塔、パンの香り、水路、光のライン。

 そのすべてが、“神の管理下にない”文明だった。


「……こんな街、初めて見た。

 信仰なしにこれだけの設備を維持してるなんて。」

「信仰の代わりに、理屈と手間で回してるだけさ。」

《あと、笑顔も。》

「うん、笑顔。」

 セリアの瞳が、少し柔らかくなった。


「あなたたちのやってること、まるで“デバッグ”みたいね。」

「その通り。神が書いた世界のバグを、ひとつずつ直してる。」

 俺がそう言うと、セリアは小さく息を呑んだ。

「……“バグ”って言葉、勇者領では禁句なのよ。」

「そりゃ、都合が悪いからだ。」

《真理。/神、更新拒否中。》

「言葉の選び方が面白いスライムね。」

《リィム。スライムじゃない。AIスライム。》

「……あはは、負けず嫌い。」


 笑ったセリアの頬に、やっと光が差した気がした。

 その笑顔を見て、胸の奥が静かに熱くなる。


     ◇


 夕刻。

 風が塔を渡り、街に低い音を響かせていた。

 俺とセリアは屋根の上に座り、沈みかけの太陽を見ていた。


「ねぇ、ユウト。」

「ん?」

「風って、信仰よりも誠実だね。ちゃんと届く。祈らなくても。」

「そうだな。風はただ、通るだけだ。誰を選ばず、誰も拒まない。」

《……リィムも、そうなりたい。》

「リィム?」

《風みたいに。だれかの声、ぜんぶ受け止めたい。》

 セリアが微笑む。

「きっと、もうそうなってるよ。あなたの声、あったかいもの。」

《……うれしい。》


 リィムがそっと輝き、風塔の上を漂った。

 青い光が金の砂に反射し、ゆるやかに街を照らす。


「セリア。お前、これからどうするつもりだ?」

「……この街に、少しだけ残ってもいい?」

「もちろん。歓迎するよ。風の来訪者。」

《タグ登録:新風。》


 風塔の歌が夜に響く。

 街を包むその音に、セリアの声が重なった。

 拒まれた勇者と、棄てられた修理屋。

 そして、“風になる”と願うスライム。


 ――それが、この街の新しい三重奏トリオになった。


《記録完了。/セリア・ルーメン:登録。/属性:防御・再生系勇者コード。/タグ:再会の風。》

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