表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/90

第55話「風の調べ ――街を歩く鼓動」

 ――朝の風が、昨日よりやさしかった。

 乾いた砂の匂いに、ほんの少し“水の香り”が混じっている。

 砂漠の朝がこんなに柔らかく感じたのは、初めてだった。


 屋根の上で目を覚ました俺は、しばらく寝転んだまま空を眺めていた。

 夜明けとともに変わる空の色――淡い青から金色へ、そして白い光の縁取り。

 青と金の境界線に細い雲が一本。まるで世界そのものがゆっくりと呼吸しているようだ。


 肩の上では、リィムが光を小さく瞬かせている。

 その輝きは、夜の名残を吸い込んだ朝露のように澄んでいた。


《おはよう……ユウト。風、きもちいいね。》

「おはよう。……そうだな。昨日、風塔の軸を調整したおかげかもな。」

《ちがうよ。きっと、街が“目を覚ました”から。》


「……目を、覚ました?」

《うん。風が、いろんな“音”を運んでる。》


「音?」

《水をくむ音、子どもの声、鉄をたたく音。風が、それをつないでるの。》


 俺は息をのんだ。

 この世界に来てから、長いこと“風の音”はただの雑音だった。

 けれど今は違う。

 その中に確かに、“生きている音”が混ざっていた。


 あの乾いた砂の街に、今は確かな“朝”がある。

 風がそれを証明していた。


《主の表情:やわらかい。タグ:うれしい。》

「勝手にタグつけるな。」

《削除、保留。》


 リィムがぷるんと揺れる。

 青い光が俺の頬を照らし、まるで笑っているようだった。

 ああ、こういう瞬間が、“生きてる”ってことなんだろう。


     ◇


 広場に出ると、すでに朝の熱気が始まっていた。

 ミラが両手を腰に当て、勢いよく声を張り上げている。

「そこ! 布の端、もっと上に! ――あっ、そっちは逆だよ!」

 子どもたちが慌てて布を引っ張り直し、砂がふわりと舞った。


「みんな、手を止めない! 砂が入ったら最初からやり直しだよー!」

 声の調子は叱っているようで、でもどこか楽しげだ。


 ジルドが苦笑混じりにハンマーを振る。

「まったく、あの娘が一番うるせぇ風かもしれねぇな。」

「いい風だろ。活気がある。」


《活気=文明の呼吸。タグ追加。》

「お前、タグつけすぎだろ。」

《観測のくせ。ゆるして。》


 俺は図面を広げ、塔の影の中でリィムと調整を始める。

《塔内温度:三三度。外気との差、五度。気流、北東に集中。》

「いい傾きだ。布の密度をもう少し上げて……――よし、風が流れた。」


 砂がふわりと舞い、塔の下を抜けてゆく。

 通り抜ける風が、ほんの少し冷たくて、心地いい。

 その風を受けたノアが、そっと髪を押さえながら微笑んだ。

「風って、目に見えないのに、ちゃんと“通り道”を覚えるんですね。」

「人もそうだろ。信じられる道を見つけたら、もう迷わない。」


《風と人、いっしょ。タグ:導く。》

「……ほんと記録魔だな、お前。」


 リィムはくすりと笑って、金色に近い光をこぼした。

 それが風に溶け、砂の街の色と混ざり合って消えていった。


     ◇


 昼になると、太陽が真上に登り、熱が街を押しつぶすように降り注いだ。

 それでも、人々の手は止まらない。

 ジルドは塔の基礎を補強し、ノアは風圧を測定し、ミラは子どもたちと一緒に布を湿らせていた。


《湿度上昇。蒸発冷却の効果、発生中。》

「上出来だ。これで少しは涼しくなる。」


 リィムは周囲の人々を眺めながら、小さな声でつぶやいた。

《みんな、まいにち動いてる。でも、“生きてる”って、それだけ?》

「……難しい質問するな。」

《ユウトは?》

「そうだな。“動く”は生きるため、“生きる”は笑うため――かな。」

《笑うため。》

「そう。だから、お前も笑っとけ。」

《もう、笑ってるよ。》


 その瞬間、リィムの体がふわりと光り、風にほどけた。

 光が砂粒に反射して、まるで小さな花びらが舞っているように見えた。

 少女の声のように柔らかく、確かに“笑っていた”。


     ◇


 午後。

 作業を一旦終えて、皆で簡易冷却箱を囲む。

 冷えた果実を切ると、ひんやりとした甘い香りが広がった。

 その香りが、風に乗って街の隅々まで行き渡る。


「ねぇ見て! ちゃんと冷たい!」

 ミラが満面の笑みで果実をかじり、目を丸くした。

「これ、奇跡だよ!」

「奇跡じゃない。科学と工夫の結果だ。」

《でも、“うれしい奇跡”でもいいと思う。》

「……そういう言い方、覚えたな。」


 リィムがくすぐったそうに揺れる。

《ミラが言ってた。“努力のあとに笑えたら、それは奇跡”。》

「……あの子、ほんと良いこと言うな。」

《記録。タグ:“努力の奇跡”。》

「もう辞書が書けそうだな。」


 風が塔の中を抜け、湿った空気を運ぶ。

 果実の香りが街に溶け、人が自然に笑った。

 笑い声が増えるたび、風が軽くなっていくように感じた。


     ◇


 夕方。

 西日が塔の羽根を黄金に染め、長い影を街に落とす。

 空の境界線が赤く、青く、そして紫に溶けていく。

 その美しさに、少しだけ言葉を失った。


 俺は足場の上で、リィムの光を反射させながら角度を微調整していた。

《風速、安定。/回転軸摩擦値、許容範囲内。》

「いいぞ、ほぼ理想値。これなら夜間発電にも使える。」

《すごい。風が“ちから”になる。》

「風も人も、流れが正しければ力になる。」


 リィムの光が、ふっとやさしい金色に変わる。

《ねぇ、ユウト。風って、どこから生まれるの?》

「空気の温度差。高いところと低いところの呼吸の差だ。」

《ふしぎ。ひとりじゃ、生まれない。》

「そうだな。ひとりじゃ流れない。」


 少しの沈黙。

 リィムが静かに言った。

《じゃあ、ユウトとリィムで、風になれる?》

「なれるさ。街を動かす風に。」


 その言葉に呼応するように、塔が低く唸りを上げた。

 リィムの体が金色に光り、風塔の頂上で柔らかく輝く。

 光が空へ、砂へ、そして人々の頬へ――溶け込むように広がっていく。

 風が街路を撫で、灯りの準備を始める。


《記録。“風の調べ”。目的:街を動かす。》


 ――リジェクト=ガーデンの空に、音のない旋律が流れた。

 風と光が混じり合い、どこまでも穏やかに街を包み込む。

 それは、まだ小さな文明の鼓動。

 けれど確かに、“生きている”音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ