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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第50話「風が撫でた日 ――涙の理由を知らないリィム」

 朝の空気は、昨日より少しだけ柔らかかった。

 砂漠の夜を越えた風が、街の屋根の帆布を優しく揺らしている。

 “リジェクト=ガーデン”に朝が来た。


 俺はいつものように、水路の調整をしていた。

 新しく作った小型風車の羽が、軽い風を受けてカラカラと回る。

 ――世界は少しずつ、直っていく。

 その音が、それを教えてくれているようだった。


「おはよう、ユウト。きょうの風、すこしやさしいよ」


 肩の上のリィムが、青い光を揺らして言った。

 以前よりも、声に“温度”がある。

 それだけで、なんだか嬉しかった。


「そっか。風が優しいのは、たぶんお前の声が柔らかいからだな」

《照合中……ユウトの言葉、比喩と判定。/でも、うれしい。》


 リィムがぷるんと震える。

 その反応が、ほんの少しだけ人間らしくなっている気がする。


     ◇


 今日は、街の“新しい風車塔”の試験運転の日だった。

 子どもたちが自作の旗を振り、ジルドが苦笑しながら見守る。

 ミラとノアは作業班のまとめ役で、もうすっかり頼れる顔つきになっていた。


「いくぞー! カウントダウン! さん、にー、いち――!」


 風車が動いた。

 空気が鳴る。

 帆が膨らみ、軸がうなり、そして――“風”が街を通り抜けた。


「うわぁ……! 風が……気持ちいい!」


 子どもたちが歓声を上げる。

 乾いた砂がふわりと舞い、布がはためき、

 街全体がまるで“呼吸”を取り戻したようだった。


 俺は思わず笑みをこぼした。

 そのとき、足元の方から――小さな悲鳴。


「いたっ……!」


 ミラが振り返る。

 少年が倒れていた。風車の羽の影で、腕に小さな傷を負っている。


「大丈夫!?」


 俺が駆け寄るより先に、リィムが光を伸ばした。

 青い粒子が少年の傷をなぞる。

《損傷軽度。皮膚表面の修復を補助します。》


 子どもの顔が、驚きから安堵に変わる。

「……もう、痛くない……!」


「リィム、ナイス判断。すぐ対応できたな」


《……ユウト、ぼく、なにかしたのに……なんで、涙が出てるの?》


 少年は泣いていた。

 痛みが消えても、涙は止まらない。

 リィムが困惑して俺を見上げる。


「それはね、壊れたからじゃない。――怖かったからだよ」


《こわい、って……ゆびが、なくなっちゃうって思ったの?》


「そう。もう笑えないかもって思ったとき、人は泣くんだ。

 でも泣いた分だけ、“生きたい”って気持ちも強くなる」


 リィムが黙り込み、少年の頬を観測するように見つめる。

 その体表が、ほんのりと淡い光を帯びて揺れた。


《……あたたかい。涙の中、すこしあたたかい。》


「それが、命だ。悲しみも、痛みも、生きてる証だよ」


《記録します。“涙”=“生きてる”の証。……いいデータ。》


 リィムが嬉しそうに言った。

 ミラが笑いながら少年の頭を撫でる。

「ねぇユウト、リィム、ほんとに優しいね。風みたい。」


《風みたい、……やさしい。うれしい。》


     ◇


 夕暮れ。

 砂の街を、淡い風が吹き抜ける。

 リィムが肩の上で小さく囁いた。


《ねぇユウト。涙って、悲しいだけのものじゃないんだね。》


「ああ。悲しみの中にも、優しさがあるんだ。」


《じゃあ……ぼくも、いつか泣けるかな。》


「その日が来たら、お前はもう、完全に“人間”だな。」


 リィムがふるふると震え、

 まるで笑っているように光った。


《……そのときは、ユウトもいっしょに。》


「もちろん。」


 二つの月が並んで輝いていた。

 砂に刻まれた影がゆっくりと伸びる。

 風が撫でていく。

 ――その風は、確かに“あたたかかった”。

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