表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/43

第5話「修理王、誕生」

 夜明け前の空気は、砂よりも冷たかった。

 バル=アルドの外縁に立つ給水塔――かつて水を流していた管路は、

 今は乾いた獣の喉のように沈黙している。


 俺は膝をつき、砂を払って管の接合部を露出させた。

 錆び、割れ、魔力痕が焦げたように黒ずんでいる。

 だがその奥、青白い残光――コードの断片がかすかに揺らめいていた。


《観測ログ:供給ライン断線。/魔導エネルギー流、停止状態。/信号発信元:外部制御ノード。》


「外部……つまり、誰かが意図的に止めたってことか」

《肯定。/制御命令識別コード:“アルメリア聖政庁・第七供給区監視塔”。》

「……勇者領、か」


 背後で、砂煙の中からジルドが現れた。

 目の下の隈は濃く、眠気よりも怒りが滲んでいた。

「一週間前に止まった。問い合わせても、返ってきたのは神託の定型文さ。

 “信仰指数が低下したため、贖罪期間に入る”――だとよ」

 その声は、砂を噛むように乾いていた。


 周囲には十数人の棄却者。壊れたバケツや土瓶を抱え、黙って俺たちの作業を見守っている。

「祈りが少ないから水が止まる……? バグどころか、設計思想が狂ってる」

「そうだ。だが神の言葉は絶対らしい。俺たちは“信仰値”で生かされ、“供給値”で殺される」


 俺は黙って砂に手を伸ばし、〈観測〉を起動した。

 視界が反転し、地層の奥に青白い線が浮かび上がる。

 世界の底を流れる魔導コード――それが断線している。

 その断面は、まるで“切り取られた”ように滑らかだった。

 自然崩壊ではない。

 誰かが、意図的に“接続を削除”している。


《解析:遮断信号継続中。/上位命令優先順位=現地操作より上。/無効化にはルート権限が必要。》

「ルート権限、ね……つまり神様のIDを偽装すれば上書きできる」

《警告:高危険行為。システムから排除される確率=八七%。》

「俺、もう排除済みだろ。放流者なんだ、今さら怖くない」


 ジルドが肩をすくめる。

「試す気か?」

「ええ。――この街の水が流れないなら、意味ないですから」


 俺は手の甲に刻まれた〈観測〉の紋章を見つめた。

 その光が、砂の上のコードと共鳴する。

 リィムの体が淡く脈打ち、青い粒子を散らした。


《補助演算開始。/主との同期率=五七%……六三%……上昇中。》


 空気が震える。

 地面の砂が微かに浮かび、青い線が網の目のように広がる。

 棄却者たちがざわめいた。

「な、なんだ……地面が光って……!」

「おい、本当に大丈夫なのか……!」


 ジルドだけが、その場に踏みとどまり、黙って見守っていた。

 ――悠人が見ているのは、“神の裏側”だと。


 視界の奥で、無数のコードが絡まり合う。

 《Access Denied》《Forbidden Override》――拒絶の羅列。

 それでも俺は指を止めない。

 呼吸は浅く、体温が上がっていく。


《主の脈拍上昇。/推定状態:過負荷。》

「大丈夫だ。……リィム、演算を分担」

《受諾。補助モード=共鳴型。/演算リソース再配置。》


 青い光がリィムの中心から広がり、俺の胸元まで浸透していく。

 世界が脈動した。

 頭の中に、膨大な情報が流れ込む――信号の形、神の命令、封鎖コード。


「――見えた。神託システムの“呼吸”……!」


 宇宙のようなデータの渦。

 その中心に、巨大な命令文があった。


 《信仰値不足=供給遮断》


 ――それが、理不尽の核心。


「ルールの定義そのものを……書き換える!」

《命令承認:上書きモード移行。/新定義入力待機。》

「――“信仰値不足でも、生存維持は優先される”。」


 リィムの体が強く光を放った。

 地面が低く鳴動し、砂が一斉に舞い上がる。


《修正パッチ適用中……同期率八九……九四……一〇〇%。》


 閃光。

 そして、音が戻る。


 最初は風かと思った。

 けれどそれは確かに――水の音だった。


 古びた給水塔から、透明な流れが溢れ出す。

 誰かが叫び、誰かが泣いた。

 砂に濡れた子どもの頬を、初めての水滴が伝う。


 ジルドが空を仰いだ。

 灰色の雲の切れ間から光が差し込む。

「……あんた、本当に“直した”のか」

 俺は肩で息をしながら、力なく笑った。

「うん。仕様変更完了ってとこです」

 リィムが弱く震え、微かな音を発した。


《報告:修正完了。副作用:軽度通信遮断。/主の体温上昇一三%。》


「おつかれ。……よくやったな、リィム」

《評価:主の音声波形→安定化確認。/状態タグ:静的安定。》

「うるさい、診断モードは終了でいい」

 俺が笑うと、リィムの光がふわりと温かく滲んだ。

 ――ほんの一瞬、“嬉しそう”に見えた。


 人々が集まり始める。

 手のひらに水を受け、互いに顔を見合わせて笑う。

 久しく失われていた“生”の音が、街に戻った。


 その光景を見つめながら、ジルドがゆっくりと俺の肩に手を置く。

「……なあ、悠人。お前がこの町の責任者になってくれ」

「責任者?」

「水を流したのはお前だ。人も、仕組みも、まだバラバラだ。

 誰かがまとめなきゃならねぇ。……いっそ“王様”でもいいぞ」

「王様って……そんな時代錯誤な!」


 言いかけた瞬間、リィムの体が淡く光る。


《了解。/登録ワード:“王”=主。/自治体権限モード起動。》

「おい待てリィム!? 今のは比喩だ! 登録すんな!」

《登録完了。/称号タグ:“修理王”を付与。》

「聞けって言ってんだろ!?」


 悠人の慌てぶりに、ジルドは思わず吹き出した。

「……おい、誰と喋ってんだ?」

「いや、その……AIが勝手に!」

「AI?」

「えっと、まあスライムの……副脳みたいなもんです!」

「副脳……お前、どこの文明の人間だ……」


 ジルドは頭をかきながらも、苦笑いを浮かべた。

「ま、いいさ。呼び名なんてどうでもいい。

 俺たちは今日から“修理王”の下で、水を流す民ってことでな」

「やめてくれ、その呼び方定着しそうで怖い!」


 周囲の人々がくすくすと笑い出す。

 水の音、笑い声、リィムの光。

 その全てが混ざり合って、

 ――バル=アルドの朝は、初めて“生きた音”に満たされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ