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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第45話「砂上の設計図 ――建国という名のチート」

 ――砂漠の朝は、白い光から始まる。

 風塔の影が長く伸び、街をゆっくりと撫でていく。

 水の音、パンの香り、そして――子どもたちの声。

 リジェクト=ガーデンはもう“避難所”じゃない。

 確かに“街”になっていた。


《観測ログ:生活指数=上昇傾向/食料生産:安定/治安:安定/幸福値:上昇中》


「リィム、ログ読み上げるとき毎回“幸福値”言わなくていいぞ」

《でも大事。主、聞くと笑う》

「……それは否定しない」


 肩の上でリィムが淡く光る。

 その声が、以前より柔らかい。少女の音色だ。


 広場には、ジルドとミラ、そしてノアとレオンの姿があった。

 木箱を机にして、簡易の図面を広げている。

 リィムの光を投影すれば、空中に立体の地図が浮かび上がる。


「これが……今の街の全景」

《構造図:風塔=中枢ノード/水路=主幹線3系統/居住区=拡張余地+28%》

「数字で見るとすごいな……あの砂漠が、ここまで形になるなんて」

 ミラが目を輝かせる。

 ノアも頷いた。「“信仰”ではなく、“手”で作った国ですね」


「そう。だから次は、“形”を決める番だ」

 俺は地図を指でなぞる。

「バル=アルドの頃は“生き延びるための修理”だった。

 でも今は、“生かすための設計”ができる。――国の骨組みを作る」


 ミラが手を上げる。「つまり、国づくりの作戦会議!」

「……まあ、ざっくり言えばそうだ」


     ◇


 地図の上で、リィムが青い線を走らせる。

 新しい水路の案、教育区域、交易区。

 すべての線が、まるで生命の血管みたいに街を走る。


《提案:3層構造都市モデル》

「3層?」

《地上:居住と市場/地下:水路と冷却層/上層:風塔ネットと通信網》


 ジルドが腕を組んで唸る。

「上も下も使うか……贅沢な国になりそうだな」

「贅沢でいい。砂漠の上に“文明”を作るんだから」


 ミラが笑う。「パンの香りが上の層まで届く街、いいね!」

《上層風圧の利用で香気拡散率+18%》

「リィム、それ計算する意味ある?」

《モチベーション向上率=23%》

「ならアリだな」


 笑いが起きる。

 でも、その笑いはもう“生存のため”のものじゃない。

 “創造の喜び”が混じっている。


     ◇


「次に決めたいのは、中心区の使い方だ」

「役所でも造るのか?」とジルド。

「いや、俺が欲しいのは――学び舎だ」


 視線が集まる。

「今の子どもたちは、ただ“働く”ことしか知らない。

 でも“考える”ことを教えれば、この国は百年持つ。

 ――学校を作ろう。誰でも学べる場所を」


 ノアが目を見開く。

「神ではなく、人が“教える場所”……それは祈りよりも尊い」

 ミラは笑って拳を握る。


「教室の名前、もう決めてる?」

「まだ。でも“灯”って言葉は入れたい。知は光だ。

 “灯をともす教室”……どうだ?」


「きれい!」

《登録:灯の教室アカデミアノード/初期化完了》


 ジルドが低く笑った。「街の真ん中に“光”を置く。悪くねぇ」

 リィムの光が少し強くなる。

《主、笑顔。幸福値、また上昇》

「それもう言わなくていいって」

《……でも言いたい》

「……勝手にしろ」


     ◇


 昼下がり。

 作業小屋の屋根に登り、風を受けながら街を見下ろす。

 広場では、子どもが水路で遊び、パンの香りが漂い、

 風塔の羽根が空を切っている。


《主、何考えてるの?》

「未来、かな」

《難しい言葉》

「簡単に言うと……“次の世代”」


 俺は空を見上げる。

 二つの月の間に、雲の切れ間から陽が差していた。

「リィム。お前は“記録”ができる。

 だったら、俺たちがやったこと、全部残してくれ。

 この国が“どうやって始まったか”を、誰かが忘れないように」


《了解。――主、やっぱり優しい》

「優しいかどうかは知らない。でも……残すのは好きだ」


《じゃあ、今日のタイトルどうする?》


「タイトル?」

《きょうの記録ログの》

「そうだな……“砂上の設計図”。」

《いい名前。きっと、きょうからがほんとうの建国》


 リィムの声が、風に溶けた。

 砂が光り、塔が鳴る。

 ――この国は、まだ小さい。

 けれど確かに“動いている”。


《記録:国家フェーズ=設計段階/状態タグ:希望/継続観測中》


「仕様変更、続行だな」

《うん。主とリィム、共同プロジェクト続行中》


 肩の上で、彼女の光がやわらかく瞬いた。


◇◇◇


 ――朝日が、風塔を金色に染めた。

 塔の影が、まだ新しい通りの上をゆっくりと伸びていく。

 今日から、リジェクト=ガーデンに“教室”ができる。

 名は『灯の教室』。


 街の中央にある広場の隅。

 再利用した建材を積み上げ、リィムが投影した設計図をもとに組んだ建物。

 壁はまだ荒削りで、屋根の一部には帆布を使っている。

 だけど――窓から差し込む光は、まっすぐに輝いていた。


《初期化完了。――灯の教室、起動》

 肩の上でリィムが淡く光る。

 半透明の体がふわりと浮かび、黒板代わりの壁面に青白い光を投影した。

 そこには見慣れない文字列と数字が並ぶ。


「……おお」

 集まった子どもたちが息をのむ。

 錆びた釘を拾って遊んでいたような手が、

 まぶしいものに触れるようにその光を見つめていた。


「みんな。これが“学ぶ”ってことの最初の一歩だ」

 俺は黒板の前に立ち、リィムに目配せする。

《了解。――モード:教育型AIに移行》


 リィムの声が、いつもより明るい。

《きょう教えるのは、数。ゼロから十までの“順番”》


「順番?」と子どもが首を傾げる。

《うん。数には“並び方”がある。砂を一粒ずつ並べると分かる》


 リィムの体から光の粒がこぼれ、砂の上に一列に並ぶ。

 “1、2、3、4……”

 光る砂粒が増えるたびに、子どもたちの目も輝きを増していく。


「ねえ、リィム。いっぱい並べたらどうなるの?」

《いっぱいになる。――でも数は終わらない。いくつでも増える》

「終わらない!?」

 驚きの声。

 子どもたちにとって“終わりがない”という感覚は、

 たぶん奇跡みたいな響きなんだろう。


 俺は頬が緩むのを感じながら、そっと目を細めた。

 これが、国を育てる最初の“芽”だ。


     ◇


 昼前。

 教室の外には、ジルドとミラが見学に来ていた。

 リィムが投影した数列を見て、ジルドがひげを撫でる。

「へぇ……子どもが静かにしてる光景なんざ、初めて見た」


「うん。みんな、楽しそう」

 ミラが笑う。

「ねえユウト、こういうのを“教育”って言うんでしょ? なんかいいね」

「ああ。俺の世界でも、“未来への投資”って呼ばれてた」

「投資?」

「いま種をまいて、何年も先に花を咲かせる行為だよ」

「そっか……じゃあ、この教室は“希望の畑”だね」


 ミラの比喩に、リィムが嬉しそうに反応する。

《登録。――灯の教室=希望の畑。タグ付け完了》

「お前、どんどん詩的になってないか?」

《学習中。主の発話傾向=感情混合型》

「なんだそれ」

 ジルドがくつくつと笑う。「こいつ、もう立派な教師だな」


     ◇


 午後。

 授業のテーマは“力の伝わり方”だった。

 子どもたちが手押し車を押しながら、リィムが質問する。


《重いものを動かすとき、どうすれば楽になる?》

「二人で押せば軽くなる!」

《正解。――それが“てこ”の原理。力は分け合うと軽くなる》


 その瞬間、ミラが小声で呟いた。

「……なんか、人間の生き方みたいだね」

「だろ? 力学は理屈だけじゃない。生き方にも似てる」

 リィムがその会話を拾い、黒板に新しい文字を浮かべた。


《知識とは、助け合う力》


 ざわめきが広がる。

 子どもたちが声を出して読み上げ、笑う。

 ミラが小さく拍手した。


「ねえユウト。これ、国の旗とか作るとき、この言葉入れようよ」

「……悪くないな。理屈じゃなくて“心”で覚えられる」


     ◇


 夕方。

 授業が終わると、子どもたちは一斉に走り出していった。

 笑い声が街の通りに弾け、風塔に反響する。


 俺は黒板を拭きながら、リィムに問いかける。

「なあリィム。今日、どうだった?」

《……すごかった。みんな、笑ってた。私の言葉で、笑ってた》


「嬉しいか?」

《うん。胸の中が、温かくなる。これが“誇り”?》

「それもあるな」

《主、誇りも学んだ?》

「いや、俺もまだ勉強中だ」


 リィムがふわりと浮かび、俺の視界の端に文字を描く。


《記録:学びは伝染する。――主と街、共に上昇中》

 俺は笑って答えた。

「仕様変更、続行中ってやつだな」


 夜が降り始める。

 灯の教室の窓からこぼれる光が、砂の街をやさしく照らした。

 ――この光こそ、国の心臓だ。


《記録更新:文明フェーズ=教育段階/状態タグ:希望+成長》


 リィムの声が、いつもより少し誇らしげだった。



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