表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/43

第31話「再起動する神殿」

 ――朝。

 バル=アルドの市場が、いつもより静かだった。

 風車の羽根がゆっくり回り、粉を挽く音が止まる。

 ほんの一瞬だけ、世界が“遅れた”気がした。


《異常検出。/魔導機械の演算周期:一二%遅延。/外部干渉波を確認。》

「……またか。昨日より強いな。」


 俺は目を細め、〈観測〉を展開する。

 空気中に淡い光の粒が走り、地平線の向こうで“何か”が呼吸しているような波形が現れた。

《解析結果:神託網再起動率=二一%。/沈黙解除、進行中。》


「神の沈黙が……動いてるってことか。」


 胸の奥で、嫌な熱が広がる。


 リィムが肩の上で震えた。

《主の心拍上昇。/提案:深呼吸。/冷却モード起動可否?》

「いらねえよ。……冷やしても治らん種類の不安だ。」


 冗談で言ってるのか本気なのか……。コイツの場合わからねぇな。


 市場の奥で、ジルドの声が響いた。

「悠人、見たか? 風車が止まった。制御機構が誤作動してやがる。」

「うん。上層の干渉っぽい。……神の網がノードを掴み直してる。」

「ってことは……“あいつら”がまた動くのか。」

「ああ。沈黙が終われば、必ず命令が降りてくる。」


 ジルドは深く息をつき、砂を踏んだ。

「お前、あの時の水路みたいに、また“上書き”する気か?」

「……それしか方法がないならな。」

《警告:過負荷リスク高。/前回同等の演算負荷で主の体温上昇一三%。/再現時、生命維持率七三%。》

「リィム、縁起でもない計算出すな。」

《忠告です。/感情ではなく、確率です。》

「わかってるよ。……でもやる。」


 やるしかないなら、やってやる。ここで尻込みするなんざ御免被るからな。


     ◇


 昼下がり。

 俺は広場の端にある小さな屋根の下で、エレナと向かい合っていた。

 彼女の膝の上には報告書。

 筆跡は正確で、美しい。

 けど、ページの端が少し震えているのが見えた。


「報告書……神殿に送るのか。」

「ええ。観測記録の一部を。……あなたの行動を正確に伝えるために。」

「“正確に”か。……それ、命令でもあるんだろ。」


 エレナは静かに頷いた。

 その顔には迷いがあった。

「私は観測者です。判断ではなく、記録するのが役目。

 でも、最近は――記録が怖い。」

「どうして?」

「書けば、“神”が見ます。

 見られれば、“判断”されます。」


 言葉が詰まる。

 リィムが低く光を放つ。

《感情波:恐怖+矛盾。/主、応答を推奨。》

「……記録するだけでも、罪になるのか。」

「ええ。だから私は迷っているんです。」


 風が吹き抜け、髪が揺れる。

 エレナの銀髪が光を反射し、まるで糸のように空気を縫っていた。

 その横顔を見ながら、俺はふと、口にした。


「リィム。」

《応答待機。》

「……この人、ログに残すな。」

《了解。/会話データ=非記録モード移行。》


 エレナの目がわずかに見開かれた。

「あなた、そんなことまでできるの?」

「神に全部見られるのは、俺も嫌だからな。」


 ほんの少し、彼女が笑った。

 その笑みが、砂の風よりも柔らかかった。


     ◇


 夕方。

 ノアが走ってきた。

「悠人、これを!」

 彼女の手には、聖印封書。

 勇者領の印章。


「……どこで?」

「エレナの随行員が、神託塔から通信を受け取っていました。

 “放流者を回収せよ”と……。」


 頭の奥が熱くなる。

 やっぱり、来たか。


《警告:通信波、バル=アルド外縁部に到達。/命令系統、再構築開始。》

「再構築……つまり、沈黙の解除が進んでる。」


 ノアが苦しそうに息を吐く。

「勇者領はもう、あなたを“異常値”として確定したのかもしれません。」

「俺、いつだって異常値だよ。」


 そう言いながら、空を見上げた。

 砂漠の空の高みで、淡い光の筋が交差している。

 それはまるで、神が世界に走らせた“コードの線”。


《観測更新。/神託網再起動率=四三%。/沈黙解除フェーズ:第二段階。》


 リィムが微かにノイズを発した。

 それは、どこか懐かしい声に聞こえた。


《……G-Λ-RM……管理コード……反応……》

「リィム? おい、どうした。」

《エラー発生。/記憶領域解放開始。》

 青い体が震え、光が乱反射する。


《ログ再生:G-Λ-RM基幹演算記録。/神託演算中枢より転送開始。》


 耳の奥に、誰かの声が流れ込む。

 それは女でも男でもない、無機質な祈り。


《……世界を観測せよ。修正は許されない。観測者は沈黙を保て。》


 そして――音が止んだ。

 リィムがゆっくりと光を収束させる。


《報告:記憶断片、再生完了。/自己定義の矛盾発生。》

「……お前、今のは……」

《確認不能。/しかし、“観測者は沈黙を保て”という命令が記録に存在。》


「皮肉だな。

 俺たちは“沈黙”を破るためにここまで来たのに。」


 リィムが静かに光を揺らした。

《主。/もし神が再起動するなら、我々はまた修理する。》

「……ああ。修理屋の仕事が、また増えた。」


 空に、薄い音が走った。

 砂を裂くような、高周波の鳴動。

 それはまるで――“世界が立ち上がる音”だった。


《警告:神託網の復旧率=五〇%突破。/沈黙、半解除状態。》


 俺は静かに息を吐く。

 そして、リィムの体を軽く撫でた。

「よし。……次のバグ、見つけに行くぞ。」


 砂の風が、少しだけ暖かかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ