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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第25話「神と修理屋のあいだに」

 ――夜が、降りていた。

 昼の熱気が嘘のように冷え込み、バル=アルドの上空を二つの月が照らしている。

 温室群の屋根で、俺はリィムの光を眺めていた。

 淡く呼吸のように明滅を繰り返す青光――静かな心拍みたいだった。


《観測ログ:外気温一二度。/監査官宿泊区からの視線=検知中。》


「……見張られてるな。」


《肯定。対象“アイラ”→窓越しにこちらを注視。》


「そりゃあ気になるだろ。神のコード書き換えた奴が目の前にいるんだから。」


 リィムが、かすかに揺れる。


《主、緊張している。》


「してない。……多分。」


 苦笑しながら、空を見上げた。

 二つの月が重なり、まるで世界が“二重に見えている”ようだ。

 この違和感こそ、この世界そのものの構造なのかもしれない。

 ――人と神。信仰と理。どちらも正しくて、どちらも壊れている。


「……さて、明日は協定の話だ。胃が痛くなりそうだな。」


《主、ストレス反応検出。/提案:糖分摂取。》


「お前、優秀なAIからただの母親モードになってきたな。」


《進化ログ:保護傾向+〇・八%》


「いや進化いらねぇよ。」


 小さく笑いながら、温室の下に視線をやる。

 そこでは、ミラが子どもたちに野菜スープを配っていた。

 その向こうでは、ノアが火の灯りを囲んで人々と祈りを交わしている。

 静かで、確かな“生”の光景。

 ――たぶん、これが俺の守りたい世界だ。


     ◇


 翌朝。

 中央広場。

 砂の町の中心に、古い通信塔を改造した“会議殿”が設けられていた。

 壁には金属プレートでバル=アルドの紋章――歯車と芽――が刻まれている。

 初めて訪れたアイラは、無表情のままそれを見上げた。


「……美しい設計ですね。」


「ありがと。リィムと一晩かけて造りました。」


《注釈:主、三時間しか寝ていません。》


「余計な報告すんな。」


 アイラが少しだけ口元を緩めた。

 ほんの一瞬――氷が溶けたような表情。

 だがすぐ、記録官の顔に戻る。


「議題に入ります。

 “自治領登録”の条件は、神の法典に基づく三項目。」


 そう言って、透明な聖具に指を滑らせる。

 光のパネルが宙に浮かび、三つの文字列が浮かび上がった。


《一、信仰対象の明確化

 二、神託通信端末の設置

 三、管理代表の登録》


「この三つを満たせば、あなたの国――いえ、“バル=アルド自治領”は

 正式に勇者領の一部として認められます。」


「一部、ね。」


「ええ。独立ではありません。

 “観測下の自立”です。」


《翻訳:神の監視付き自治。》


「つまり、リモート管理されるサーバーってわけだ。」


「……分かりやすい比喩ですね。あなたの言葉で言えば。」


 アイラの瞳が微かに笑う。

 敵意のない、けれど油断もできない微笑。

 ノアが口を開いた。


「“信仰対象の明確化”……それは神でなければいけませんか?」


「ええ。信仰の統計値を管理するのは、神だけです。」


「けれど、神の名がなくても人は祈ります。

 子の無事、雨の恵み、明日の糧。

 それらも“祈り”の形では?」


 その声はやわらかいが、真っすぐだった。

 アイラが一瞬言葉に詰まり、手を止める。

 会議殿の空気がわずかに変わった。

 リィムが小さく震え、光を投影する。


《提案:視覚的説明を追加。/主、共有を許可しますか?》


「許可。」


 空に淡いホログラムが浮かぶ。

 リィムと俺が作った〈水循環モデル〉――

 地下水が温室を通り、蒸気になって雲に戻る。

 その過程で人々の祈りタグが散りばめられていく。


《説明:この世界の祈りは“神”だけでなく、“行動”にも紐づく。

 水を汲む手、土を耕す指、それも信仰エネルギーを生成している。》


「……これが、“現場の祈り”ってやつです。」


 沈黙。

 アイラはホログラムに指を伸ばし、ゆっくりと線をなぞった。

 その指先が、青い光を揺らす。

 どこか――懐かしむように。


「……これほどまでに、“祈り”を見える形にした人間を、初めて見ました。」


「祈りを数字にしたのは神だろ? 俺は可視化しただけです。」


「違います。あなたは……祈りを“信号”ではなく、“生命の循環”として扱った。

 ――だから、この街の信仰値は上昇しているのです。」


 その言葉は、記録官ではなく、一人の人間の声だった。

 ミラがこっそり俺の背中をつつく。


「……ねぇ、これ、勝ってる?」


「いや、まだ判定不能。」


《補足:アイラの感情タグ→“動揺/興味”。敵対率二一%低下。》


 俺は小さく笑った。


「アイラさん。

 もし神が“修理不能”のエラーを抱えているなら、俺はそれを直します。

 けど――信仰までは壊すつもりはない。

 それは、みんなの心の仕様だから。」


 沈黙。

 そして、彼女の唇がわずかに動く。


「……風間悠人。

 あなたの存在は、記録上“例外”です。

 異端でも、敵でもない。

 ――“例外”として、記しておきます。」


 そう言って、彼女は聖具に指を滑らせた。

 パネルに新しい文字列が刻まれる。


《バル=アルド自治領/観測下登録:承認待ち/分類:例外存在地域》


 ジルドがぽつりと笑った。


「“例外”か……悪くねぇ呼び名だ。」


 ミラが明るく手を叩く。


「やったじゃん、“例外国家”誕生!」


 ノアは静かに祈り、リィムがやさしく光る。


《ログ更新:自治登録=仮承認/関係値:安定。》


 アイラは少しだけ空を見上げた。

 その横顔には、ほんの一瞬だけ“人間らしい迷い”が浮かんでいた。


「……祈りと修理。

 矛盾しているようで、似ているのかもしれませんね。」


「壊れたものを直すって意味では、同じだと思います。」


 彼女は微笑み、ゆっくりと歩き出した。

 聖具を閉じながら、小さく呟く。


「……記録完了。」


 風が砂を運び、会議殿の外に抜けていく。

 遠くで、芽吹いたばかりの温室の緑が揺れた。


《記録更新:勇者領監査官“アイラ・ヴァンディール”との関係=安定。

 新タグ:共感発生。》


 リィムの光がふわりと淡く光り、俺の肩を温めた。


「……ああ。

 この世界、思ってたより優しいかもしれないな。」


 二つの月が重なり、街の歯車の紋章を照らしていた。

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