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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第20話「評議の始まり」後編

 ざわっ。

 空気が変わる。

 俺は息を吸い、数字を出した。


《表示:水の保守費/温室資材/工具の磨耗予測/緊急備蓄》


「これらは“みんなの命”に直結する共有コストだ。今は寄付で回ってるが、長くはもたない。維持のための“仕組みの負担”が必要になる」


 年長者が眉をひそめる。


「つまり……税か」


「そうだ。けど“罰金”じゃない。“投資”だ。払った分が街に戻り、暮らしを太くする。“見える税”にする」


 若者が手を挙げる。


「金なんかないぞ」


「物でも時間でもいい。公共の仕事に入れば“滴”が返る。滴は水や灯にそのまま使える。――等価だ」


 ミラがすぐに乗る。


「つまり働けば暮らせるし、暮らせばまた働ける。循環ね!」


 ただ、異論も出る。

 痩せた男が立ち上がり、きつい目で俺を見る。


「“王様”が税って言葉を出したら、いつか“取りすぎる”日が来る。それが歴史だった。大丈夫だと言えるのか」


 広場が重くなる。


 俺は頷き、用意していた板を出した。


《公開台帳の提案。収入と支出を常時表示。誰でも監査可能。上限値は評議で固定》


「取りすぎない方法は簡単だ。全部、晒す。上限はみんなで決める。――この場の“光”から外へ持ち出さない」


 男はしばらく黙り、ふっと笑った。


「見える王様なら、信用してもいい」


「見える“王様”はいらない。見える“仕組み”にしよう」


 笑いが生まれる。

 ミラが立ち上がって、両手をぶん、と振った。


「はい拍手! 異議あるやつも拍手! 文句はあとで出せ!」


《拍手強度=高 賛同割合=七七%》


「お前が仕切ると体育祭みたいになるな」


「街はチームだろ?」


 不意に、ノアが俺の横顔を見上げた。


「悠人。……“滴”という名がよいと思います。水が巡るように」


「採用。命名権は巫女様で」


「巫女ではありません。――街の一人です」


 柔らかな笑いが広がる。

 ここまで来たら、今日の評議は“勝ち”だ。

 と思った、その時。


 広場の端で手が上がった。

 粗末な外套の若い男。

 昨日来たばかりの流れ者だ。


「俺は働く。滴もいい。だが……“外との取引”はどうすんだ。勇者領の商人は、異端の通貨なんて受け取らねえ」


 言葉が、砂の上に真っ直ぐ落ちた。

 俺は息を整え、視線を広場一周に滑らせる。

 みんなも同じことを考えた顔をしている。


《議題追加:外部交易と滴の換価》


「……そこだな」


 俺は頷いた。


「外へ出すのは“滴”じゃない。“結果”だ。水、作物、技術、教育、ラジオ……価値を外貨に換える。滴は内側の血液。外との心臓は別に作る」


 ジルドが手を挙げる。


「その話は時間をくれ。仕組みと実験が要る」


「分かった。――じゃあ、今日の評議はここまで。まとめを出す」


《議事録要約

 ・人員配分を可変化 明朝五分の割当会議

 ・育児看護の見える化と滴配分 設計開始

 ・導管移設 明日午前 二十名稼働

 ・“滴”導入の検証 内部通用のみ

 ・公開台帳と上限制 草案作成

 ・外部交易の換価 次回議題》


 拍手。口笛。子どもの歓声。

 ミラが俺の背中を思い切り叩く。


「やったじゃん、王――」


「その呼び方やめろ」


「じゃあ“修理長”!」


「語感が微妙だな」


《新称号案:管理者 街の人からの支持=六一%》


「勝手に投票するな」


 笑いの波が一段落したところで、ジルドが俺にだけ聞こえる声で言う。


「……良い始まりだ。だが、“税”の二文字は街の骨に刺さる。丁寧に、だ」


「分かってる。透明で、抜け道のない――“やさしい税”。それを作る」


 と、ノアが小さく手を上げた。


「ひとつだけ。……“贈り物”の居場所を残してほしいのです」


「贈り物?」


「滴でも数字でもない、“ただ渡す”行為。――時に、人の心を救うから」


 俺は少し考え、それから頷く。


「贈与は“例外の光”として記録しよう。制度の外に、ほんの少しの余白を」


《注記:贈与枠 仕様検討》


 評議は解散。

 椅子がたたまれ、子どもが走り、空に薄い雲がのびる。

 俺は台から降り、深呼吸した。

 砂の匂い。水の匂い。人の匂い。

 街は、確かに“動き出している”。


 と、背後で低い声。


「――なあ、悠人」


 さっきの年長者だ。

 人だかりの陰で、気まずそうに頭をかいた。


「良かったと思うぜ、今日の。それでも、一個だけ……怖え言葉がある」


「なんだ」


「徴税、ってやつだ。

 “取る”のか、“預かる”のか。

 そこを間違うと、王様じゃなくても街は壊れる」


 俺は笑いを収め、真面目に頷く。


「預かって、返す。――約束する。数字で、灯で、笑いで」


 男はふっと口角を上げ、歩き去った。

 広場に風が吹き抜け、投影の光がゆらぐ。


《次回議題候補:徴税の定義 表現の再検討》


「表現か……そうだな。“税”じゃ刺さる。いい名前を考えよう」


《命名サブプロセス起動》


「起動するな。みんなで決める」


 ミラが遠くから手を振る。


「悠人ー! 導管チームの名簿できたよー! あと、お腹すいた!」


「はいはい。まず食べよう。働く前に、ちゃんと食う」


 笑いながら歩き出す。

 俺たちの街の評議は始まったばかりだ。

 “取る”か“預かる”か――次の問いが、もう砂の上に書かれている。


《ログ終了。状態タグ:静的安定/期待》


 ――仕様変更、続行だ。






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