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神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


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第17話「祈りと歯車」

 ――昼の光が、砂の街を照らしていた。

 少し前まで、ただ風の音しかなかった場所。

 けれど今は、金属を叩く音、子どもの笑い声、水が流れる音――。

 そのすべてが、世界が再び“息をしている”証だった。


 俺は広場の中央で、給水塔と連動する風力発電機の試作機をいじっていた。

 拾った部品を組み合わせ、スクラップから作った即席の風車だ。

 リィムがホログラムを投影し、砂埃の中に青い回路図を浮かび上がらせている。


《観測:軸摩擦率=0.42/潤滑油濃度=低下。作動効率:下限値付近。》

「やっぱりか。……ミラ、オイルもう一本!」

「はいよー!」

 砂塵を蹴ってミラが駆けてくる。

 金髪を布で束ね、顔は汗と砂で真っ黒。

 でも、その笑みは太陽よりも明るかった。


「ほら、これ! リィム、こぼすなよー!」

《注意:主より危険。ミラの動作速度=乱数変動。》

「はぁ!? 誰が乱数だって!?」

「お前ら、漫才してないで回せ!」

 笑いながら、俺はハンドルを握った。

 風車がきしみながらゆっくりと回り始める。

 空気を切る音が、まるで新しい生命の息吹みたいに響いた。


 その音を、少し離れた場所から静かに見つめる影があった。

 ――ノア。


 彼女はまだ街の暮らしに慣れないのか、人の群れの中には加わらず、白い外套の裾を握りしめていた。

 日差しの下でも、その髪だけはどこか夜の光を宿している。

 銀と青のあいだ。まるで、祈りの残響が形を取ったみたいな色だった。


「……本当に、“祈り”を使わずに動いているのですね」

 ノアの声は、砂よりも柔らかかった。

 その目には驚きと、少しの戸惑いが混じっている。

「風を使って回してるだけだよ。……神様の奇跡じゃない。仕組みだ。」

「仕組み……。」

《補足:エネルギー変換構造。信仰依存なし。》

「お前、説明固すぎるんだよ。」

 俺の言葉に、ノアは小さく微笑んだ。

 まるで長い眠りから目覚めたみたいな、微細な表情。


 そのとき、風車が一段と回転を増した。

 ギィ、ギィ――と鳴る音と同時に、給水塔の隣に設置した照明球が淡く光る。

 リィムのエネルギーを変換した“人工灯”。

 陽の落ちた夜でも街を照らすことができるように作った、俺たちの試作だ。


 ノアは目を見開いた。

「……光が……祈ってもいないのに。」

 手を伸ばして触れる。

 冷たいガラスの表面の奥に、微かな温かさがある。

 ノアは息をのんで、指を引っ込められなくなったように見つめていた。


「……これは、誰の加護なのですか?」

「誰のでもない。俺たちの手で作った。仕組みと努力の産物だ。」

「……神の代わりに、人が光を……」

 その声は、驚きよりもどこか哀しげだった。


 風が吹き抜け、ノアの外套がはためく。

 砂の粒がきらめき、光の粒が彼女の頬に散った。

「……それでも、人は祈るのをやめられないのですね。」

「祈ることと、願うことは違う。」

「……違う?」

「祈りは神に向かう。でも“願い”は、隣にいる誰かに届く。」

 ノアが目を伏せ、唇をかすかに震わせた。


 沈黙。

 けれど、その沈黙はどこか穏やかだった。


《観測:ノア=感情タグ更新。安堵+興味。》

「実況しなくていい。」

《了解。ただし記録は継続。》

「……ほんと仕様悪いな。」


     ◇


 午後。

 ノアはミラに案内され、街の中を歩いた。

 住民が作った市場は、テントと木箱を組み合わせた手作りのもの。

 小麦と干し肉、修理した工具、布地――。

 どれも小さな取引だけど、そのたびに笑顔が交わる。


「ほら、見て。あれ全部、昨日までは動かなかったのよ。」

「……人の手だけで……。」

「そう。祈りよりも早いの。」

 ミラがそう言って笑う。

 ノアはその笑顔を、まるで初めて見る花のようにじっと見つめていた。


 広場では、子どもたちがリィムに群がっている。

《わたし=リィム。観測補助体。危険ナシ。》

「しゃべった!」「すげー!」

 ノアが目を丸くした。

「この子……意思を持つのですか?」

「感情を学習中らしい。――まだ“嬉しい”の定義も模索中だけどな。」

 ノアは、リィムを見つめたまま微笑んだ。

「……なら、わたしが教えましょう。“嬉しい”というのは、今のあなたたちのことです。」


 リィムが淡く光る。

《新タグ生成:嬉しい。定義参照→ノア。》

「おい、勝手に登録すんな!」

《仕様。削除不可。》

「マジでバグだな……」

 その言葉に、ノアがくすっと笑った。

 彼女の笑い声は、砂の中でも不思議と柔らかく響いた。


     ◇


 夕暮れ。

 風車がゆっくりと回り始め、街のあちこちで小さな灯が灯る。

 木製の支柱に吊るしたガラス球の光が、子どもたちの目を照らした。

 水の音、笑い声、金属の音――それらが夜風の中で混ざり合う。


 ノアはその光景を見つめながら、ぽつりと呟いた。

「……これが、あなたの“国”なのですね。」

「国ってほどじゃない。まだ“修理中”だよ。」

「でも……この灯り、あなたの願いが形になったものなのでしょう?」

「そうだな。祈りの代わりに、努力の回路で繋いだ灯だ。」

 ノアが光の中に手をかざす。

 その指先に、淡い光が映り込む。


 その姿を見て、リィムがそっとログを流す。

《観測:ノア=感情タグ“希望”上昇。/主、観測継続。》

「なあ、リィム。……希望って、修理できるのか?」

《回答:不明。だが、伝播性アリ。/主の隣にも発生中。》

「……ふざけた分析だな。」

 笑って空を見上げる。


 二つの月が重なり、街の灯が星みたいに輝いていた。

 誰かの祈りではなく、誰かの手が作った光。

 ――それが、この国の最初の夜空だった。



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