表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く  作者: かくろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/43

第13話「神の眼、開く」

 ――祈りが、世界を満たしていた。


 聖都ルミナリア。

 女神像を囲むように建つ大聖堂の天井は、夜明け前から光に満ちていた。

 無数の祈祷師が膝をつき、声を合わせる。

 その祈りはもはや言葉ではなく、波動だった。


「信仰指数、上昇。神託装置、共鳴域に到達。」

「抑制は不要だ。神の意志は止められぬ。」


 光の中に立つ一人の存在。

 代行使――エリュシオン。

 人の形をしてはいるが、その瞳には魂の揺らぎがなかった。

 ただ、神の命令をそのまま言葉に変換する“端末”のように静かだ。


「異端都市、バル=アルド。放流者、風間悠人。

 神の理を曲げ、人の心を誑かす。――削除対象に指定する。」


 その宣告に、神殿の空気が一瞬で冷えた。

 祈祷師たちは顔を伏せ、誰一人として反論しない。

 ただ、ひとりだけ声を上げた。


「お待ちください!」

 立ち上がったのは、監視官レオン=アマギ。

 白銀の外套が揺れ、青い瞳が震える。


「彼らは異端ではありません! バル=アルドは……人の手で生きようとしているだけです!」

「祈らずに、生きている。それが罪だ。」

 エリュシオンの声は、無音の刃のように鋭かった。


「神の恩寵なしに存在を維持することは、理の破壊。

 修理不能な異常は、削除されねばならぬ。」

「理……? そんなもの、あなたたちが勝手に決めた“数字”だ!」

「そう。数字こそが秩序だ。」


 レオンの拳が震えた。

 彼の視線の先、巨大な水晶装置が低く唸りを上げる。

 それは祈りをデータとして変換し、天へ送る“神託演算機”。

 女神の像の足元で、淡い光が無数の線となって絡み合っていく。


「……まさか、それで――」

「そうだ。神は見る。神は選ぶ。神は削除する。」

 エリュシオンの声が淡々と続く。

「命令を発動する。対象座標:バル=アルド。――存在修正を開始。」


 聖堂全体が光に包まれた。

 レオンは叫んだ。

「待て! あの街は――!」


《神託発動準備完了》

《祈祷エネルギー臨界》

《命令コード:消去》


 天井を貫く光柱が立ち上がる。

 祈りの声が絶叫に変わる。

 そして――その光は、砂漠の果てへ落ちた。


     ◇


 朝のバル=アルド。


 工房の前では、ミラがパンを配っていた。

「はいはい、ひとり一個ずつ! 焦げてるのはジルドの責任な!」

「焼きすぎただけだ!」

 子どもたちが笑い、通りにはパンの匂いと笑い声が満ちていた。


 悠人は屋根の上からそれを見下ろしていた。

 リィムが肩の上で、光塔の明るさをチェックしている。

《照度安定。水路稼働率:九六%。/生活指数:上昇傾向。》

「いい感じだな。あと一週間で南区も水が通る。」

《評価:進捗良好。/主、やや過労傾向。》

「優秀だな、健康管理AI。」

《主の生命維持は最優先です。》


 穏やかな朝だった。

 誰もが未来を語り、笑っていた。

 ――その瞬間までは。


 空気が止まった。

 風が、音を失った。

 リィムの体表の光が一瞬で濁る。


《警告:上位権限アクセス検知。/識別コード=神域ルート。》

「……また神か。」

 悠人の声が低くなる。


 空の中央が、まるで紙を裂くように割れた。

 白い光が滲み出し、雲のすべてを呑み込んでいく。

 やがて、空全体がひとつの巨大な“眼”になった。


 その眼が、バル=アルドを見下ろしている。


「……リィム、これ……神の監視か?」

《肯定。/光波長、神託と一致。》

「住民を避難させろ!」

《通信展開中。/避難指示発令。》


 遠くでミラが叫ぶ。

「何だよこれ! 空が……!」

 子どもたちの泣き声が響く。


 ジルドが杖を握りしめた。

「来やがったか、神の制裁ってやつが!」

 悠人が歯を食いしばる。

「……上等だ。修理屋の仕事だろ、バグの除去は。」


《警告:光子エネルギー降下開始。》

 空の目が、ゆっくりと閉じる。

 次の瞬間、光が落ちた。


 白。

 熱。

 轟音。


 砂の町が焼かれ、塔が砕け、光塔の周囲が一瞬で蒸発する。

 空気が悲鳴のように震えた。


《防御モード起動。/観測バリア展開――》

 リィムの声が響く。

 青い光が悠人の周囲を包み、衝撃波を打ち返す。

 地面が裂け、砂が浮き、空が悲鳴を上げた。


 数秒。

 それだけで街の半分が崩れた。

 残る光が空に吸い込まれていく。


     ◇


 聖都ルミナリアの神殿。

 エリュシオンが静かに言う。

「異端都市、修正完了。」

 その声は祈りより静かで、裁きより淡かった。


 レオンだけが、動けずにいた。

 だが、彼の目は確かに見た。

 光の中に――青い閃光が、わずかに逆流していたのを。


「……風間悠人……君は、まだ……生きてるのか……?」


     ◇


 砂塵が漂う。

 焼け焦げた岩の上、ひとりの少年がゆっくりと起き上がる。

 その肩で、半透明のスライムがかすかに光っていた。


《システム再起動。/主、生存確認。》

「……ああ、聞こえる。」

 悠人は立ち上がり、焦げた塔の残骸を見上げた。

 空はもう青くない。

 でも――まだ、立てる。


「修理屋をなめんなよ。壊されたら……直すだけだ。」

 リィムの光が強く脈打つ。

《同意。/再構築モード、起動可能。》


 砂の風が吹き抜け、崩れた街の中で青い光が灯った。


 ――神の裁きの中で、

 “人の反逆”が、静かに再起動を始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ