唐突な死。
さて、魔法学園とやらに行くことになった俺だが……。
その道中で、色々と考えていた。タイムリープの規則性について。
恐らくだが、あの女……自称神かなんかしらんが、奴に出来る行動の範囲には限界があるのではないか?
という仮説だ。永久に死ねないようにするなら、単に不老不死にすればいいだけのことだからな。
それはしなかった。つまり、「出来ない」こともあるのではないか? という話だ。
ようするに。規則性というよりは、戻せる回数、日数に限界があると考えれば
しっくりする。
後は、俺自身が人生を全うすることが前提となっているのではないか?
寿命で死ぬ。それ以外の行為で死んだ場合、戻される。
しかし、そんな単純なことであの性悪女が満足するだろうか?
それとも、それが奴の能力、制約の限界か?
それ以上のことは、この「世界」が許さないとか?
可能性は、あるな。が、あの笑い方……何も起きないとは思っていない。
何かある。俺の人生は、必ず。まっとうな人生で終わるはずがない。
そんなどこか──直感のようなものがあった。
それとも、あの女は実は良い奴でわざわざこの能力を与えてくれたとか?
そもそも、最初は異世界転生して好きな人生を~とか言ってたわけだしな。
その後の豹変っぷりを見る限り、どうかと思うが。
ま、これ以上考えても無駄か。取り合えず、俺は死ぬのをやめた。
諦めたといった方が正しいか。この問題を解決するには、あの女に直接会って
どうにかするのが一番早いと思うが、そもそもこの世界にいない可能性のが高い気がしてきた。
となると、実際どうかわからんが……仮説として、俺が寿命を迎えるまで
この人生を精一杯生きろということだろうか?
やれやれ。誰も望んじゃいない世界なのに、な。
物思いにふけっていると、学園についていた。
貴族連中が通う学園だが、優秀な生徒なら平民でも入れるらしい。
留年した俺にこの学園で居場所があるとは思っていない。
記憶を辿ると、今までの学園生活も影が薄かったようだ。
引っ込み思案で、優柔不断。今の俺とは真逆か。
何回も自殺してるような人間だしな。ハハ。
決断力の塊ともいえる。
案の定、教室に入ると俺に対する視線は痛かった。
あいつが留年生? ださっ!みたいな感じ。
どうでもいいので、俺は無視した。
つっかかってくる奴もいたが、何度も死んでいる俺は度胸の塊でもあった為
向こうの方がびびって引いていった。
まあ、実力的に勝てないやつに絡まれたら終わりだけどな。
態度がでかいだけのような奴には負けはしない。
そんなこんなで、放課後。帰宅しようとする俺を迎えるメイドの姿があった。
フローラだ。
「アキラ様、お疲れ様でした。それでは、帰りましょう」
「ああ」
馬車にでも乗って帰るのかと思ったら、まさかの徒歩。
いや、この学園までそこまで距離はないから徒歩が正しいんだが。
引率が必要な歳じゃないぞ? せめて、乗り物ぐらい用意してくれと言いたい。
そんなことを考えていた時だった。
目の前の男に気づいた時──。
「アキラ様っ!!」
「えっ……」
フローラが俺を突き飛ばす。どうして?
その瞬間。フローラの胴体が剣で貫かれた──。
「フ、ローラ……」
「がっ……ごほっ……! に、げ……」
言い終わる前に、フローラは俺の腕の中で動かなくなった。
死んだのだ。死んだ? 何故? どうして? フローラが? 嘘だ。信じられない。
血。血、血、血。血が……溢れてくる。
「う、あ……あぁああああああああああああっ!!」
俺は、叫んだ。そして──。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──はっ!?」
な……んだ。おい。何が……。まさか、俺は……。
「に、げ……」
は? おい。冗談だろ? な、んで……ここから、なんだよ。
フローラが、死んだ。その場所から、再スタートって。おい、おい。おい、おいっ!!!
冗談だろっ!! なんで、こんな慌てているんだ、俺は。
自分は何回も死んで来ただろ。自分じゃないだけで……こんな、こんな……こんな、悲しくなるもんかよ。
くそっ! クソクソクソ、くそぉおおおおおおおおおおおっ!!
もう、戻れない。フローラの死が、確定した。
何度死んだって、やり直したって。フローラは、死ぬ。
確定した事実。バカな。なんで? 俺じゃなくて、フローラが。
あのメイドの無表情でぶっきらぼうな顔が、もう。見れない。
信じられなかった。
そして、俺は。叫んだ。
「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」
正面の男に、突撃する。そして、あっけなく。殺された。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──はっ!?」
……ま、たか。
「に、げ……」
何度、この顔を見ればいいんだ、俺はっ!!
逃げるしかないのか? 勝てない。奴には。なんで死んだかもわからないぐらいの攻撃だった。
なら、逃げろ。置いていくのか? フローラを。いや、もう死んでいる。
じゃあ、いいじゃないか。そうだろ? ……けど。
だめだ。考えている暇はない。逃げることにした。
俺は、初めて。恐怖した。死に対して、だ。
自分が死ぬことより、他人の死に対してと言った方が正しいかもしれない。
いや、自分が死ぬことも多少の恐怖を感じている。
わけがわからない。とにかく俺は走った。出来るだけ遠くへ。
「鬼ごっこは終わりかい?」
逃げられるわけも、なく。そりゃそうだ、なんで死んだのかわからないってことは
それだけ攻撃速度も速いってことだ。つまり、足が速い。逃げられるわけがなかった。
また、俺は死んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──はっ!?」
「に、げ……」
何度見ればいい。俺は、この顔を。いやだ、いやだいやだいやだ! もういやだっ!!
助けてくれっ! 誰かっ!! 俺をっ!!! 俺が何をしたっ!
あの性悪女めっ! これが狙いだったのかっ! 俺に地獄を見せるって、これかよっ!
もう沢山だっ! 何度、死んだかわからない。1000回から先は数えるのを、やめた。
あの女の笑みが浮かぶ。さぞ、楽しんでいる頃だろう。くそったれっ!
へっ……まだ、イラつくだけの元気があるとは思わなかった。いい加減、精神崩壊してもおかしくない。
それぐらいの死の数だった。
「はぁはぁ……」
「君には死んで貰うよ」
「何が、目的だ?」
相手は答えなかった。徹底している。暗殺のプロか?
少なくとも、戦闘のプロであることは間違いないだろう。
どうすることも出来ない。1000回以上、ありとあらゆる手を試したが、俺は死んだ。
勝手にしろ。どうせ、また生き返る。巻き戻される。
つーか、今回は制限ねーのかよ。何回、ロードするんだっての。規則性もあったもんじゃない。
ん? ということは……。
その時だった。俺の胸を血塗られた手で掴んだのは。
「ア、キラ……さ、ま」
「フローラっ!? お前、生きて……」
初めてのケースだった。フローラが絶命していなかったのは。
いや、もしかしたら俺が立ち止まっていたのが今回が初だったから、かもしれない。
諦めて。その結果。
「わ……の、こと……ゴホゴホッ! お、おに……げ……」
まだ、言うか。その言葉を。こんな状態でも、お前は。自分の事より、俺のことを……。
なんでだよ。俺はお前にそれほどのことをしてきたか?
覚えがない。そんな覚えは。ただのメイドだ。何故?
「すぐに同じ道を送ってあげるよ」
「あ?」
なんだって? すぐに? こちとらもう、1000回以上は経験してるんだよ。
いい加減にしろよ。てめえ。俺の事はいい。だが、フローラの死をこれ以上、見せるな。
許さねえ。こいつだけは……。この俺が。この、俺が……。
「殺す」
「ふっ」
鼻で笑われた。当然だろう。ただのガキにどうしろと。知るかよ、そんなもん。
キレた。俺は。キレちまったんだ。後先考えるのをやめた。
がむしゃらに突っ走った。
その時だった。俺の体が光り輝いたのは。
「な、何──」
俺の渾身のパンチに、初めて奴が対応した。ガードしたのだ。
「その程度かい?」
俺は、死んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──はっ!?」
「に、げ……」
またか。もう何度目だ。ごめんだ、この顔を見るのは。終わらせる、絶対に。
もう俺は逃げない。死から。決心したんだ、この不条理な連鎖を断ち切る為に。行動するだけ。
俺は、思いついた。何度死んでも、終わらない。つまり、こんな出来事は。
「俺にとっちゃ、大した状況じゃねえってこった」
「何……?」
男が少し、イラついた表情を見せた。ハッ!
「大した事ねえっつったんだよ、聞こえなかったか?」
さらに不快な顔をして、俺を八つ裂きにした。
「がぁああああああああああっ!!」
「はっ、口だけのガキはこれだから困るんだよ」
俺の指を一本ずつ、落としていった。
「あっあっ、あぁああああああああっ!!」
痛い。痛い。痛い。痛すぎる。痛いなんてもんじゃないっ!!! 発狂するっ!!!
口は禍の元というべきか。あっさりと殺さずに、なぶり殺しにされた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「──はっ!?」
「に、げ……」
俺は、逃げない。この連鎖から。ようするに、無限ループを繰り返しているってことは。
攻略可能、ってことだ。俺の考えが正しければ、あの性悪女が俺を無限の地獄に突き落とすことは
出来ない。おそらく、なんらかの制限があると見ている。
となれば、この状況はクリア可能ということだ? どうやって?
俺の覚醒した力。確かに信じられないぐらいの力だったが、奴には通用しなかった。
いや、違う。通用しなかったんじゃない。恐らく、俺の力はかなりのものだった。
奴がガードに徹する必要があったぐらいには。
ということは、足りないのは「経験」か。
俺は笑った。なんだ、大したことないじゃねえか。
「経験だぁ? そんなもん、死ぬほど得られるじゃねえかよ……!!」




