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相談事

 昨日、ララに相談があると言われ、放課後、ユーリはララにつれられ相談人のもとへ案内されていた。

話に寄るとどうやらララの友達が少し困っているらしい。その友達と言うのが、今目の前で学院のベンチに座っている女子生徒だ。


 青髪のショートでまだ少しだけあどけなさがある女の子。制服も少しだぼっとしていて、ベンチに座る足は浮いている。

 髪と同じ海のような青い瞳とユーリは目が合った。


「その子がララの言ってた人?」

「うん、精霊魔法科の生徒で名前はレインちゃん」

「はじめまして、レイン・ビリーブです」


 ユーリが尋ねると、ララが紹介し、レインという女の子がかぼそい声で答える。


「あれ、もしかして昨日いた子だよね?」


 ふと見覚えのある顔だな、とユーリは思った。

 昨日の放課後、ララと一緒に実践場に来た青い髪の女子生徒だ。あの後、彼女はレオを追ってすぐにいなくなってしまったのをユーリは覚えている。


「そう、実はそのことなんだけど、ユーリは貴族のことってどれくらいわかる?」


 王国における貴族の数は多くはないが、下級から上級までいくつかの貴族が存在する。そして貴族の家系は遺伝的に魔法の実力に優れており、各々が秘伝の魔法を受け継いでいるという。それがユーリの持つ貴族における認識だ。

 貴族のしきたりや事情などはまったく知らない。なぜなら都市マディアに来たのは約三年前でそれまで王国の辺境で暮らしていたのだから知る由もない。


「ララもね、平民の出だからわからないけど、レインちゃんは貴族出身なんだ」

「そうなの?」

「うん、貴族と言ってもそんなにすごくはないよ。あたしは下級貴族だから」


 レインの実家であるビリーブ家は精霊魔法に精通する家系だそうだ。精霊魔法は魔法の中でも特殊だ。

 魔法は本来、無詠唱魔法を除いて詠唱しなければ発動することができない。しかし、精霊魔法は詠唱を必要としない。加えて、魔法の威力も詠唱ありと同等。けれども精霊魔法を扱える人間は少ないため、めずらしく重宝されやすい。

 ユーリも精霊魔法について色々聞きたいところだが、それはまた別の機会だ。


「レインちゃんが貴族ってことは当然、貴族同士のつながりもあるのね。それでレインちゃんはレオとも知り合いらしいの」

「へぇー、貴族って交流の幅が広いんだね。てっきりいがみ合っているものかと思ってたけど」

「確かにユーリさんの言っていることも間違いではないよ。それにあたしがレオくんと知り合いになったのも偶然だから」


 レオの実家であるフランバーン家は上級貴族の中でも上位の家系らしく、本来、下級貴族であるビリーブ家とはあまり関わらないらしい。たまたま社交界で同い年ということで知り合ったとレインは言う。


「で、本題なんだけどユーリも最近感じてると思うけど、最近のレオってかなり荒れてるでしょ?」

「僕からすればいつも通りな気もするけど、最近は特にひどいかも」


 ユーリに対する態度もそうだが、紅音に対する態度はもっと酷い。

 レオに実力があることはユーリも認めている点だが、彼の性格に関してはあまりよく思っていない。それはきっとレオも同じだろう。


「ララも少し思うことがあるの! 特にユーリに対するあの態度はなに⁉ 当てつけ⁉」


 被害を受けているであろうユーリよりもララの方がなぜか怒っている。するとララの口を塞ぐようにレインが声を上げた。


「やめて、あんまりレオくんを悪く言わないで!」


 青い瞳をうるうるさせるレイン。我慢ならないのか、彼女は膝の上で両こぶしをぎゅっと握る。


「ご、ごめんレインちゃん! レインちゃんを泣かせるつもりはなかったの」

「ぐすっ、レオくんはそんな人じゃないの・・・。優しくてかっこいいの」


 まるで子供のようにレインは涙を浮かべ目元を赤く腫らす。


「ララが悪かったから・・・ね、泣かないで。・・・ユーリ助けて」


 対処しきれなくなり目に涙を浮かべるララ。さすがにララにまで泣かれたら困るのでユーリは助けに入る。


「ねぇ、レイン。レオのことについて聞かせてくれないかな? なんでもいいから最近何があったのかさ」


 すると落ち着いてレインは話してくれた。


「たぶんだけどレオくん本人に何かあったわけじゃないと思うの。交流戦が近いからだと思う」

「それはどうして?」

「結果が欲しいから、だと思う」

「結果か・・・。詳しく聞かせてくれないかな」


 手掛かりが少しだけ見えた。

 レオが交流戦にかける理由を。

 結果を求めるわけを。

 レインはそれらの理由をレオの身の上話を含めて詳しく話してくれた。


 フランバーン家。

 由緒ある上級貴族であり、王国魔法士団をに何人もの人材を輩出している名家である。火属性魔法を得意とし、それは家紋にも印されている。

 現にフランバーン家の現当主は王国魔法士団の副団長であり。当主の長男も次男も王国魔法士団に所属している。そして三男であるレオは学院生。つまり彼もまた王国魔法士団を目指しているわけだ。


 しかし、レオには王国魔法士団に入団できるほどの輝かしい実績がない。グリンディア魔法学院の次席では足りないのだ。なぜならグリンディア魔法学院の次席レベルではオーディル王立魔法学院と比べると普通のレベルだ。

 ゆえにレオは学院を卒業するまでに王国中にその名を示すほどのふさわしい実績が必要なのだ。


「なるほど、それでピリピリしているのね」

「だからきっとレオくんも代表戦に選ばれて、結果を残せたら少し変わると思うの」


 納得するララに切実にレインは答えた。

 レオが代表メンバーに選出されること。その可能性は十分ある。けれど結果を残せるかはまた別の話だ。


「レオの実力ならば代表戦に選ばれると思う。もちろん僕も出るつもりだ。だからもし一緒に出場することになったら結果を残せるよう全力を尽くすよ」

「うん、ありがと。少し大変かもしれないけどお願い。・・・何かあったらあたしに言って。あたしの話なら聞いてくれるかもしれないから」


 気まずそうな笑みをレインは浮かべる。  

 レインにとっては知人が周囲からあまりよく思われていないので、気にするのも当然だろう。

 こんなに気にかけてくれる人がいるというのにレオはあの態度だ。これではレインの方が可哀そうだとユーリは思う。

 でも、正直に言えばユーリはレインの話を聞いても腑に落ちていない。


(ほんとうに理由はそれだけなのか・・・?)



   ◇



 とある放課後。


「来たぞ」


 扉を開け、紅音は机を隔てた椅子に座る男に言った。

 男の名はウィン・ビトレー。最近、学院に来た特別講師である。

 いつものキラキラフェイスを浮かべる彼。紅音が胡散臭いと思う顔だ。


「やぁ、今日も来てくれてありがとう」


 組んだ膝を崩し、ウィンは椅子から立ち上がった。


「じゃあ、さっそく始めようか」


 ウィンはポケットからある物を取り出す。空間魔法を再現する魔道具だ。以前、紅音とレオが勝負した時にブランクが使ったものである。

 ウィンがそれに手をかざすと光が瞬く間に部屋を侵食する。


 白く染まる視界。


 気づけば紅音は別空間に立っていた。

 地下遺跡のような陰湿な一本の通路。足音を立てれば、薄暗い通路に音が反響する。両脇に備えられた松明だけが通路をかすかに照らしていた。

 ひとたび足を踏み入れれば戸惑い、焦るところだろう。けれど、紅音にとってこの場は見慣れた光景になっていた。


「ふぅー」


 軽く息を吐く。精神を落ち着かせ、赤い瞳を閉じる。

 意識を目に集中させ、紅音は再度赤い眼を見開いた。

 通路の先に見えるのは入り組んだ赤い線。先ほどまで見えていなかった線だ。まるで蜘蛛の糸のように紅音の行く先を阻もうとしている。

 ウィン曰くこの線は魔力の線だと言う。触れればビリッと電流が流れるようになっているらしい。無論、死に至るほどの電流が流れているわけではないが。


「っ!」


 ぐっと姿勢を低くし、紅音は赤い線が張り巡らされた通路を疾走する。

 決してその線には振れぬようにジャンプし、左右に身を振り、地面を滑る。集中が途切れぬよう赤い線に目を凝らす。そして一本の線に触れることなく、百メートルほどの距離を駆け抜けた。


「うん、上々だね。これなら問題なさそうだ」


 広間のゴールで待っていたのはウィンだ。満足げに彼は笑みを浮かべ、パチッと指を鳴らすと魔法は解け、先ほどいた部屋に戻っていった。


「どうかな、少しは慣れてきたかな?」

「よくわからん。だが、以前よりははっきり見えるようになった気がする」

「そうか、なら良かった。前にも言ったけど紅音ちゃんには代表戦に出てもらうからね」


 さらっとウィンはあるまじきことを言った。

 本来であれば代表戦のメンバー発表があるまで生徒たちに知らされることはない。しかし、今回ばかり特別な理由があった。


「紅音ちゃんにはその能力を十分に発揮してもらう必要があるからね」

「何度も言わなくともわかっている。お前たちが何を企んでいるかは知らないが、より強い力を手に入れられるならば私は貴様らに従ってやる」


 紅音の能力。ウィンが言うにそれは『魔力を見る』ものらしい。

 常人には魔力を可視化することができないが、紅音にはそれができるらしい。

 紅音もはじめは何を言っているのかさっぱりだったが、以前から糸のような空気の流れみたいなものが見えていた。それを斬ると不思議と放たれた魔法や魔法陣が消えるのだ。

 つまり魔力の流れを断ち切っているのであって、ウィンの説明には信憑性があると言えるだろう。


「魔力はね、大小の差があっても誰もが持っているものなんだ。だから、誰しも魔法を使える可能性は秘めている。ただ紅音ちゃんの場合は体内の魔力をその目に消費しているんだ。だから、君には他の人と同じような魔法が使えない」


 厳密には使っているけどね、とウィンは付け加える。

 一方的にウィンは説明するが、紅音にとっては馬の耳に念仏である。なぜなら紅音はこれまで魔法というものを学んでこなかったのだから。魔法の「ま」さえ理解できていない。


「どうかな、少しはわかってくれたかな?」

「あぁ……」


 もちろん一寸もわかっていない。ただてきとうに返事しただけ。

 これで今日の秘密の特訓は終了。すると待っていましたと言わんばかりにウィンは笑顔を向ける。


「ところでさ、この後デートでもどう?」

「断る」


 毎回のくだりを経て、紅音は部屋を出た。


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