4話 そこにいた者①
「悪いねぇ、うちじゃ茶葉は扱ってないよ。」
「そう、ですか。」
あれから数日が経って。
そういう可能性も覚悟の上ではあったけど、やっぱり進展無しはツラい。
いざ探し始めて見て、そこで気付いた。
そもそもの話、紅茶なんてどういうとこで売ってるのかを知らなかった。
村の頃に何度か手伝いで買っていった事はあったけど、売ってくれたのは、色々扱ってる行商人だった。その人の他の荷物から予想して食材関係、野菜を売ってる店を回ってみてるけどこの調子。
途中から違う気はしてきたけど、とにかく歩いて探し回るしかなくて。地図は物資を運ぶのに必要な、簡単なのしか無いし。
「でも、そういう物好きの品なら、あそこなら扱ってるかもね。」
「本当!? それってどこ!?」
不意に来た希望に身を乗り出す。勢い余って葉の玉が落ちかけたけど、ギリギリで台の上にとどまる。
「この道をまっすぐ、塔を挟んで向こう側の店さ。
茶菓子を作ってる店なんだけど、なんか変わった茶葉も多く扱ってたはずだよ。」
そうと聞いたら、この場でゆっくりなんてしていられなかった。
「分かった行ってみる、ありがと!」
あくまで最優先は荷運び、反対側なんて中々行く機会が無かった。
けど村民の受け入れがどんどん進んでいって、必要な荷物も減って、荷車も小さいものに置き換わって。
もう時間も体力も余裕がある。早速行ってみよう。
…その場所はあっさり見つかった。
できたての焼き菓子の香りの漂う店、その窓の淵。装飾のように置かれてる茶葉の瓶の中に、見覚えのある手書きラベル。
まさに探してたそれだった。
しかし高い。嗜好品が高いのは知ってたけど、もしかしてそれに分けられるやつ?
多少なら手持ち金はあるけど、全然足りない。
それでも一応残高を、と財布を取り出した瞬間だった。
財布にしてる袋の紐が、指先から外れる感触。
いきなりの事で頭が回らなくて、反応まで数秒。
感触の方向を見渡すと、周りの人の流れと明らかに違う走りのフード付き茶ローブの後ろ姿。
「っ、待て!」
咄嗟にそいつを追いかけ始めるのは、考えるまでもなかった。
けど最初から開いてた距離、こちとら初めて踏み入る土地、すぐに建物の角で見失い逃げ切られてしまった。