94.ホテルマン、薬草採取に行く
「あっ、やくそうがあるよー!」
「オイラが一番だー!」
町の外に出た途端、シルとケトが駆け出していく。
聞いたところに向かうと、本当に薬草が生えていた。
「俺の知っている薬草と同じだな……」
矢吹は薬草を手に取ると、ジーッと観察していた。
どうやら形や色はダンジョンで見つかる薬草と変わらないようだ。
「それならこの薬草を持って帰ったら売れないかな?」
「えっ……」
矢吹は驚いた顔で俺を見ていた。
確かダンジョンで手に入るものって、探索者にとっては高価なものだと聞いたことがある。
魔物の魔石が生活の一部として使われているぐらいだ。
それなら薬草を持って帰ったら何かに使えたり、売買できるかもしれない。
「みてみて! たくさんあつまった!」
「オイラも!」
シルやケトはたくさんの薬草を抱えて戻ってきた。
その様子を見て矢吹はゴクリと唾を飲み込む。
「本当に売れたら民泊もしなくていいくらい収入源になるぞ!」
「カップラーメンもかえるかな?」
「ダンボールで何ケースも買えるぞ!」
「「おおおおおお!」」
矢吹の言葉にシルとケトは気合いを入れ直して、再び薬草を採取しに行った。
あいつらカップラーメンのことになると真剣になるからな。
「エルは薬草のこと覚えてる?」
「薬草ですか? いえ……このような葉っぱは知らないですが、私の住んでいたところにも傷を瞬時に治すものがありましたね」
「それはまたすごいね……」
記憶が少しだけ戻ったエルには雪女の村から追い出された記憶のみが曖昧になっている。
ただ、村にあった物などは記憶が戻ってきたようだ。
「エル! 座ってー!」
「どうしたのかしら?」
エルは言われた通りにその場に座ると、頭にふわりと冠が載せられる。
「薬草で作ったの!」
「わぁ、嬉しいわ!」
真っ白な長い髪に薬草でできた緑の冠。
太陽の光を受けて、少し輝いているように見えた。
「エルって元は金髪なんだね」
「えっ……?」
エルがわずかに瞳を震わせた。
聞いたらダメなことだったのだろうか。
「あー、光が当たってるところが、ほんの少し金色に見えたからさ」
彼女の髪は金髪から色だけを抜き取ったような白に近かった。
陽だまりで俺が勘違いしていただけなのかもしれない。
「サラ、俺の分の冠はないのか?」
「すぐに作るから待ってて!」
サラは嬉しそうに薬草を編み込んでいた。
薬草で冠を作るって、サラは思ったよりも器用のようだ。
「じゃあ、俺もたくさん採ってこようかな」
俺もみんなに負けじと薬草を採取していく。
「カップラーメン! カップラーメン!」
「しょうゆ、みそ、しおによこはまけい! やさいたっぷりじろうもいいなー」
シルはラーメンの歌を口ずさんでいた。
途中、矢吹にそんなものまで食べさせていたのかよと視線を向けられるが、俺は気にしない。
「ひひひ、薬草はいいなー」
ついつい宿屋のおばあさんの笑い方に似てしまう。
あまりお客さんが来ない民泊では、養護施設に寄付するための金稼ぎに薬草採取はいいからね。
ほとんどはシルのポケットに回収してあるから、たくさん持って帰れるはずだ。
「ふぅー、みんな薬草はたくさん採取できたかな!」
「たくさんというか、ほぼ採り尽くしたぞ……」
「ははは……そういう日もある!」
俺は気にするなと矢吹と肩を叩く。
たくさんあった薬草はなくなり、地面が見えていた。
全員で五人と猫一匹で集めたら、たくさん採取できるからね。
「ふく、サラがいないよ?」
「……えっ!?」
シルの言葉に俺は周囲を見渡す。
さっきまで楽しそうに薬草で冠を作っていたのに、どこに行ったのだろうか。
町に勝手に戻ることはないだろうし……。
「ひょっとして森の中に入ったのか?」
矢吹の言葉に俺は森をジーッと見つめる。
風も吹いていないのに、どこか怪しげに木々が揺れている。
薬草採取をしているときにも気になっていたが、なぜか引っ張られるような感覚がした。
「オイラ、あそこにはいないと思うぞ……」
「ひょっとして怖いのか?」
「そそそ……そんなことない! オイラはふくじゃないもん!」
ケトは森に向かって歩いていくと、途中でピクリと立ち止まり戻ってきた。
「オイラだけ行かせるつもりか! ひどいぞ!」
俺の足を何度も踏みつけてくるが、いくらケトが蹴っても痛くない。
ケトを右手で抱きかかえると、反対の手にシルが手を握ってきた。
やっぱり座敷わらしでも怖い――。
「ふくはあぶないからね!」
どうやら俺が危ないから手を握っているらしい。
小さな子どもに守られるなんて情けない。
ただ、この場では俺が一番役立たずだからな。
「俺が先頭を警戒する」
「後方は私が見張りますね」
前衛に矢吹、後衛にエルと守りを固めて森の中に入ることにした。
もちろん戦えない俺は真ん中を陣取っている。
「本当に森の中にいるのかな……?」
「私とサラの魔力は性質が似ていますが、奥にいるような気がしますよ」
氷を扱うエルと水を扱うサラ。
どちらも似たような存在なんだろう。
「幸治、伏せろ!」
「へっ!?」
俺がすぐにしゃがみ込むと、宙を何かが通り過ぎた。
「あれは……犬?」
そこには二足立ちで立つ犬の姿があった。
ただ、口からよだれが流れ、目は焦点があっておらず、ギョロギョロと動いている。
その姿に気持ち悪さを覚えた。
「まるでコボルトそっくりだな……」
「ケトの友達か?」
「ふく、呪うよ?」
どうやらケトの友達ではないらしい。
ケトのように二足で立つ猫がいれば、犬がいてもおかしくない。
でもケトみたいな猫又とは一緒にしてもらいたくないようだ。
「グルルルル……ガッ!」
再び犬が俺に向かって飛び込んできた。
なぜ、こういう時って俺ばかり狙われるのだろう。
「うおおおりゃ!」
鋭い風切り音とともに、剣が薙ぎ払うように上空を走り抜けた。
空気そのものが裂かれ、遅れて残った衝撃が肌を打つ。
矢吹が構えていた剣は犬を斬りつけ、衝撃は木にぶつかり勢いを止めた。
犬はその場で動かなくなっていた。
「殺して大丈夫なのか?」
俺の言葉にみんな頷いていた。
「あれは魔物だ」
矢吹は犬を魔物と言っていた。
俺から見たら、ダンジョンにいる魔物とその辺にいる妖怪もどきの区別がつかない。
ここはみんなの邪魔をしないのが一番良いのだろう。
その後も森の中を歩いていくと、周囲は静かになり鳥の鳴き声すら聞こえなくなってきた。
「ねぇ……ふく……」
「どうし――」
俺たちはあるところに立ち止まった。
「なんで……ここにあるんだ……」
森の途中で薄らと茂みに隠れたところに、大きな鳥居がそびえ立っていた。
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