93.ホテルマン、冒険者活動をする
「あー、よく寝たな……」
眩しい朝日が俺の顔を照らし、本当に妖怪の世界なのかと思ってしまうほどスッキリとした目覚めだ。
あれだけ幽霊を気にしていたが、昨夜は見ることもなく、無事に寝不足が解消できた。
やはり早寝早起きが一番良いのだろう。
「んっ……ふく、おはよ……」
俺が起きたことに気づいたのか、シルは目を擦っていた。
寝相が悪かったのか、俺の隣で寝ていたはずなのに矢吹の上で寝ていた。
いや、正確に言えばエル以外の妖怪が矢吹に引っ付いていた。
話を聞いて怖くなったのだろう。
俺よりも矢吹の方が頼りになるからな。
「ああ、シルおは……やぶきん!?」
ただ、みんなにひっつかれていた矢吹は魂が抜けたような顔をしていた。
「おーい、やぶきん大丈夫か……?」
「……はっ!?」
矢吹は目を覚ますと、周囲の警戒を強めた。
その手にはなぜか剣を持っていた。
「まさか剣を持って寝てたのか?」
「出たんだよ!」
「何が?」
「幽霊だよ!」
矢吹の焦った表情に俺は背筋がゾクッとした。
まさか本当に幽霊が出るとは思わなかった。
俺も半信半疑だったからな。
「どうやって出てきたんだ?」
「床の軋む音が少しずつ近づいてきて、気づいた時には俺の顔を……あれは間違いなく幽霊だ」
「シルは見てないよ?」
「オイラも」
矢吹にくっついたまま寝ていたシルとケトは気づかなかったようだ。
俺と矢吹にしか見えないってことは、人間の俺たちを狙って――。
「ヒヒヒ、きっとそれは私だよ」
「「うおおおお!?」」
俺と矢吹は突然声が聞こえてきて驚いた。
部屋の入り口には宿屋の店主であるおばあさんがいた。
「部屋の見回りをしているからのう。朝ごはんはたべていくかね?」
「食べるー!」
「オイラも!」
「私たちも行きましょうか」
俺と矢吹を置いて、みんなは1階に降りて行った。
「おい、あのおばあさんはなんて言ってたんだ?」
「見回りをしているらしぞ?」
部屋の中は静かになる。
「「んっ? 見回り……?」」
俺たちはお互いに顔を見合わせた。
「「ぶっ……あはははは」」
張り詰めていた緊張が一気に解かれ、俺と矢吹は同時に笑い出す。
まさか幽霊だと思っていたのが、おばあさんに怯えていたとはね。
「幽霊が出たってなんだよー」
「そんなこと言ったら、怯えて一緒に寝ようって言ったのはだれだ?」
「そっ……それぐらい別にいいだろ!」
養護施設で一緒に寝ていた時の頃を思い出す。
あの頃も見回りに来ていた職員さんを幽霊と勘違いして怯えていたな。
「朝飯の準備ができたらしいから食べにいこうか」
「だから、あんなに勢いよくついて行ったんだな」
「はぁー、朝から笑ったらお腹が空いたね」
さすがに妖怪の世界でも幽霊はいないよね。
きっと出てくるなら幽霊じゃなくて、妖怪だし。
朝食を食べ終わり、しばらくこの世界に滞在することになった俺たちは暇つぶしに冒険者ギルドに向かった。
「俺たちでも受けられる依頼ってあるか?」
「んー、こういう葉っぱを集めるのはできないかな?」
しばらく妖怪の世界に滞在することになった俺たちは、せっかくだからと冒険者として活動してみることにした。
探索者である矢吹がいれば、特に危険な場面はないだろうし、ダンジョンで生き残った俺たちなら大丈夫な気がする。
「あの葉っぱを回収するのを引き受けてもいいですか?」
俺は冒険者ギルドにいる職員に尋ねる。
「薬草の納品ですね!」
「薬草……?」
「ええ、この周辺に生えていますので、いつでも持ってきていただいて構いません」
どうやらあの葉っぱは薬草って言うらしい。
まるでゲームの世界のようだ。
って言ってもゲームって数回しかしたことがないけどね。
仕事が忙しくてそれどころではなかったし……。
「ただ、あまり森の奥に近づかないでくださいね!」
「わかりました!」
ダンジョンが活発になっていると、森の危険度も上がるらしい。
うさぎとかが凶暴にでもなるのだろうか。
「あれって薬草って葉っぱらしくて、町の外だとそこら辺に生えているらしいぞ」
「薬草!?」
やけに矢吹は驚いた顔をしていた。
俺は薬草が生えている場所を聞くと、矢吹たちと薬草の採取に向かうことにした。
ただ、矢吹はずっと何かを考えているようだ。
「なぁ、薬草ってここは本当に妖怪の世界なのか?」
「やぶきんが妖怪の世界って言い始めたんだよ?」
「いや……そうなんだが。薬草ってダンジョンの中でも生えていたりするからな」
矢吹の話では地球にあるダンジョンでも同じような葉をした薬草というものが採取できるらしい。
獣の闇庭がダンジョンと繋がっていたわけではなく、この世界自体もダンジョンではないのかと疑問に思っているようだ。
「そもそもダンジョン自体が不思議なものだからわからないよね」
「そうだな。俺たちのスキルも昔はなかったからな」
何が原因で探索者のスキルが使えるようになったのかは未だに謎は解明されていない。
ダンジョンすら魔物が飛び出してきて見つかったぐらいだからね。
「ふくー! やぶきーん!」
「早くしないと呪うよ?」
シルたちが楽しそうに俺たちを呼んでいた。
薬草採取ってどこかピクニックに行くような気分なんだろう。
「今行くー!」
俺は町にいる人たちを見つめる。
今この町にいる人たちは本当に人間なのか、それとも妖怪なのか……ひょっとしたら魔物なのかもしれない。
ただ、そんなことを考えても俺たちにわかるはずがないだろう。
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