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【受賞作11/14発売】田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~  作者: k-ing☆書籍発売中
第三章 妖怪の世界に行く

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90.ホテルマン、住宅街を散策する

「ここで時間を潰すにも何をしようか……」


 いざ町に戻ってみたものの、特にやりたいこともない。


「まずは宿屋を探した方がいいんじゃないか?」

「あそこで寝泊まりするのも怖いしね」


 不気味な宿屋にずっといるのは精神的に疲れるだろう。

 俺たちは町の中を観光しながら歩いていく。


「魔物が入ってきても、住宅街まで行かせないような構造になっているのか」

「さっきソウも町に押し寄せてきたって言ってたもんね」

「スタンピードがこの世界にもあるってことだな」


 俺たちの世界にもダンジョンから大量の魔物が溢れるスタンピードというものがある。

 日本はまだ無事だが、過去に海外で都市がなくなる寸前まで破壊されたことがあるぐらいだ。

 探索者が一般的に広がるまでは、たびたびスタンピードが起きていた記録が残っている。

 それと似たようなものなんだろう。

 ただ、妖怪の世界との違いは近くに町があるかどうかだ。

 地球のダンジョンは住みにくい場所に見つかることが多いため、スタンピードしても人が住む町まで魔物が攻めてくるのに時間がかかる。

 そのせいもあって対応が遅れて都市が崩壊寸前になった。

 今では探索者が集まれるような仕組みをダンジョン近くで管理しているから、ダンジョンから魔物が溢れ出すことはない。

 それが一般人の俺でも知っているダンジョンの事情だ。

 きっと矢吹ならもっと色々なことを知っているのだろう。


「住宅街にも行ってみる?」

「あー、どこが宿屋かもわからないもんな」


 ギルドがあるのは町の中央で入り口は商店街、その後ろは住宅街になっている。

 商店街に宿屋の看板も少ないため、住宅街にあるのかもしれない。


「シルがせんとうね!」

「オイラも!」


 シルとケトが我先に住宅街に向かって歩いていく。

 住宅街はどこも石やレンガで作られた住宅が多く、建物が密集している。

 どことなくヨーロッパ調の作りで、妖怪の町を想像していた分、少し残念だ。


「見たことない建物がいっぱいですね」

「ショッピングモールもあるかな?」

「それならかき氷屋もあるかしら?」


 エルとサラは期待を込めた視線を俺に送ってきた。

 いくらなんでも妖怪の世界にショッピングモールはない……よね?

 さすがに突然そんなものが出てきたら、シルたちに会った時よりも衝撃で腰が抜けるだろう。

 俺が首を横に振ると、二人とも露骨に落ち込んでいた。

 帰ったら一度みんなでショッピングモールにでも行こうか。


「あまり遠くに行くなよー」


 シルたちは周囲をキョロキョロとしながら、住宅街を散策していく。


「あっ、猫だ!」

「にゃに!?」


 シルが指さした方には毛並みの良い猫がいた。

 もちろん恋多き猫であるケトは住宅街にいた猫を追いかけていた。

 ジーッと見つめていると、ケトは猫にプイッとされていた。

 やはりこの世界でもケトの恋は簡単には敵わないのだろう。

 シルたちに慰められていた。


「すべての猫が立つわけではないんだな……」


 むしろ俺はあの猫がケトと似ていないことに驚いた。

 まるで普通の猫だったからね。

 どうやらケトは特別な種類の猫らしい。

 さすが猫の妖怪って感じだ。


「この世界もそんなに悪くないね」


 楽しそうな姿を見ていると、妖怪たちの世界なのに旅行に来ている気分だ。


「この世界って……本当に妖怪の世界なのか?」


 矢吹は足を止め、視線を細める。

 疑念を確かめるように俺に確認してきた。


「ん? だって矢吹がそう言ってたじゃないか」

「そうだが……ならなぜ幸治はこっちの人間の言葉がわかるんだ? まるで元から幸治はこの世界の住人みたいだ」


 その言葉に俺も、胸の奥に引っかかっていたものを思い出す。


「俺もそれは不思議に思っていた。なぜか懐かしく感じる……」


 妖怪の世界は初めてきた場所だ。

 それに聞いた覚えもあまりないのに、懐かしく感じる。

 どことなく一度来たことあるような気がする。

 俺の幼い時の記憶――。


「うっ……」


 急に襲ってきた頭痛に俺はその場でうずくまる。

 何か思い出せそうだけど、肝心なところだけが欠けているような、そんな感覚だ。


「おい、大丈夫か……」

「くくく、何でもないぞ!」


 俺は何事もなく立ち上がり、ニヤリと笑った。

 昔から矢吹は優しいやつだから、すぐに心配してくれるからな。

 ただ、本当に何か大事なことを忘れているのは確かだ。

 以前俺が神隠しに遭ったと矢吹は言っていたが、俺にはその時の記憶が曖昧になっている。

 養護施設の職員だと思っていたあの男性は一体誰なんだろうか。

 そう思ってもいまだに思い出せないのが現状だ。


「おい、本当に大丈夫――」

「ふくー! やぶきーん!」


 遠くの方でシルたちが呼んでいた。

 いつの間にあんなに遠くまで歩いたのだろう。


「やぶきん、あそこまで競争だな!」


 俺はシルたちのところまで勢いよく走った。


「ちょ、おい!」


 あまり心配をかけてもいけないからな。

 ただ、俺は矢吹の体力を舐めていた。


「はぁ……はぁ……」

「幸治、もう少し運動した方が良いんじゃないか?」


 矢吹は実力がある探索者だったのを忘れていた。

 シルたちのところへ到着する前に俺は抜かされていた。


「囮になったらいいんだよ!」


 ケトの冗談に、俺は思わず捕まえて頬を引っ張った。


「さすがにそれは鬼畜だよ」


 きっと獣の闇庭の中で魔物に追われたら、体力がつくと思っているのだろう。

 さすがに命をかけすぎだ。

 

「いだだだ……呪うよ?」

「ケトは俺のこと呪わないって知ってるからね」

「にゃ……!? そんなことないにゃ!」


 ケトは少しおどおどしながら焦っていた。

 さっき振られたばかりだけど、いつものケトと変わりない。


「じゃあ、宿屋を探すかー」


 俺たちはその後も住宅街を散策した。

 ただ、この時の俺は本当に体力をつけるべきだったと、後になって後悔することになった。

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