89.ホテルマン、民泊に帰る
帰る準備をした俺たちは一階に行くと、宿屋のおばあさんが何かの準備をして待っていた。
「ひひひ、よく寝れたかね?」
「えぇ……ちょっと疲れは残っていますが……」
夜中にあった出来事を話すには、さすがに気が引ける。
俺しか見えてないものに対して、文句を言ったらクレーマーに見えるだろう。
それに俺も同じような妖怪がいる民泊を提供しているからな。
何も文句は言えない。
「朝食はどうかね?」
器にスープをたくさん入れて、お盆に載せて運ぼうとしていた。
「あっ、俺が持ちますよ!」
さすがにすでに準備されていたら拒否はできないだろう。
それに美味しい匂いがするから、変なものは入っていない気がする。
焼きたてのパンにスープと比較的簡単な朝食だ。
まさか朝食付きのサービスだとは思わなかった。
俺は手を合わせて、早速食べていく。
「おっ、結構美味いな……」
「ひひひ、それはよかったのう」
パンは焼きたてなのか、外はサクッとしており、中はふんわりとしている。
見た目はロールパンなのに、ブールとフランスパンの間に近い。
「ふく、大丈夫?」
「あぁ、美味しいぞ」
俺以外は少しおどろおどろしい面持ちでパンを口にしていく。
ただ、一口食べればあとは自然と虜になる。
「うみゃうみゃ!」
ケトは必死にパンを齧っているからな。
「私にはこのスープ熱いわね」
「サラのも冷やして」
熱いものが苦手なエルはサラのスープと共に冷やしていた。
スープもかぼちゃのようなポタージュスープのため、冷やしても飲みやすいだろう。
「矢吹、そんなに深刻そうな顔してどうしたんだ?」
周囲に俺たちしかいないことを確認して、矢吹に声をかける。
「あぁ……食べたら魔力がみなぎる感覚がするからな」
「そうなのか?」
俺は妖怪たちに声をかけたが、全員首を横に振っていた。
人間と妖怪では何か魔力の質が違うのかもしれない。
どちらにしても魔力がない俺にはわからないからね。
美味しい朝食を食べ終わると、俺たちは妖怪の国から戻るためにソウやポチと出会った場所まで戻ることにした。
妖怪の世界と庭の畑が繋がっていることを知れたが、これでしばらくは来ることはないだろう。
「君たち、こんなところに何しに来たのかな?」
そう思っていた矢先、獣の闇庭の前にソウとポチが立っていた。
少し怪しげな目で俺たちを見ている。
「元のところに帰るための情報を集めようと思ってね」
俺は正直に答えることにした。
ここで変なことを言っても怪しまれるだけだろうしね。
「それならやめた方がいい」
「今は魔物の動きが活発になっているから危ないぞ」
どうやらソウとポチは外に魔物があふれないように入り口で待機しているらしい。
「どうしても入ったらダメなのか?」
「勝手に入って自滅するのは構わないが、今は魔物を刺激しないでもらいたい」
ソウは鋭い視線で俺を睨みつける。
それに反応した矢吹は俺を守るように警戒心を強めた。
きっと何か理由があるのだろう。
「ソウ、そんなに怒るなよ。こいつらは何も知らないんだしな」
「そうだな。コウ、リューすまない」
ソウは優しい顔に戻ると、頭を軽く下げた。
何を言っているのかは伝わってないが、矢吹も警戒心を解いた。
「今は中に入ると魔物を刺激するからさ!」
ポチは軽い口調のまま、中の状況を伝える。
「刺激……?」
「ああ、ちょうどコウたちが来たタイミングで魔物が活発になった兆候が見られた」
ソウの説明によれば、誰かが中に入ることで魔物はさらに荒れ、最悪の場合、暴走に至るという。
実際、過去には魔物の大群が押し寄せ、町が半壊するほどの被害を出した例もあるそうだ。
二人が俺たちの動きを警戒するのは仕方ない。
「どうする?」
俺は軽く矢吹に説明して意見を聞いてみた。
探索者の意見は俺よりも的確だろうし、さすがに一人では決められない。
「今は静かにしておいた方がいいだろ。怪しまれると面倒だからな」
矢吹がコソッと俺に伝えてきた。
「お前たち何コソコソしてるんだ!」
「うわっ!?」
突然、ポチが俺たちに詰め寄ってきた。
ただ何を言っていたのか分からなかったのか、首を傾げている。
俺も日本語を話しているつもりだが、やはり矢吹の言葉はポチたちには伝わってないようだ。
「びっくりさせるなよー!」
俺はポチの頭をガシガシと撫でる。
「うおおおおお!?」
ポチはすぐに手を振り払おうとするが、俺も負けてられない。
次第に諦めたのか、そのまま頭を差し出していた。
背中の後ろに見える尻尾を大きく振っているし、嫌ではないのが伝わってくる。
「ポチは正直者だね」
「なっ!? 誰も撫でられて嬉しいとは言ってないからな!」
ポチはすぐにソウの後ろに隠れて俺を睨みつけていた。
ただ、相変わらず尻尾は嬉しそうにブンブンと振っていた。
なるべく矢吹は話さないようにしていたが、今回のことで変に怪しまれてないといいけどな。
まぁ、ソウとポチなら悪いやつではない気もするけど、矢吹が言うように警戒しておいて損はない。
「じゃあ、俺たちは町に戻って遊ぼうか」
せっかくなら妖怪の世界で観光でもして、楽しいことを見つけよう。
せっかく冒険者という職業にもなったんだしね。
俺たちは町に戻ることにした。
「なぁ……あいつら、コウと母ちゃんの言語みたいなのを話してなかったか?」
「ははは、何言ってんだ。気のせいだろ」
「おい、お前まで撫でるなよ!」
小声だったせいか、はっきりとは聞き取れなかったが、チラッと振り返ると、ソウとポチは楽しそうにじゃれあっていた。
更新してましたがSSが途中で挟んであったので、一度消して章分けさせてもらいました!




