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【受賞作11/14発売】田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~  作者: k-ing☆書籍発売中
第三章 妖怪の世界に行く

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88.ホテルマン、宿屋の恐怖体験

 宿屋に戻ると、俺たちはそのまま自分たちの部屋へと引き上げる。

 正確に言えば、俺以外の全員が店主のおばあさんにビビり、半ば引きずられるように退散したというのが正しい。


「そんなにビビらなくても……」

「あれは絶対俺たちが寝た後に襲う気だぞ!」

「「「うわあああああ!」」」


 シル、ケト、サラの驚いた声が響く。

 ニヤニヤしている矢吹を見ると、養護施設で弟妹たちを驚かせていた姿を思い出す。

 いつもああやって脅かしては、夜更かししないように寝かせていたな。

 結果、いつも俺にくっついて寝ていることが多かったんだけど――。


「今日はふくと寝る」

「オイラも」


 シルとケトが俺にくっついて離れようとしない。

 まるで養護施設の弟妹たちにそっくりだ。

 いつもは俺が心配されることの方が多いが、こうやって頼られるのも嬉しいな。

 エルとサラも二人で同じベッドの中に入って寝る準備をしている。

 チラッと矢吹に視線を向けると、一人残されてどこか寂しそうな顔をしていた。


「えーっと……やぶきんも一緒に寝る?」

「いや、さすがに俺と寝たらベッドが壊れるだろ」

「あっ……そうだね」


 確かに成人男性が同じベッドで寝たら、耐荷重を簡単に超えそうだ。

 矢吹の方が筋肉質だから俺よりも重いはず。

 妖怪の世界に来てビビって一緒に寝たら、ベッドを壊しましたって……頭のおかしい人だと思われて笑い話にもならなさそう。


「じゃあ、また明日になったら帰ろうか。おやすみ!」

「「「おやすみ……」」」


 あまりにも両隣で怯えているから、灯りは消さずにそのまま寝ることにした。

 明るくて寝にくいが、そのうち眠れるだろう。


「こわいよ……」

「呪ってやる、呪ってやる、呪ってやる……」


 ベッドの中に入るが、やはりシルとケトは震えていた。

 むしろ灯りより両隣が気になって寝られない。

 そんなに魔力が高い存在が近くにいると怯えるものだろうか。

 魔力がない俺には全くわからないからな。

 それにあのおばあさんより、今のケトの方がよっぽど怖い。

 本当に呪いそうな勢いでずっと呟いている。

 寝ていてうっかり呪われていたら最悪だ。


「ちゃんと目をつぶっていたら寝られるよ」

「うん……がんばる……」


 あまりに大きく目を開いているから、余計に寝られないのだろう。

 軽く手を覆いかぶせて、目を閉じるように伝える。

 頭を撫でていると少し落ち着いてきたのか、ケトがスリスリしてきた。

 こういう姿を見られるなら、この宿屋に泊まったメリットがあったのかもしれない。

 しばらくすると、自然と寝息が聞こえてきた。

 どうやら眠れたのだろう。


「ぐがあ……がああああ」


 矢吹なんてすぐにいびきをかいて寝ているからな。

 俺はみんなが眠れたのを確認してから、目を閉じた。



「うっ……」


 あまりの寝苦しさに俺は目を覚ました。

 体を起こそうとするが、金縛りで起き上がれない。

 矢吹に助けを求めようとしたが全く声が出ない。


 ――ミシ……ミシッ……


 耳元ではなく部屋の奥。

 誰かが一歩踏み出したような、古い床板が軋む音がした。

 家鳴りにしては、一定のリズムでゆっくりと何者かが近づいてくる音だ。

 俺は強くまぶたを閉じて必死に通り過ぎるのを待つ。


――ミシ……ギィー


 音は止まり、代わりに何かが近くにいる気配がした。

 閉めたはずの扉がゆっくりと開き、布を擦るような、何かが引きずられるような音が聞こえてくる。

 冷たい空気が足元から這い上がってきて、誰かが確かにこの部屋に入ってきた。


――カチッ!


 次の瞬間、閉じていても感じていた明かりが消えて、急に真っ暗となった。


「ヒヒヒ、これじゃあ疲れもとれないね……ヒヒヒ」


 ボソボソと呟きながら何者かが笑っている。

 あまりの恐怖感に俺は何事もなく時間が過ぎるのをただ待つしかなかった。

 

――ギィー……ミシッ……


 再び扉が閉じる音が聞こえると、何かが立ち去っていく気配がした。

 金縛りもなくなったのか、ベッドに押しつけられていた感覚がスーッと抜けていく。


「はぁー、やっといなくなった……」


 気配を感じなくなった俺は大きく息を吐いた。


 ゆっくりと目を開けると――。


「ヒヒヒ……まだ起きてるのかい……」


 誰かの顔がすぐそこにあった。

 近すぎて全体がよく見えない。

 額と頬の境目が曖昧で輪郭がぼやけている。

 目があるはずの場所は暗く窪んでいるだけで、瞬きも反射もない。

 鼻の位置も定まらず、呼吸をしているのかどうかも分からない。

 なのに……見られている感覚だけは、はっきりとわかる。


「ヒヒヒ……」


 どこからか声がした。

 口元を探そうとしてぞっとする。


 口が……見当たらない。


 あるはずの場所に、ただ皮膚のようなものが張り付いているだけだ。

 それが笑っているような気がした。


「眠れないのはよくないね……」


 声が近いのに顔のどこから出ているのか分からない。

 ふとあのおばあさんを思い出す。

 彼女はこんな顔をしていただろうか。

 思い出そうとした瞬間、目の前の〝それ〟がさらに近づいた。


「ない……」


 あるはずの顔のパーツが全くなかった。

 まるでのっぺらぼうだ……。

 でも、目が合っているような気はする。


「ひっ……」


 あまりの恐怖に視界が裏返り、俺の意識はそこで完全に途切れた。


「あれ……このお面は怖かったかのう……あれ? 寝ちゃったのか? つまんないのう……」



 ♢



「おーい、幸治起きろー!」

「ふく、朝だよー!」


 大きく揺さぶられて俺は目を覚ました。

 どうやらみんな起きているようで、俺が一番最後に起きたようだ。


「みんな顔色がいいね」

「あぁ、普段よりも熟睡できたからな」


 あれだけビビっていたのに、いざ寝てみたら朝まで目が覚めなかったらしい。

 それだけ眠りが深かったのだろう。

 俺は夜中の出来事をみんなに聞くことにした。


「夜中に誰か入ってきたのは気づいている……?」

「いや、俺は知らないぞ?」


 矢吹は妖怪たちの方を見ると、みんな首を横に振っていた。


「そっか……」

「確かに……誰か灯りを消したか?」


 矢吹の言葉に周囲は静かになる。

 エルとサラは再びベッドに戻って隠れているからな。


「やぶきん、おどろかさないで!」

「呪うよ?」


 シルとケトは思い出したかのようにその場で震えていた。

 やはり夜中に誰かが入ってきたのは間違いない。

 俺だけが気づいたあれはいったい何だったのだろう。

 我が家には座敷わらしや猫又、雪女に河童までいる。

 ただ、あの人が誰だったのかは全く記憶に残っていない。

 まるで全てを消し去ったかのようだ。


 妖怪の国の宿屋は想像以上に危険なところ。

 気軽に宿屋には泊まってはいけないことを俺たちは思い知らされた。

 田舎の民泊を利用する人が少ないのは必然なのかもしれない。

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