86.ホテルマン、異世界の宿屋に泊まる
本日書影が公開されました。
下の方を見ていくと確認できる形にはします!
ポンコツだけど頑張ります!
魔石を売って手に入れたお金を持って、泊まる宿屋を探していた。
「これはいくらになるかわかる?」
「わかんない!」
「オイラもお金を使ったこないよ」
シルとケトにお金を見せるが、いくらかわからないようだ。
ピカピカと光っている金貨や、100円玉に似た銀貨など大きさも様々ある。
お札がないのは、何か理由があるのだろうか。
文字に書いたら〝おふだ〟って読めるから、妖怪の国にとってはあまりよくないのかな?
「ここが宿屋で合ってる?」
「たぶんここだとは思うが……」
言葉はわかっていても文字は読めないため、看板の絵を頼りに到着した。
看板にはベッドの絵が描いてある。
――キィー!
ゆっくり扉を開けると不気味な音が響く。
さすが妖怪の国。
扉を開ける音すらも、ホラー映画のようで背筋がゾクゾクとする。
「ごめんくださーい!」
床の軋む音に驚きながらも、ゆっくりと中に入っていく。
――バタン!
「ヒィ!?」
急に大きな音が聞こえて、俺はビクッとした。
ゆっくり振り返ると、ただ扉が閉まっただけのようだ。
「ひひひ、いらっしゃい」
「うわっ!?」
突然聞こえてきた声に俺はそのまま腰を抜かした。
さっきまで誰もいなかったのに……。
俺は周囲を見渡すが誰もいない。
いるのは一緒に来たシルたち妖怪や矢吹だけだ。
「おばけか……」
「ううん……あそこにいる」
シルの指さした方に目を向けると、ゆっくりと人影が浮かび上がる。
「ふぉふぉ、あたしはここじゃよ」
「うわああああああ!」
俺はそのまま矢吹に抱きつく。
シルに初めて会った時のことを思い出した。
あの時は座敷わらしだとわかっていたが、今回は完全に幽霊……じゃなかった。
背中の曲がったおばあさんが俺たちの方を見て笑っている。
小さいから俺には影しか見えなかった。
「ひひひ、煮て食ったりしないさ。ほら、おいで」
俺が驚いたのもあり、矢吹が前に出て警戒心を露わにする。
正確にいえば俺がまだビビって盾にしているけどね。
俺は囮役であって盾にはなれない。
それにおばあさんに手招きされると、なぜかゆっくり引っ張られているような気がする。
「今日はどうしたんだい?」
「泊まるところを探してまして……いや、今日は帰ります!」
すぐに体の向きを変えて帰ろうとするが、全く体が動かない。
まさかこんなところで金縛りに遭うとは……。
いや、シルやケトもビビっているのか、俺に抱きついて離れようとしない。
さっきまでは普通だったのに、おばあさんを見てから態度が急に変わった。
ここは俺がどうにかしないといけないのだろう。
矢吹も警戒してくれているから問題はない。
「借りるのは一部屋でいいかね?」
「あっ……はい」
話はすぐに進んでいき、断ることも出来ないと思い、僕たちはそのまま不気味な宿に泊まることになった。
ハロウィンイベントのホラーコンセプトの宿屋だと思えばいいのかもしれない。
ただ、部屋もどことなく汚いし、誰かが泊まっているようにも見えない。
「ほら、一番大きな部屋を用意しておいたよ」
おばあさんから鍵を受け取ると、二階に上がっていく。
――ミシ……ミシ……ミシッ
階段から聞こえる音もホラーチックで、もはや再現度が高すぎる。
俺たちが部屋に入ると、中は思ったよりも綺麗にしてあった。
「ふぅー、緊張したね」
俺はベッドに横になって体を伸ばす。
天井には謎のシミがあるけど、うん……そういう仕様だろう。
やはりコンセプトには忠実じゃないといけないからね。
「ふく……」
「オイラも一緒がいい」
いつもは別の部屋で寝るのに、シルとケトが枕を俺のベッドに持ってきた。
ベッドもちゃんと人数分あるのに、妖怪も怯えるホラーチックな宿屋って普通に考えてクオリティが高すぎる。
やはり民泊もここまでやらないといけないのだろうか。
「息をするのもやっとだったな……」
「えっ……やぶきんもビビってるの!?」
矢吹の方を見ると、額は汗でびっしょりとなっていた。
エルの顔も普段より青白いし、サラもずっと怯えている。
この中で唯一普通なのは俺ぐらいか。
「ホラーチックのコンセプトだと思えば問題ないだろ?」
「おい……幸治は感じなかったのか?」
矢吹の言葉に俺は首を傾げる。
これでも怖いなーって思ってたけど……。
最初に来た時は驚いて腰が抜けるほどだったしね。
「あのおばあさんの魔力量、人とは思えないぞ」
「シルもドキドキした」
どうやら俺だけ魔力が感じられないから、おばあさんを見ても、ただびっくりしただけだったようだ。
矢吹やシルたちからしたら、体が震え上がるほどゾクゾクとしたらしい。
「まるで命を鷲掴みにされているようだったわ……」
「ははは……まぁ、俺って普通の人間だからね」
魔力なんて全くわからないし、どことなく不気味に思っただけだからな。
ただ、直接見なければ問題はないため、今日だけはこのまま泊まることにした。




