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【受賞作11/14発売】田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~  作者: k-ing☆書籍発売中
第三章

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85/90

84.ホテルマン、町に驚く

「疑ってすみません」

「いえ、封鎖されたところから突然出てきたら怪しいですよね……」


 あまりにも俺がシルとケトにもみくちゃにされたことで、ソウは疑うことをやめた。

 むしろ疑っているのはうちの矢吹だろう。

 今も矢吹の視線が背中に突き刺さる。


「それで町はどんな感じなんですか? やっぱりひゅーどろどろーとか不気味な感じですか?」


 俺の言葉にポチとソウはお互いに目を合わせていた。


「いや、ふくは嘘ついていないぞ?」


 多少の悪意や嘘は狼男のポチが察知できるらしい。

 きっと今の反応だと、ポチが俺の心を見透かしたのだろう。

 それにしても、ポチがいつのまにか俺をふくと呼んでいた。

 シルとケトがふくって呼ぶから、名前が違うことがバレたようだ。


「なんか……気が抜けるな……」

「そうやって油断させたり魔法を使っているとか?」


 んっ? ソウも何か勘違いしているような気がする。

 俺は人間であって妖怪ではない。


「いや……俺は普通だぞ」

「「それはない!」」


 訂正したらそれはないと言われてしまった。


「うん、たぶんこの人はただの天然だね」

「しかも、かなりのやつな」


 どこか話が噛み合ってないような気がするが、シルやケトにも聞いてみたが、なぜか頷いていた。

 どうやら妖怪たちから見たら、俺は天然だと思われているようだ。

 妖怪だと勘違いされているような気もするが、妖怪の国にいるなら妖怪だと思われた方が便利かもしれない。


 しばらく何もない田舎道を歩くと町が見えてきた。

 入り口には矢吹と似たような鎧を着た男性が何かの手続きをしている。


「じゃあ、あそこで身分証を出して町に入る手続きをしてきてね」

「身分証……?」

「まさか身分証もないのかな?」 

「はい……」 


 俺が申し訳なさそうに答えると、ソウは仕方なさそうに門番の男性に伝えてくれた。

 運転免許証ならあるけど、さすがにこの世界では使えないだろう。

 それに人間だとバレたら、何をされるかわからない。


「はぁー、本当にこいつら大丈夫か? 心配を通り越して怖いぞ?」

「ダンジョンの中に飛ばされていたなら仕方ないよ」


 狼男に怖がられる俺って……もはや妖怪越えなんだろうか。


「一人3000ラピのお支払いをお願いします!」


 どうやら町に入るのにもお金がいるようだ。

 入域税や観光税みたいなものを取っているのだろう。


「あっ……えーっと……お金もないです!」


 俺は振り返り、ソウとポチを見つめる。

 自慢じゃないが今の俺たちには、妖怪の国で使えるものは何もないからな!


「ポチ……?」

「事実だ……」

「「はぁー」」


 再びため息をつかれてしまった。

 ソウが代わりに門番にお金を渡したら、俺たちは止められることなく町に入ることができた。

 町に入るのにお金が必要になるのは、日本では珍しいからね。

 さっきお金を見せてもらったが、どこの通貨かわからなかった。

 やはり妖怪の国で間違いはないのだろう。

 

「ここが僕たちが住む町だよ!」

「なんかイメージと違う……。みんな普通なんだね……」


 古風な古民家や大きな鳥居、提灯やドロッとした地面を想像していた。

 だが、目の前には昔のヨーロッパの街並みが広がっていた。

 如何にも妖怪や幽霊が住んでいそうな見た目を期待していたのに残念だ。


「嘘は……?」

「ついていないんだよな……」

「「はぁー」」


 そんな俺を見てソウとポチはため息をついていた。

 そこまで俺はおかしなことを言ってるつもりはないんだけどな。

 だって、隣の家が近いんだよ?

 お店だって目の前にある。

 むしろ俺が住んでいる家の方が田舎過ぎて怖いぐらいだ。


「相当貧困地域か紛争地帯だったのかな……」

「お金がないぐらいだし、後ろのあいつがずっと警戒してるからな」

「そりゃー気が抜けないよね」


 何かソウとポチは小声で話し合っていたが、俺にははっきりとは聞こえなかった。

 ただ、矢吹の警戒心が良い方向に作用している気がする。


「シルとケトは嬉しくないのか?」

「んー? シルはおうちのほうがすき」

「オイラも特に思い入れとかないよ」


 どうやら我が家の妖怪たちは妖怪の国や町には興味がないらしい。

 今もシル、ケト、サラは走り回って遊んでいるぐらいだ。


「まずは身分証明書の作成でギルドに登録した方が良いか……。何か得意なことはあるかな?」


 ソウの話ではこれから町に入るのに俺、矢吹、エルの3人はギルドに登録する必要があるらしい。

 ギルドも3種類あり、冒険者ギルド、商業ギルド、生産ギルドと分かれていた。


「ダンジョンから自力で逃げて来れるなら、冒険者ギルドがオススメかな?」


 冒険者ギルドは矢吹が登録している探索者ギルドと似ているような気がする。

 俺は戦えないが、矢吹とエルはジビエを倒す手段があるから問題はないだろう。

 ソウに案内されるがまま冒険者ギルドに入ると、矢吹の警戒は一気に強くなった。


「何かあったらすぐに教えろよ」


 矢吹が耳元で呟いた。

 普段の矢吹から感じたことない威圧に肌がピリピリと静電気が走ったような痛みを感じる。

 それに気づいたのは俺だけではなく、建物の中にいる人たち全員だろう。

 さっきまで見ていたのに、一瞬にして視線を逸らした。


「ふく、あいつを止めてくれ!」

「警戒させてすまないが、彼を落ち着かせてくれないか?」


 ソウとポチは矢吹に指をさした。

 俺は矢吹に親指を上げ、グッジョブポーズを送るとピリッとした感覚は消えた。


「これで大丈夫かな?」

「牽制にもなったから問題ないよ。彼女もいるから気をつけてね」


 ソウの言葉に周囲を見回すと、体格の良い男性ばかりだった。

 きっと雪女が珍しいのと、見た目が綺麗だから気をつけるようにって意味だろう。

 この様子だと少し不安材料が残る。

 本当にこんなところで身分証明書を作っても問題ないのだろうか。


「ソウさんこんにちは! こちらの方たちは……?」


 注目の的になった俺たちに女性が声をかけてきた。

 胸元には建物の入り口に書いてあった看板のマークが刺繍されている。

 きっとここで働く人なんだろう。


「あぁ、仕事の途中でダンジョンから出てきたところを――」

「ダンジョンから出てきたって!?」


 女性の声に再び視線が俺たちに集まった。

 ただ、さっきとは異なり、興味深そうな視線で攻撃的な視線を向ける人はいない気がする。


(けもの)闇庭(やみてい)から、自ら出てきたやつらだ」

「それなら相当の実力者ですね!」


 どうやら俺たちがいたジビエのダンジョンは〝獣の闇庭〟と呼ばれる封鎖されたダンジョンらしい。

 確かに気持ち悪いジビエがたくさんいるけど、そんなに危ないところだったのか?

 俺たち普通に食べてたぞ?


「それに冒険者でもないらしいから、登録をしてもらえるかな?」

「ソウさんの推薦なら大丈夫ですよ! ただ、その実力で登録していないなら……いえ、問題ないです」


 一瞬、女性は表情を落としたがニコリと微笑んだ。

 また何か勘違いされていそうだね。


「では、こちらで登録しますね」


 登録は板のような物に手を置くとすぐに終わった。

 渡されたのは真っ白な石がついたブレスレット3つ。

 俺、矢吹、エルが着けることになった。


「そうやってオイラたちだけ仲間外れにする……」

「シルにもかわいいのほしい!」

「サラもー!」


 妖怪たちは仲間外れにされたと思ったのだろう。

 俺にブレスレットを求めてきた。

 エルだけ大人だから着けることになったしね。


「また牛島さんに頼んでみようか」

「「「うん!」」」


 何かあれば牛島さんの出番だ。

 きっと牛島さんなら似たようなものが作れるだろう。


「牛島さん……?」


 チラッと振り返ると、どこかソウの目が一瞬震えた。


「何かありましたか?」


 すぐに何もなかったかのように視線を前に戻した。


「……いや、なんでもない」


 その声は少しだけ引っかかり、短く息を吐いた。

 動揺しているのは確かだが、言葉以上のことは何も漏らさない。

 ズケズケと聞くのも申し訳ないだろう。

 それに牛島さんならあの場所に二十年近く住んでいたから、妖怪に会っていてもおかしくない。

 テケテケとか笑い方が妖怪みたいだしね。


「じゃあ、また何かあったら僕たちはここに来ることが多いので!」

「ありがとうございます」


 俺はソウとポチにお礼を伝えると、二人はどこかに帰って行った。

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