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【受賞/書籍化決定】田舎の中古物件に移住したら、なぜか幼女が住んでいた~ダンジョンと座敷わらし憑きの民泊はいかがですか?~  作者: k-ing☆書籍発売中
第三章

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82.ホテルマン、妖怪の国に行く

 翌日、俺たちはジビエのダンジョンに向かった。

 俺は入り口で大きく息を吐く。


「はぁー、緊張するな」

「エルのほうがきんちょうするよ?」


 チラッとエルを見ると、普段のエルと変わりなかった。

 むしろ俺の方を見てクスクスと笑っていた。


「ふくは囮だもんね!」

「囮も大変なんだぞー!」


 俺はケトの頬を掴みグルグルと回す。

 きっと矢吹がいれば問題はないだろう。

 ジビエのダンジョンから戻ってくる時は、俺は付いていくだけでよかったからね。


「じゃあ、ちゃんと付いてこいよ!」


 矢吹を先頭に俺たちは中に入っていく。

 足を踏み入れた途端、声が聞こえてきた。


「しゃがめ!」


 矢吹の声に俺は体を下げたまま、その場で止まる。

 俺の頭上にうさぎが飛んできた。

 うさぎは壁にツノが刺さり、身動きができないのかバタバタと踠いていた。

 すでに矢吹は戦っており、大量のうさぎたちに囲まれている。


「ジビエ!」


 シルは嬉しそうにその場でうさぎを捕まえると、命を狩って俺たちがきた穴に投げていく。 ジビエのダンジョンと繋がる地下の畑に持って帰るつもりなんだろう。


「せっかくのご馳走だから集めましょう」

「サラも捕まえてくる!」


 矢吹のことは特に気にならないのか、妖怪たちは次々とうさぎを捕まえては投げてを繰り返していた。

 ここ最近、うさぎが畑に来ることはなかったからね。

 久しぶりのうさぎに妖怪のテンションも高い。


「ふく、そこに座ってて!」


 言われた通りに座ると、ケトは俺の後ろにそっと隠れた。


「何するつもり……」

「ニャー!」


 ひょこっと顔を出すと、大きな声でケトは鳴いた。

 それに気づいたのか、うさぎたちは俺に視線を向ける。


「これって……」

「囮だよ?」


 こいつは悪魔なんだろうか。

 次々とうさぎたちが俺に向かって飛んでくる。

 その場で転がるように座っている俺は逃げていく。


「きょうはたいりょうだね!」

「生きが良いから、きっと美味しいわね」

「うっしーに何か作ってもらお!」


 そのうさぎたちをまるで鮎の掴み取りのような勢いで妖怪たちは捕獲していた。

 なぜ俺ばかりにジビエが寄ってくるのかわからない。

 何か引きつけるものがあるのだろうか。

 俺の存在に気づいたら、すぐに攻撃してくるからな。

 しばらくすると、うさぎたちは妖怪たちの手によって全て地下の畑に投げられた。


「うっしーのごはんたのしみだね!」

「お前たち……うさぎを捕まえにきたわけではないからな?」

「「「はっ!」」」


 矢吹の言葉に妖怪たちは驚いていた。

 完璧に頭の中では牛島さんが作るジビエ料理のことしか考えていないのだろう。

 今日の目的は妖怪の国に行くことだからな。

 だが、エルも普段通りで安心した。

 表情からはわからないこともあるからね。


 その後も俺たちは変なイノシシやら変なシカを倒しながら先に進む。


「そういえば、階段はどこにあるんだ?」

「幸治たちを見つけた空間の奥にひっそりとあったぞ」


 どうやら矢吹に助けられるまで逃げ込んでいた場所の奥に地上に出る階段があるらしい。

 ってことはジビエのダンジョンは地下一階で繋がっていたことになる。


「ここはそこまで荒れてないな」


 しばらく歩くと目的地に着いた。

 俺たちが助けられた時のまま残っていた。

 まるで時間が止まっていたかのようだ。


「セーフティーゾーンなのかもしれないな」

「セーフティーゾーン……?」


 ダンジョンの中ではセーフティーゾーンと呼ばれる魔物が苦手な空間があるらしい。

 そこで探索者は休憩することが多いと矢吹が言っていた。


「じゃあ、俺とやぶきんで様子を見てくるから、シルたちは戻ってきてから行くからね」

「「「はーい!」」」


 エルが精神的なダメージで倒れる可能性を考慮して、俺と矢吹が先に妖怪の国に行くことにした。

 危険そうならすぐに戻って帰ればいいからね。


「幸治は後ろに下がっていろよ」


 あんなに頼りなかった矢吹は今では俺を守ろうとしている。

 小さい頃とは全く立場が変わってしまったな。


「あぁ」


 そんなことを思いながらも、頼りになる背中を押すように妖怪の国に向かって階段を登っていく。

 地上に繋がっているなら、明かりが入ってきてもおかしくないが遮断されているのか光は全く入ってこない。

 ジビエのダンジョンに入った時と同様に何かを通り抜けた感覚がした途端、見たこともない光景が広がっていた。


「本当に妖怪の世界なんだな……」


 周囲は空気が重く、湿っている。

 見上げた木々は異様に高く、幹が脈を打つようにゆっくりと膨らんだ。

 本当に木が息をしている。

 枝先が風もないのにざわめき、まるで生きているかのようにこちらを見下ろしていた。

 見上げると、枝にとまる三つの影が俺たちを見ていた。

 あれが矢吹の言っていた首が三つもある鳥なんだろう。

 ひとつは笑い、ひとつは泣き、ひとつは何かを囁いた。

 可愛いとは全く思えない姿が、さらに背筋がゾクッとして不気味さを感じる。


「やぶ――」


 ――ガキンッ!


 矢吹に声をかけようとしたその瞬間、金属の音が弾けた。

 矢吹が盾を構え、何かの斬撃を受け止めていた。

 そのまま押し込むと押し出された何かは、そのまま姿勢を正すと剣を鞘に戻した。

 

「チッ、人間か!」

「ポチ……むしろよかったじゃん!」

「ソウ! 俺をポチと呼ぶんじゃねーよ!」


 人間の頭に犬の耳と尻尾が生えた男が、俺とそこまで歳の変わらない男に頭を撫でられていた。

 ただ、尻尾は大きく揺れている。

 まるで飼い主と反抗的なツンデレな犬だな。


「やぶきんが言っていたのはあいつらのことか?」

「あぁ……。何を言ってるかわからないから気を抜くなよ」


 矢吹は警戒を緩めることもなく盾を構えている。

 ただ、矢吹の言葉に俺は首を傾げた。


「いや、俺には何を言っているか聞こえるぞ?」

「はぁん!?」


 矢吹の驚いた声に男たちはビックリしてこっちを見ている。

 だって、俺には聞こえてきた言葉が普通にわかった。


「あっちがポチでその隣がソウって人らしいよ!」

「お前もポチって呼ぶな!」


 ポチと呼ばれて嫌だったのか、唸り声を発しながら向かってきた。

 そんな男を矢吹はすぐに捕まえて、地面に押し付ける。


「くはっ!?」


 自分に敵対するやつには容赦がないな。

 特に俺に対して何かをするやつらには、矢吹はかなり疑い深い。

 牛島さんに初めて会った時も俺が騙されてないのか心配していた。

 それに仲間が目の前で殺されてから、人一倍誰かを守りたいという気持ちが強いのだろう。


「ポチが申し訳ない」


 急いで隣にいた男が急いで駆け寄ってくる。

 だが、矢吹には何を言っているのか聞こえないのだろう。

 手を緩めることなく近づくなとキツく睨んでいる。


「おい、放せ! それに俺はポチじゃねーよ!」 


 獣のような男はその場でバタバタと動き回る。

 そんな矢吹に俺は肩を叩く。


「やぶきん、もう少し掴んでて」


 俺は男の目の前に座り込む。


「おい……何をするつもりだ!」

「狼男って本当にいるんだね」


 俺は男の頭を優しく撫でる。

 耳がぴくりと動いた。

 ソウと呼ばれるもう一人の男が撫でているのが気になっていた。

 耳は本当に頭から生えているし、尻尾もふかふかでケトとは全く違う触り心地がする。

 本当に犬が人間の姿になったみたいだ。


「クゥーンッ……」


 抵抗していた腕が力を失い、喉の奥から甘えた声が漏れていた。

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