80.ホテルマン、秋を感じる
「ちーず! ちーず!」
「ヨーグルトもある!」
牛島さんが無事なのを確認した俺たちはたくさんのお土産を渡されて家に帰ってきた。
「うっしー、しばらく来れないって言ってたね」
「さみしいね……」
喜んだり落ち込んだりと牛島さん好きのシルとケトは大忙しだ。
「テケテケや花子が風邪引いたら大変だからね」
そんな妖怪たちを俺は慰める。
冬へと少しずつ季節が変わっていくのに伴って、この周辺の地域はかなり寒くなるらしい。
牛島さんが忙しかったのも、ただ単に掃除が大変というよりは冬を越す準備をしている感じだった。
長年住んでいても、一人で作業をすることを考えると、早くから動かないと間に合わないのだろう。
「そろそろご飯の準備でもするか」
「「「はーい!」」」
俺たちはいつものように地下にある畑に向かった。
畑も自然と秋になってきたのか、寒さを感じることが増えてきた。
どうやって温度調節をしているのか、いまだに謎の空間だ。
矢吹はジビエのダンジョンが影響しているかもしれないと言っていた。
ダンジョンを繋ぐゲートは畑の奥にあるから、ここはまだダンジョンではないという扱いだ。
ただ、はっきりとは確証できないらしい。
そもそも謎に包まれているのがダンジョンだからね。
「ふく、かぼちゃ!」
「さつまいももあるよ!」
シルとケトがかぼちゃとさつまいもを持ってきた。
「ついに秋の野菜も増えてきたね」
トマトやきゅうり、ナスなどの夏野菜から秋野菜に畑も変わってきている。
「これってマツタケかな?」
「マツタケって何ですか?」
サラとエルは地面から生えているきのこが気になっていた。
畑しかないため、マツタケが生えることはない。ただ、見た目は完全にマツタケにしか見えない。
「これはね……」
シルはポケットから辞書のような大きな本を取り出すと、中に書いてある絵ときのこを見比べる。
「しめじなの!」
「「「しめじ!?」」」
どこをどう見たらしめじがマツタケ似になるのかわからない。
明らかに俺の手の平と同じ大きさをしている。
俺はシルが読んでいた辞書を覗いてみるが、絵は目の前にあるしめじと同じ見た目をしていた。
ただ、それよりも気になることがあった。
「それってなんて書いてあるんだ?」
絵と一緒に文字が書いてあった。
日本語や英語とは違って形の統一性はないし、アラビア語のような蛇のような文字でもない。
「やいてたべたらおいしいってかいてあるよ!」
だが、シルは問題なく図鑑の文字は読めるようだ。
「もしかしてふくは読めないの?」
「これぐらい私でも読めますよ?」
どうやらケトとエルも図鑑が読めるらしい。
きっとシル、ケト、エルは同じ妖怪の国から来たのだろう。
「サラは読めないよ」
ただ、サラだけは首を傾げていた。
ってことはサラだけが違うところから来たのだろうか。
「サラちゃんはうまれたばかりだもんね」
「ふくも読めないから仕方ないよ」
例えば、妖怪の国じゃなくて霊界とか……いや、サラは河童だ。考えるのはやめよう。
「んっ? なんか俺の悪口を言ってなかったか?」
名前を言っていた気がするが、内容までは薄っすらとしか聞いてなかった。
俺はケトをジィーっと見つめる。
「……呪うよ?」
「おやつ抜きにするよ?」
「にゃ!?」
すぐに呪うような子にはおやつはあげません。
今まで本当に呪われそうで、言い返したことはあまりなかったが、ケトには効果がありそうだ。
だって――。
「にゃー……肉球触らしてあげるからさ?」
しおらしく俺にべったりとしていた。
手を差し出したケトを俺は捕まえて、ここぞとばかりにお腹に顔を埋める。
「にゃああああ! 猫吸いは認めてないにゃ!」
猫吸いをしようとしたら、いつも逃げられるからな。
たっぷりとケトの匂いを堪能した。
「お前たち……こんなところで何してるんだ?」
声がした方へ振り向くと、そこには矢吹が立っていた。
ジビエのダンジョンから帰ってきたのだろう。
「しめじを収穫……ってケガしてるじゃないか!」
俺は矢吹に詰め寄る。
珍しく腕から血が流れ出ていた。
治りが早い矢吹がケガをしたってことは、それだけ強いジビエがいたってことになる。
「ああ、驚いて治すのを忘れていた」
矢吹はどこからか杖を取り出すと、腕に光が集まり綺麗に治っていく。
「「「おぉー!」」」
その様子を見て俺たちは拍手していた。
本当に探索者って魔法使いみたいだね。
「ふっ、お前たちといると安心するな」
矢吹は息を吐くように笑っていた。
その姿に俺はホッとする。
矢吹にとっても俺たちが安心する存在になってきたってことだ。
「矢吹の方は何か収穫はあったのか?」
ケガをしたぐらいだから、何か捕まえてきたのかと思ったが帰ってきたのは矢吹一人だけ。
シルやケトも矢吹の周囲をくるくる回って、獲物がないか確認している。
「あぁ……ダンジョンが別の世界と繋がっていた」
「別の世界!?」
基本的にダンジョンは地下に潜っていくものが一般的だが、その途中で見た目がガラリと変わることがあると矢吹に聞いたことがある。
先に進む階段が見つかったのだろうか。
「上に登っていく階段があって……」
「登って……まさか!?」
俺と矢吹は妖怪たちを見つめる。
階段を登るということは、ダンジョンから出ていくことを意味する。
矢吹がわざわざ別の世界って言うことは、俺たちが住む地球とは別のところに繋がっていたってことだ。
まるでシルたちが住んでいた〝妖怪の世界〟だったり……。
俺は背筋がゾクッとした。
それは矢吹も同じだった。
一気に地下の畑の気温が下がったような――。
「私、帰りたくない……」
「エル!」
何かが倒れる音とともにサラの声が聞こえてきた。
そこには気を失って倒れているエルの姿があった。
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