表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/76

8.ホテルマン、存在に気づかない

 その後も近いと思われる民家に挨拶をすると、どこも住んでいるのは高齢者ばかりだった。


 誰もが若い()が住むことに歓迎だった。


 田舎だから俺も若い子という扱いになるのも仕方ないのだろう。


 お礼にたくさんの野菜をもらった。


 しばらくは家の畑で収穫しなくても良さそうだな。


 挨拶が終われば後はショッピングモールに向かうだけだ。


 ただ、車を走らせている時にチラッとミラーに映る姿が気になった。


 まさかそんなことが起きるとは誰も思わないだろう。


 だって……。


「何でシルがここにいるんだ?」


「ずっといたよ?」


 後部座席にシルが座っていた。


 さっき農場に行った時や野菜をトランクに入れている時はいなかった気がする。


 座敷わらしだから姿を薄くできるのだろうか。


 まずそもそもの話だが、座敷わらしが外に出歩いて良いのか?


 いや、それよりも……。


 俺はその場で車を止めて振り返る。


「熱中症とか大丈夫か?」


「ねっちゅーしょー?」


「ああ、車の中にいただろ?」


 冬が終わり春の陽気が近づいてきている。


 少しずつ暖かくなっている車内では熱中症になる可能性も高くなる。


 ずっとエンジンをつけているわけではないからな。


「ううん? ふくといっしょだったよ?」


 どうやら俺と一緒に外に出ていたらしい。


 農場にいたのに全く気づかなかった。


「うしとおはなししてた」


 俺が牛に話しかけていたのを見られてしまったようだ。


「ここの牛は話せるってすごいよな」


「うっ……うん?」


 座敷わらしがいるぐらいだから、牛が話せるのもおかしくない。


 田舎って俺が思っているよりも異世界な感じなんだな。


「せっかくだから隣に来たらどうだ?」


 俺は荷物を助手席から後部座席に移動させる。


 ただ、その時にはすでにシルの姿はなかった。


「あれ? シルどこだ?」


「ここだよ?」


 隣を見るとすでにシルは助手席に座っていた。


 さすが座敷わらしだな。


 シートベルトを締めて早速ショッピングモールに向かう。


「ショッピングモールって行ったことある?」


「それはどこ?」


「もうそろそろ着くけど、色々なものが売っているから楽しいかもね」


 俺もショッピングモールにはあまり行ったことがない。


 養護施設にいた時は弟や妹の面倒を見ていたし、ホテルに勤めた時は仕事ばかりだったからな。


 そもそも座敷わらしって外に出かけることがあるのだろうか。


「シルはよく外にでるのか?」


「ないよ」


 やっぱり座敷わらし家にいるのが基本らしい。


 外に出られたらあそこの家にずっといなくてもいいもんな。


 ただ、なぜ今日に限って外に出ているのだろうか。


 俺に取り憑いているのだろうか。


 少し疑問に思いながらも、目の前にショッピングモールが見えてきた。


「おおきなおうちだね」


「ははは、シルには家に見えるんだね」


 土地が余っている田舎ではショッピングモールも大きい。


 家にいたシルには大きな家に見えるのだろう。


 駐車場に停めてシルとともにショッピングモールに向かう。


 ただ、周囲を見渡してもシルの姿は見えない。


 ひょっとしたら車に置いてきたのかと思い、戻ろうとしたら、服が引っ張られているような気がした。


「シルいるよ?」


「あー、ごめんごめん」


 なぜかシルの姿が家より外だと見えづらい気がする。


「迷子になるといけないから」


 俺はシルに手を差し出すと、嬉しそうに微笑んで手を掴んだ。


 すると家にいた時のように見えやすくなった。


 これって取り憑かれている状態じゃないのか?


 まぁ、迷子になって置いてきちゃうよりは良いだろう。


 ショッピングモールの座敷わらしってもはやただの幽霊になっちゃうしな。



「うおおおおおお!」

「おおおおおおお!」


 俺達はショッピングモールに入ると、たくさんあるお店に驚いた。


 周囲からの視線にいつものように戻るが、シルの目はキラキラと輝いている。


「まずはキッチンで使う台を探そうか」


 俺達はショッピングモールの中を歩いていく。


 ただ、俺とシルは何がどこに売っているのかはわからない。


 傍から見たら変な人達に見えるだろう。


 ずっとキョロキョロとしているからな。


「お客様、何かお探しでしょうか?」


 そんな俺達に店員が声をかけてくれた。


 シルは少し恥ずかしいのか俺の後ろに隠れた。


 ただ、しっかりと手は繋いでいる。


「恥ずかしがり屋のようですね」


 店員にはシルが見えているようだ。


 俺だけに見えていると思ったが、座敷わらしって比較的視覚認知がしやすいタイプの妖怪なんだろう。


 そんなことを思いながらも、欲しいものがどこにあるのか聞くことにした。


「踏み台やエプロンならインテリア用品のところに置いてありますよ」


「ありがとうございます」

「ありがとう……」


 ちゃんとシルもお礼を言えてえらいね。


 ショッピングモールの地図を貰い、俺達はお店に向かうことにした。


「なんかあの人達影が薄いな……」


 店員が何か呟いていたが、俺達の耳にはそれは聞こえなかった。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ