77.ホテルマン、エルお手製コーヒーを飲む
俺たちは朝からエルに起こされ、リビングに集まった。
「コーヒーの匂いがするね……」
俺は寝ぼけながらも椅子に座る。
「エルが朝一のコーヒーを飲ませたいらしいぞ」
この間、喫茶店の夫婦が泊まりに来たとき、店主にコーヒーの淹れ方を教わった。
道具も比較的安価なもので揃えられたため、エルは毎日練習を重ねていた。
「ちょうど良い苦さに抽出できたんですよ」
エルは俺たちにコーヒーを出していく。
俺と矢吹はホットコーヒー、子どものシルやサラ、甘党のケトにはミルクコーヒーが置かれた。
もちろん熱いのが苦手なエルはアイスコーヒーだ。
俺はゆっくりと寝起きの一杯を口に入れる。
「おっ、この間みたいに苦くはないね」
喫茶店の店主に教えてもらっても、豆の種類やお湯の温度、お湯の落とし方で味は変わってしまう。
教えてもらってから初めて作ったコーヒーは真っ黒で、なぜかマグマのように沸々と泡が出ていた。
「俺はもう少し苦くても大丈夫だ」
「さすがやぶきんだな」
子ども舌の俺と違って、矢吹は苦味が強くても飲めるようだ。
俺と妖怪たちって食事の好みが似ているぐらいだからね。
こっちを見て、矢吹はニヤリと笑う。
「寝癖がピョコピョコしているお子ちゃまの幸治くんとは違うからなー」
俺は急いで手で寝癖を押さえる。
寝起きでも鏡を見る暇がなかったからね。
それでも俺の寝癖は強力で、髪の毛を洗わないと直らないようだ。
動くたびに寝癖がピョコピョコと動く。
「にゃ……にゃにゃ!」
そんな寝癖をケトがジーッと見つめていた。
やはりネコは動くものに興味がそそられるのだろう。
「やぶきんは今日何するんだ?」
「俺はダンジョンの探索に行ってくる」
「ダンジョン……?」
「地下の畑のダンジョンのことな?」
どうやら畑から繋がるジビエの世界を矢吹はダンジョンって呼んでいるようだ。
さすが探索者って感じだな。
ただ、世間のダンジョンとはだいぶ認識が違うらしい。
その証拠に謎のジビエたちが出てくるし、手に入る魔石はなぜか色が黒い。
魔石って言ったら、色鮮やかなものが一般的だからね。
俺は尿路結石か胆石だって言うのに、矢吹は頑なに魔石だって言うから魔石なんだろう。
「そういえば、役所やギルドからの連絡はあったのか?」
「いや、それが問い合わせしたのに信じてもらえなくてな」
「あー、そうか……」
俺と矢吹はシルたちを見ると、楽しそうに話しながらコーヒーを飲んでいた。
なぜか役所からは家がないと思われているし、ダンジョンも出現しないと認識されている。
今まで普通の山奥がダンジョンになったことって、あまりないらしいからね。
過去に一例だけあっても、そもそも家の中にダンジョンがありますって言われても信用しないだろう。
「まるで俺たちが神隠しに遭っているみたいだな」
「その方がしっくりくるね」
俺たちはコーヒー飲みながら、ゆっくりと時間を過ごす。
「きょうはうっしーくるかな?」
「そういえば、最近来てないですね」
この間、遊びに来てから牛島さんが家に来ることが少し減ったような気がする。
以前は俺たちが依存……頼っていたし、牛島さんも朝から色々朝食を持ってきてくれたからね。
「いや、三日前に大量の食材を持って来てたぞ?」
「……それはかなり前だよ?」
「「「そうだよ?」」」
矢吹の言葉に俺たちは首を傾げる。
牛島さんが毎日来ないのは、おかしいからね。
それに大量の食材を持ってきたのがその証拠だ。
「農場が忙しいのかな?」
「最近涼しくなってきたからな」
夏の終わりが近づいてきて、少しずつ朝と夜の気温は下がってきた。
山奥なのもあり、温度差が激しくなりつつある。
それに合わせて農場もやることが増えるのだろう。
「私はもう少し涼しい方がいいです」
雪女のエルはかなりの暑がりだからね。
「牛島さんに会いに行くか!」
「「「さんせーい!」」」
牛島さん大好きな妖怪たちは一斉に手を上げた。
本当に俺たちって牛島さんに餌付けされている。
それは各々理解はしているだろう。
最近は牛島さんがシルたち妖怪を操る存在なのかもしれないって思うほどだ。
「じゃあ、ご飯でも作るか」
「シル、ぴざとーすとがいい!」
「オイラも!」
「サラはサラダを作るね!」
「私も手伝います」
みんなでキッチンに移動して、朝食作りの開始だ。
もちろん、パンやサラダのドレッシングは牛島さんお手製のものだ。
いくら料理ができるようになってきたって言っても、牛島さんの作った食材がないと生活できない。
それに市販のものを食べても、美味しく感じないからね。
「牛島さんのヨーグルトがないとお腹の調子が悪いからなー」
「「「ジーッ……」」」
俺たちは矢吹をジーッと見つめる。
矢吹もお皿に牛島さん特製のヨーグルトをお皿に入れていた。
どこかチーズクリームのようにもったりとしたヨーグルトを矢吹は気に入ってるようだ。
「なっ……なんだよ!」
「いや、やぶきんも俺たちと同じだなーって」
我が家に住んだら、牛島さんに依存するのは仕方ないのかもしれない。
その後も俺たちは牛島さんに感謝しながら、朝食を食べた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




