72.ホテルマン、背中がゾクッとする
「おい、大丈夫か!」
俺の驚いた声にすぐにロープが引っ張られる。
「ああ、ちょっとな……」
「代わりに俺が行くぞ?」
まさかあんなところに白骨遺体があるとは誰も思わないだろう。
ただ、盾も回収ができていないため、もう一度行く必要がある。
「いや、俺の責任だからな」
盾を取りに行くって言ったのは俺の方だ。
我が家で料理を作っている牛島さんを待たせるわけにはいかないからな。
見間違いの可能性もあるため、スマホを片手に再びゆっくりと降りていく。
盾を取りに行く間にスマホで写真を撮影する。
怖いのもあり、なるべく見ないようにさらに降っていく。
あともう少しで盾が届くはずだ。
大きく手を伸ばす。
――ピピピピ!
急にポケットから音が鳴り、俺はビクッとした。
どうやらスマホに電話がかかってきたようだ。
あんなことがあり、敏感になっているだけだろう。
妖怪は慣れているが、さすがに白骨遺体には慣れていないからな。
骨の妖怪って中々思いつかない。
骸骨と言ったら墓場とかしか出てこないが、あそこに墓場があるのだろうか。
「拾ったぞ!」
「おう!」
盾を抱えると矢吹に引っ張ってもらう。
ゆっくりとあげてもらうと、やはりあの光景は目に入ってしまう。
「どこから見ても骨なんだよな……」
わずかに見える白骨遺体は小さめで、何か長い布のようなものを着ていた。
どこかこっちを見ているような気がするが、きっと気のせいだろう。
真夏なのに背中が涼しいって中々ないからね。
「ありがとな!」
地上に戻った俺は矢吹に盾を返す。
それと同時にスマホで撮った写真を矢吹に見てもらうことにした。
「非通知……?」
さっきの電話は知らない人からのようだ。
別に寒いわけではないのにさらに震えが止まらない。
「おい、本当に大丈夫か?」
矢吹は俺の肩を掴み、心配そうに俺の顔を覗いていた。
「ああ、これを見てくれ」
俺が怖がっている原因を矢吹にも見てもらわないと伝わらないだろう。
スマホの画面を見ると、矢吹は息を呑んでいた。
「ひょっとしたら人骨だな」
うん?
なんかあっさりしていないか?
ここは〝うわああああああ!〟って声をあげてもいいはずだ。
「なんか冷静だな」
「探索者にとってはよくある光景だからな」
これがよくある光景なんだろうか。
尚更、俺は探索者にはなれないようだ。
「シルも見る!」
「サラも!」
「お前達はダメだな」
「えー!」
子ども達が見ないようにすぐに矢吹から受け取ろうとしたが、そのまま手から落ちてしまった。
それだけ俺は手に汗をかいていた。
シル達の元へ滑り落ちていくスマホ。
「見たら……」
シルとサラは手に取ると、ジーッとスマホを覗く。
矢吹もさっきまでは心配している顔をしていたのに、今は睨むように俺をジーッと見つめている。
何をやっているんだと言いたげな表情だな。
「ここ私が生まれたところだよ」
サラの言葉に注目はそっちに集まった。
「サラの生まれた場所ってどういうことだ?」
「気づいたら花畑みたいなところにいたの。きっとここなのは間違いないよ」
白骨遺体があったのは覚えていないらしい。
ただ、川の中にある花畑がサラの記憶にはあった。
――ピピピピ!
「うわぁ!?」
また電話がかかってきた。
俺はシルからスマホを受け取ると、そこには〝うっしー〟と表示されていた。
どうやら牛島さんからの電話のようだ。
「もしもし」
「ああ、兄ちゃんか。さっき喫茶店に忘れ物があったって聞いたから、兄ちゃん達じゃないかと思って店主が電話をしたらしいが、繋がらなかったらしくてな」
非通知の相手は喫茶店の店主からだった。
俺の電話番号を牛島さんが教えて、電話をかけてもらったが繋がらなかったため、牛島さんが代わりにかけてきたらしい。
「元気がないけどどうしたんだ?」
本当に白骨遺体なら俺達はどこかに連絡しなければいけない。
こういう場合は警察だろうか。
正直こんなことって普段から起こるわけではないからな。
「川に盾を拾っていたら、白骨遺体を見つけ――」
「それはどこだ!」
普段の優しい牛島さんとは異なる声が耳元から聞こえてきた。
驚きと戸惑いが声から感じられた。
場所を伝えるとすぐに牛島さんも来てくれるらしい。
やはり我が家には牛島さんは必要だな。
それまでは俺達は車で待つことになった。
ああ、白骨遺体の近くでずっと待つなんて怖いな……。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




