66.ホテルマン、取り憑かれている?
「おなかへったー!」
「うっしー! ご飯!」
シル達も目を覚まし一階に降りてきた。
お腹が減っているのか、早速牛島さんに催促している。
ただ、ケトが普通に話している姿を見て、牛島さんは驚いていた。
二日続けて話しているところを見たら、妖怪だと認識しただろう。
一方、妖怪だとは言っていないのに、ケトが話している姿を見て、紗奈ちゃんは大喜びだった。
その辺は子どもだと柔軟に受け止められるのだろう。
まるで昨日の嫌なことを忘れたのか、ケトにべったりとしていた。
「こんなに大勢集まるのって初めてですよね」
「民泊を始めるって聞いた時はこれを想定していたはずなんだけどな……」
なぜか牛島さんが遠くを見つめていた。
俺だってこんなに民泊に人が集まらないとは思わなかったからな。
それだけホテルで働いていた時は、恵まれていたんだと実感する。
ゆっくりと寝ている喫茶店の店主達を含めると、大人が5人と子ども1人、妖怪が3人と1匹だとだいぶ賑やかだろう。
「じゃあ、食べるぞ」
テーブルには簡単なサラダやオムレツ、ジビエがベーコンのように焼かれていた。
知らぬ間にジビエ料理をアレンジしていたのかと驚きながら、さすがの牛島さんの料理に俺達は無我夢中で食べていた。
「そういえば、昨日の約束は?」
矢吹は紗奈ちゃんに悟るように声をかけた。
紗奈ちゃんはサラと目を合わせると、頭をゆっくりと下げた。
「昨日はひどいことを言ってごめんなさい」
サラは散々紗奈ちゃんに文句を言われたが、特に何か言い返すこともなく怒っている様子もなかった。
きっとサラ自身も何を言われているのか、理解できていなかったのもあるだろう。
「大丈夫だよ。この体の子に言ってるんだもんね」
サラの言葉に俺達の手は止まる。
――この体の子に言ってるんだもんね……?
それってまるでサラが幽霊のように紗羅ちゃんに取り憑いているような言い方だ。
「サラ、それはどういうことだ?」
「ん? 私にもわからないよ。だって気づいたらこの体になって川の中にいたんだもん」
本当に紗羅ちゃんの体にサラが取り憑いているのだろうか。
それに気づいたら川の中にいたということは、俺が見つけるまではずっと川の中にいたことになる。
妖怪がどういう仕組みでこの世に存在しているのかはわからない。
ひょっとしたらシルやエルも、誰か行方不明になった人の体を借りているのだろうか。
そんな妖怪達を引き寄せる俺は一体なんだろうか。
妖怪マスターにでもなるのだろうか。
その後もサラに聞いてみたが、紗羅ちゃんのことは何も知らなかった。
ただ、気づいたらどこにいて、ずっと何をしていたのかがわかっただけだ。
「とりあえず、食べるとするか」
あまりにも重い空気に、俺達は急いで朝食を食べることにした。
しばらくすると喫茶店の夫婦も目を覚ましたのか、一階に降りてきた。
奥さんも昨日のことをすぐに謝り、お店の準備があるからと紗奈ちゃんを連れて自宅に帰った。
突然の訪問にバタバタしたが、サラのことを知る良いきっかけにはなっただろう。
「あっ、牛島さんの作ったジビエ料理って余っていないか?」
「イノシシのカツなら冷凍庫に保存してあるはずだぞ」
牛島さんがいつでも食べられるようにと、冷凍庫に揚げるだけの状態で保存してくれたらしい。
昨日みたいに急にお客さんが来る可能性もあるからな。
我が家の民泊は急に人が来ると、ちゃんとした料理の準備ができずおもてなしができない。
牛島さんが事前に準備をすることで、成り立っている民泊だからな。
矢吹はどうしてもジビエ料理が必要になると頼み込んできたので、俺がイノシシのカツを揚げることにした。
「んー、これぐらいでいいのか?」
料理初心者の俺には揚げ物はまだ早かった。
出来上がったのは黒くなったイノシシのカツだった。
「できたけど大丈夫?」
「あー、俺が食うわけじゃないから大丈夫だ」
矢吹は焦げたイノシシのカツを玄関に持って行くと、お地蔵さんにお供物として手を合わせていた。
新しい料理を食べさせたいと思ったのだろう。
しばらく矢吹は玄関で楽しそうに独り言を話していたが、あいつも何かに取り憑かれているのだろうか。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




