62.ホテルマン、魔物料理を食べる
「思ったよりもうまかったな」
「うっしーの料理みたい」
ナポリタンを食べた矢吹とケトには好評だった。
俺もまさかこんなに上手くできるとは思いもしなかったが、少ない調味料と簡単な手順であればできそうな気がしてきた。
ただ、レシピだと調味料を入れるタイミングやどこまで炒めるのかわからないからな。
初めて全部入れて焼くだけとかならできそうだが、そんな料理を提供するぐらいなら牛島さんに頼んだ方が良さそうだ。
喫茶店の店主に民泊の宣伝をしてから、再び俺達は真心便利屋に窓ガラスを取りに行き、帰ったのは夕方頃になっていた。
「ただいまー!」
「うおっ!? おかえりー!」
窓ガラスを持っているため、庭にまわっていくと突然出てきた俺達に驚いていた。
すぐにシルとサラは出迎えてくれたが、その手はなぜか白くなっている。
「なにをやっていたんだ?」
「ジビエー!」
「ジビエ?」
まさかジビエを捕まえにダンジョンに行ったのだろうか。
怪我をしていないか頭の先から見ていくが、特に何かあった感じはなさそうだ。
「ははは、それじゃあわからないぞ。兄ちゃんが帰ってくるから、ご飯をみんなで作って待ってたんだ」
牛島さんには事前に帰る時間を連絡していたため、それに合わせて何か作っていたのだろう。
パチパチと油が弾けるような音が聞こえてくる。
「イノシシのカツを作ってみたんだが、もうそろそろできるから準備しろよー」
「はーい!」
シル達の言っていたジビエは、ジビエ料理を作っていたってことだった。
手が白かったのは小麦粉をつけるお手伝いをしていたのかな?
遅めの昼食だったはずだが、美味しそうな匂いに釣られて少しずつお腹が減ってきた。
「あの人この家のお母さんみたいだな」
「あー、確かに俺よりみんなに好かれているからな」
言われてみたら牛島さんはお母さんのような感覚に近いかもしれない。
いや、家事以外に罠を作ることもできるし、困っている時はいつも助けてくれる正義のヒーローだな。
俺に憑くより牛島さんに憑いたほうが幸せだろうに……。
「どうせ俺なんて料理もできないし……」
「おいおい、またあいつめんどくさくなったぞ?」
「オイラもカツ食べるー」
「おい!」
隣で矢吹もめんどくさそうにしているから仕方ない。
「まぁ、今日のナポリタンは美味しかったぞ」
「今なんて?」
「ニヤニヤしてる暇があるなら、はやく窓を取り付けるぞ!」
どうやら俺の顔はニヤついていたようだ。
やっぱり美味しいって言ってもらえるのは嬉しいからな。
しばらくは料理を楽しみながら、慣れていった方が良いだろう。
窓ガラスを取り付けるとすぐにテーブルに向かう。
並べられたイノシシのカツは思っていたよりもトンカツと見た目は変わりなかった。
「お前ら本当にこれを食べるのか?」
「そうだけど?」
矢吹は不思議そうな顔で俺を見ていた。
ダンジョンで謎のイノシシを見かけている矢吹にとっては食べづらいのだろうか。
そんなことを気にしていたら、俺達は生きていかなかったからな。
「苦手なら別ものを用意――」
「無理矢理にでも食べさせます!」
俺はすぐに矢吹の頭を下げさせる。
せっかく作ってくれた牛島さんに失礼だからな。
彼がいないと我が家は野垂れ死ぬ。
そんな牛島さんに迷惑をかけるってことは、この家から追い出さなければいけない。
「いや、ダンジョンの魔物って食べたことないからな……」
「前に来た時に出したうさぎ料理もあそこのやつだぞ?」
「あー、それなら食べられるか」
魔物は一般的に食べるという認識が探索者にはないようだ。
そういえばこれってジビエだと思っていたが、魔物料理ってことか?
それなら尚更、人を惹きつけるには良い材料になりそうだ。
「レモン果汁かソースをかけて食べると美味いぞ」
レモン果汁を少し垂らして、塩をつけてイノシシのカツを一口食べてみる。
「うんっま……」
豚と違って赤み肉がしっかりしている分、さっぱりとしたレモン果汁と塩がマッチしている。
焼きイノシシしか食べたことがなかったが、調理方法の違いでこんなに変わるとは思いもしなかった。
獣臭さを全く感じないのも、牛島さんによる技術なんだろう。
他のみんなも無言でバクバクとイノシシカツを食べていた。
――ピンポーン!
そんな中、家のインターフォンが鳴った。
誰かと思い画面を見ると、喫茶店の店主と奥さんが映っていた。
何か忘れ物をして、わざわざ届けてくれたのだろうか。
俺は特に内容を聞かず、そのまま玄関の扉を開けた。
「この誘拐犯! 私の娘を返しなさいよ!」
突然、奥さんに胸ぐらを掴まれて俺は何を言われているのか全く理解ができなかった。
俺はいつのまにか誘拐犯になったようだ。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




