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6.ホテルマン、料理ができない

 俺に抱きついていたシルを起こすと、早速朝食の準備を始める。


 朝食と言っても簡単にできるサラダを作るつもりだ。


 それなら失敗する可能性も低いし、生野菜だから包丁で切る作業しかない。


 冷蔵庫から野菜を取り出し、調理台に持って行こうとしたらシルの行動に驚いた。


「よいちょ!」


 シルは足を上げて、シンクの中に入ろうとしていた。


「シルどうしたんだ!?」


「じゅんびだよ?」


 不思議そうな顔でこっちを見ている。


 俺が何か間違えたのだろうか。


 俺の様子を見てシルは何かに気づいたようだ。


「シルとどかないの!」


 どうやらシルはシンクの中に入って、調理をしていたらしい。


「天ぷらを作る時もそうやってたの?」


「うん!」


 シンクから調理台に上ると、そのままコンロの前で天ぷらを揚げるふりをしていた。


 こんな状況でよくあれだけの料理が作れたことに俺も驚きだ。


「シルには足台が必要だな」


 俺はシルを抱き上げて、どれぐらいの高さが必要なのか見ることにした。


 しかし、ここでもシルが座敷わらしだと思い知らされる。


 見た目よりも確実に体重が軽いのだ。


 あれだけ俺に抱きついていた時は、全身が重く感じていた。


 だが、実際に持ち上げたらお米くらいの重さしかない。


 たまに厨房の手伝いでお米を運んでいたが、持っている感覚はそれに近い。


「へへへ!」


 シルはというと、俺に持ち上げられて楽しそうに足をバタバタとしていた。


 俺はゆっくりとシルを下ろすと、ジッととした目でこっちを見てくる。


 まるでホラー映画を見た後に感じる視線に近い。


 恐るべし座敷わらし。


「危ないから椅子に座ってやろうか」


 俺はボウルや包丁をテーブルに持っていき、そこでサラダの準備をすることにした。


「シルはレタスを千切ってくれるかな?」


「うん!」


 シルにレタスを準備してもらっている間に、俺はトマトやきゅうりを切っていく。


 またジトっとした視線にふと目線を上げると、シルがこっちをみていた。


「あぶない!」


 シルは少し怒った顔で近づいてきた。


 俺は何かしたのだろうか……。


「よそみはダメ!」


 ああ、途中でシルを見ていたからだろう。


 手元を見てみると、そのまま包丁を下におろしていたら指を切りそうになっていた。


「ほうちょうをつかうときはねこさん!」


 シルは俺の手元の近くに自分の手を置いた。


 まるで俺に料理を教えようとしているのだろうか。


 可愛い妹みたいだな。


「ははは、俺一回も料理したことがないからな」


 養護施設にいる時はスタッフが料理を作ってくれた。


 働くようになってからは、環境的に料理をする機会がなかったからな。


「ひょっとしたら俺達って料理が壊滅的じゃないか?」


「シルはできるもん!」


 どうやらシルは俺と同じにして欲しくないらしい。


 シルに包丁を渡すと、空中にキャベツを投げた。


 今まで料理をしていただけあって、シルの包丁捌きは近くに寄らなければ大丈夫なほどだった。


 どうやって空中で千切りキャベツを作ったのかは速くてわからなかったが、座敷わらしは人間と違うのだろう。


「シルもネコの手していないけどいいの?」


「してるよ?」


 俺は包丁を持っていない反対の手を見てみると、確かに指先を曲げて、ネコの手をしていた。


 空中に野菜を投げていたら、やる意味があるのかわからないが、そこは触れないようにしよう。


「じゃあ食べよう……あっ!?」


 野菜を切り終えていざ食べようかと思ったが、あることに気づいた。


 俺は冷蔵庫の中身を確認していく。


 奥の方に黒ずんだドレッシングを見つけた。


 少し心配になり、賞味期限を確認する。


「えっ……三年前……」


 ドレッシングの賞味期限は三年前に過ぎていた。


 俺はすぐに調味料の期限を全て確認していく。


「なぁ、シル?」


「なーに?」


 足をバタバタさせてサラダを食べるのを待っていたシルに声をかけた。


「前に住んでいた人っていつまでいた?」


「んー、いち……に……さん……よん?」


 どうやら昨日食べた料理の味がおかしかったのは、賞味期限や消費期限が切れた調味料のせいかもしれない。


 決してシルの料理が下手なわけではなかったようだ。

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