58.ホテルマン、原因を知る
「お客さんの予約は入ってるか?」
「いやー、民泊って中々予約が入らないな」
俺と矢吹は今後の予約状況を確認していた。
世間は夏休みシーズン真っ只中だが、中々民泊に泊まりにくるお客さんはいないようだ。
「前はホームページに不具合があったからだけど、やっぱりここの住所がわかりにくいのが原因かな?」
今さっき二件電話した時も、地図上にこの家は検索されなかった。
その影響でここに民泊はないという認識に繋がったのかもしれない。
「あー、住所以前に見つけにくいのもあるかもしれないな」
「なんだそれ……」
俺は矢吹がここに来るまでに迷子になっていたことを聞いた。
牛島さんがいなければ家は探せなかったし、タクシーもここに家がないと認識していたらしい。
ダンジョンですぐに俺達を見つけたのに、矢吹が迷子になるとはな。
妖怪達が集まっているため、何か不気味なことが起きているのだろうか。
俺もスマホの地図アプリで住所を検索する。
「やっぱり住所は検索できても山の中だな」
目的地の目印は地図上では山の中にあり、画像を見ても山しか表示されない。
それに我が家が全く映っていない。
「単純に地図が更新されていないってことはないか?」
「そんなことあるのか?」
「ここに場所を手動で登録するところがあるぞ」
画面を切り替えていくと、場所を追加する項目があった。
単純に誰も登録していないから、見つけられなかった可能性がある。
他の地図アプリや検索サイトで確認するが、どこも同じように山としか検索されないようだ。
「ただ登録されていなかっただけか」
「その可能性も高そうだな」
国家ダンジョン管理局や真心便利屋が同じような地図アプリを見ていたら、見つけられなかったのも納得できる。
「とりあえず写真を撮って載せるか」
俺は外に出て家の外観と家から見える景色を撮影することにした。
「もう少し右に寄ってもらってもいい?」
外ではシルとサラが走り回っていた。
「せっかくふくごっこしてたのに……」
シルとサラは走るのをやめて、トボトボと歩いていた。
ふくごっことは何だろうか。
単純にシルが追いかけて、サラが逃げているだけにしか見えないが……。
「それは鬼ごっことは違うのか?」
矢吹も気になっていたのか二人に聞いていた。
「サラがふくで、シルがまものだよ!」
「ははは、それならふくごっこだな」
どうやらダンションの中で囮になっていた俺を演じているようだ。
サラが必死な顔をして逃げているが、俺もあんな顔をしていたのだろうか。
もしくは単純に座敷わらしに追いかけられているのが怖いのだろうか。
座敷わらしに追いかけられる河童って中々見ない光景だもんな。
昨日帰ってきたばかりなのに、二人はいつものように元気だ。
「やっぱり日向ぼっこはいいね」
「たまには日に当たらないとおかしくなりそうですね」
一方、普段は家でゴロゴロしているケトとエルが久しぶりに日向ぼっこしていた。
日向ぼっこというのか日焼けをしているのかどちらだろうか。
「ふくとやぶきんも一緒に寝ますか?」
エルの言葉に矢吹はビクッとしていた。
「おい、俺は一応男だぞ?」
「エルはそういう人……いや、妖怪だから気にしない方がいいよ」
忘れていたけど彼女って少し抜けているからな。
痴女というのか……なんというのか……。
初めて会った時は、服を脱ごうとしていたからな。
それに視線を感じると思ったら、ふくごっこしていた二人が立ち止まり、俺達をジーッと見ていた。
ひょっとしたら二人の視線に矢吹もビクッとしたのだろうか。
「オイラも男だもん!」
「ああ、ケトは恋多き男だったな」
恋多きって言葉がいけなかったのか、ケトが急にションボリとしだした。
「どうせオイラは恋が実らないカスですよ。カスはそのままチリになって風に吹き飛ばされたらいいんだ」
その光景に矢吹も戸惑っている。
ケトはいつもペットショップに行っては振られていたからな。
他の猫に興味を示すと怒っていたから、俺がいたらとりあえず大丈夫だろう。
「相手が見つからなくても俺がいるからいいじゃないか?」
「ふく……呪うよ? オイラにも彼女が欲しいもん!」
どうやら違ったようだ。
この間嫉妬で落ち込んで泣いていたのは何だったんだ?
「なんかここの妖怪達ってめんどくさくないか?」
「あー、これが日常だからな」
「俺ここでやっていけるのか……」
ここに住むってことは、妖怪達とルームシェアになるのは当たり前だ。
だが、強くて優しい矢吹なら大丈夫だろう。
「せっかくだからみんなで写真を撮らないか? 民泊の宣伝にもなるだろうしな」
「さんせー!」
「私も写真に写りたいです!」
シルとサラは女の子だから写真を撮るのは賛成のようだ。
「少し服を脱ぐので――」
「ダメッ!」
エルも特に問題はないようだが、写真を撮るためになぜか服を脱ごうとしていた。
それをシルとサラに必死に止められていた。
「あとはケトだけだぞ?」
「オイラにどうせ彼女なんて……」
どうやらケトはまだ落ち込んでいるようだ。
「民泊に可愛い猫ちゃんが泊まりに――」
「ふく、早く撮るんだ!」
いつのまにかケトは矢吹の足元に立っていた。
猫なら猫らしくしていた方が良い気もするが、泊まりにきたお客さんの猫とカップルになることもないから良いだろう。
「じゃあ、押すぞー!」
スマホのシャッタータイマーをセットして、急いで戻る。
「はい、チーズ!」
俺達は新しい家族との思い出として写真を残した。
この写真がさらに幽霊屋敷で不気味だと言われていることを知ったのは、だいぶ後になってからだった。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




