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54.ホテルマン、ジビエの世界に行きたい

 洞窟の生活を続けて5日程度は経っただろうか。


 今ではこの生活もだいぶ慣れてきた。


「ふく、がんばってね!」


「ああ! 俺がいないと飯は食べられないからな」


 俺は軽いストレッチをしてから、大きく腿を上げて走る練習をする。


「よっ、囮名人!」


「さすが逃げ足だけは速いわね」


「それだと応援ではないと思いますよ?」


 相変わらずケトとエルは何かを勘違いしているのか俺を貶してくる。


「そんなことを言う口はどれだぁー?」


「イタタタ……」


 ケトの頬を掴んでグルグルと回す。


「呪うよ?」


 あまりにも強く引っ張ると、毎度の如く呪うような発言で動きを止める。


 さすがに俺も呪われたくないからな。


 少し前であれば落ち込んでケトのようになっていたが、今はだいぶ精神的に安定したからな。


 今となってはこれもルーティーンになりつつある。


「じゃあ、イノシシでも捕まえてくる」


「オイラはシカがたべたいなー」


「この間のキジも美味しかったわね」


「間違ってでも食べられないようにね?」


 5日間の間にイノシシだけではなく、シカやキジも現れて、捕獲したがどれも美味しかった。


 シカはやや淡白な味わいで赤みがしっかりしている。


 どことなくレバーの風味を感じるのに、歯応えがしっかりしてお腹がいっぱいになる。


 そのままステーキにして食べたら美味しかった。


 キジはほぼ鶏肉と鴨肉の間って感じだな。


 フランス料理などにも使われることが多いため、民泊で出したらおしゃれだろう。


 ぜひ、牛島さんに料理をしてもらいたいものだ。


 まぁ、戻れるかはわからないけどな。


 俺は柵から出て少しずつ近づく。


「お前の母ちゃんはゴリラ!」


 いつものように声を出して謎の動物達を呼んでいく。


 なぜか俺が声を出すと動物達が集まってくる。


 以前シルやサラで試したがみんな逃げていった。


 少し様子を見ていると動物達が近寄ってきた。


「げっ……またチンパンジー野郎か」


 俺はそのままシル達の元へ戻ると、すぐに合図を出す。


「チンパンジー野郎がきた!」


「ラジャー!」


 すぐにシルは反応して妖術を繰り出す。


 食べられない動物は妖怪達に追い払ってもらう。


 これを繰り返しているとそのうちジビエが現れる。


 あれだけ畑に出てきたツノうさぎが今となっては懐かしく感じるほど、ここには大きい動物ばかりだ。


 シルに礼を伝えたら、再び動物を呼びにいく。


 俺達はこれを繰り返しながら生活をしていた。


 思ったよりも洞窟の中の居心地は良く、シルがいれば日用品は勝手に出してくれる。


 水はサラの妖術でどうにかなるから、お風呂や洗濯もして快適な生活を送っていた。


 まるで洞窟内でグランピングをしている感覚だな。


「お前の足はチーズより臭いぞー!」


 再び動物を集めるために声を出す。


 遠くで何かが近づいてくる音が聞こえてくるからな。


「お前の息は納豆だー!」


 二度の挑発をすれば動物も出てくるだろう。


 だが、音は途中で止まり様子を伺っているようだ。


 俺は少し近づき再び挑発するように息を吸った。


「はぁん!?」

「うぇ!?」


 突如、見たことない大きな壁みたいなのが突撃してきた。


 そんな近くまで来ているとは思いもしなかった。


 俺はそのままぶつかり宙を舞う。


 ああ、また走馬灯が見えてきたぞ。


 いや、あれはただの川か?


 なにかが手を振っているような気がする。


 あっちには美味しいジビエがあるのかな……。



 ♢



「おい、俺の回復スキルじゃ治せないぞ」


「やぶきんのバカ!」


 どこかで声が聞こえるぞ。


「だっていきなり幸治が出てくるとは思わなかっただろ? それに俺の口臭が納豆とか言われたらたまらんぞ!」


「そんなに言い合いしなくても、水をかけたら起きるよ?」


 あれ?


 急に息苦しくなってきたぞ?


 まさか川で溺れたんじゃないのか?


「げふっ!?」


 俺は大きく口から水を吐き出す。


「ほら、起きましたよ?」


 目を開けるとそこには心配そうな顔をしたシルと矢吹がいた。


「やぶきーん! ここは天国か?」


 俺は久しぶりに見た矢吹に抱きつく。


 やっぱりここは天国なのか?


 この間会った時に変な胸騒ぎがしていたけど、あいつも天国に来たのだろうか。


 ん……?


 それならシルも天国にいるっておかしいよな。


「ここはダンジョンの中だな」


「はぁん?」


 矢吹は何を言っているのだろうか。


 ここが天国じゃなくて、ダンジョンだなんて……。


 周囲を見渡すと俺はいつもいる洞窟の広間にいた。


「ああ、夢だったのか……」


 川を渡った先にはたくさんのジビエ達が手を振っていたのにな……。


 うさぎやイノシシだけではなく、珍しいタヌキもいた。


「みんな美味しそうだったのにな」


「あー、元気そうだな」


「そうだね?」


「ふくは囮だからいつも元気だよ?」


「囮って中々酷いことをさせているな」


 俺が寝ているうちに矢吹はさらにみんなと仲良くなったのだろう。


 だいぶ距離感が近いな。


「シカやキジも美味しいですよ?」


「はぁん? お前達魔物を食べているのか?」


 魔物?


 俺達が食べていたのは謎の動物だぞ。


 いや、俺達の中ではご馳走のジビエ様だな。


「あれはジビエだぞ?」


「いやいや、普通の動物があんな見た目をしているわけないだろ!」


 たくさんツノが生えていて、触ったらビリビリするシカだっているかもしれない。


 羽を広げたら火を放つキジもいるだろう。


 だって、我が家には座敷わらし、猫又、雪女、河童と妖怪達が勢揃いだからな。


「それよりもはやく帰るぞ!」


「うえっ……?」

「えっ?」

「にゃ?」

「なんですって?」

「帰れるんですか?」


 俺達の声が重なる。


 幻聴でも聞こえたのだろうか。


「ここからすぐのところから帰れる――」


「「「「「やぶきーん!」」」」」


 俺を含め妖怪達は矢吹に飛びつくように抱きついた。


 やっと俺達は我が家に帰ることができるようだ。

「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」

「「呪うよ?」」

 シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。


| |д・)ωΦ^ ) ジィー

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キッチンカーと巡る異世界グルメ ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~
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