52.クマ男、家を探せない ※矢吹視点
「はぁー、探索者でもしんどい田舎って移住先間違えたのか?」
農場からタクシーを降りて、幸治の家に向かって歩き出したが、ここは異世界なんだろうか。
全くあいつの住んでいる家が見えてこない。
近くに農場があったのは覚えているが、ここまで遠かっただろうか。
『コッケエー!』
疲れて道端に座っていると、鶏が走って近づいてきた。
あまりの大きさに警戒するが、見た目は普通の鶏と変わらないようだ。
「勝手に散歩するなと言っているだろ……」
突然出てきた鶏にもびっくりしたが、その後を追いかけるようにおじさんがいたことにも驚いた。
探索者である俺が全く気づかないとは、Aランクの道もまだまだ遠いのだろう。
柴犬ぐらいの大きさの鶏を抱きかかえると、やっと俺の存在に気づいた。
「こんなところで迷子にでもなっているのか?」
迷子と言ったら迷子になるのだろうか。
一向に幸治の家が見つからないからな。
「知り合いの家を――」
「ああ、兄ちゃんの民泊に泊まるお客さんか」
民泊の話をするぐらいだから、幸治のことを知っているのだろう。
「すぐ近くにあるのに気づかなかったのか?」
「へっ……?」
おじさんが指をさしている方には、なかったはずの大きなログハウスが存在していた。
あまりの暑さに俺は疲れているのだろうか。
いや、さっきまでそこに家はなかったはずだぞ?
妖怪達が住む家なら探しづらい何かがあるのかもしれない。
俺は立ち上がり再び家に向かって歩き出す。
『コッココ!』
「おい、勝手に行くなと言ってるだろ」
鶏が俺を追いかけるように付いてくる。
おじさんも諦めたのか、そのまま俺の後ろを付いてきた。
家まで案内してくれるのだろうか。
別に幸治みたいに方向音痴ではないが、こんなところで迷子になったら帰れる気がしない。
しばらく歩くと家が見えてきた。
俺はインターホンを押して、あいつらが出てくるのを待った。
だが、中々反応がない。
「どこかに出かけているのか?」
「車があるから家にはいそうだけどね」
おじさんはよく幸治の民泊を手伝っているらしい。
ただ、この間会ったのは五日前でそれからは会っていないと……。
どこか俺の中で嫌な胸騒ぎがした。
それに玄関に置いてあるお地蔵さんのお供物に虫が集っていたからだ。
いくら暑い夏だとしても頻繁にお供物を交換していたら、虫が集まってくることはないだろう。
俺はそのまま家の裏に回り、家の中を確認する。
「電気はついているけど、誰もいないのか?」
家の中は電気が付いていた。
だが、誰かいる様子もなく、妖怪達すら見当たらない。
「おいおい、勝手に入らない方が――」
「ああ、今日からここの住人になるので大丈夫ですよ」
心配になったのかおじさんも鶏を抱えて付いてきたようだ。
俺はアイテムボックスから杖を取り出す。
「おい、何を――」
――パリン!
ベランダの窓を叩き割り、鍵を開けて中に入っていく。
「おーい、誰かいるかー!」
声をかけるがやっぱり反応がない。
「そんな不法侵入なんてしたら――」
「また、神隠しにでもあったのか……?」
「神隠しだと!?」
どこにいるのか考えていると、おじさんは掴みかかるように話を聞いてきた。
あまりにも勢いが強かったため、幼い頃から一緒に過ごしていたことと、過去に神隠しにあったことを伝えた。
そして、しばらく電話やメールが返ってこないことが気になっていたと……。
「それは本当なのか?」
「いや、事実かわからないが……」
「ちょっと電話してみる」
おじさんが電話をかけると、テーブルの上でブルブルとバイブレーションが鳴っているのが聞こえた。
幸治のスマホはテーブルの上で充電されていた。
しかも、画面を見ると俺が何度も連絡した形跡がそのまま残っていた。
一度もスマホを開けていないってことだ。
その光景に本当に神隠しにあったのではないかと思ってしまう。
「そういえば、この間地下の畑に穴ができて――」
家の中を歩いていると、やけに魔力を感じる場所を見つけた。
探索者は自他ともに魔力を敏感に感じることができる。
大体は人よりも魔物に反応することが多いけどな。
「話はちゃんと最後まで……」
台所には地下に降りるためなのか、床の扉が開けてあり階段が出ていた。
「ああ、ここが地下の畑だったな」
おじさんは一度ここに入ったことがあるらしい。
何だか変なうさぎが出てきたらしい。
ひょっとしたら神隠しじゃなくて、ダンジョンに迷い込んだのではないかと頭をよぎった。
ただ、今までダンジョンは有名な観光地や文化遺産などばかりにできることが多かった。
自然豊かな場所にできることはあっても、家にできた話は聞いたことがなかった。
俺はアイテムボックスから装備を取り出して、ゆっくりと地下の畑に向かっていく。
段々と肌で感じる魔力がピリピリとしている。
アステリオスほどではないが、ミノタウロスに近い魔力を持っている何かがいるようだ。
「おじさんはなるべく俺の後ろに隠れてください」
「ああ」
おじさんも何か違和感を感じているのだろう。
俺の後ろに隠れるように付いてきた。
地下には畑があり、どこも不思議な様子はなかった。
だが、奥の方だけ魔力を感じる。
「あそこに穴があったんだが……だいぶ大きくなったな」
おじさんの話では地下の壁が以前よりも大きくなっていると言っていた。
以前は小型の動物が通れるサイズだったが、今は大型犬サイズはありそうだ。
そして、その穴の先から魔力を感じる。
「きっとこの先はダンジョンになっています」
「ダンジョンってあのダンジョンですか?」
「ああ。何かあった時はすぐに探索者ギルドに連絡を入れてください。Bランク探索者の矢吹の名前を出せば、少しは話を聞いてもらえると思います」
未発見のダンジョンに幸治達が巻き込まれた可能性がある。
地面に野菜がそのまま入っているカゴが転がっているのも、その理由になるだろう。
俺はおじさんに数日経っても戻ってこなければ、探索者ギルドに連絡してもらうことを伝えた。
「危ない可能性もあるので、台所の扉は閉めておいてください」
「わかった!」
幸治から連絡が来なくなって、およそ5日間が経過している。
いくら妖怪達が一緒でも、ダンジョンに迷い込んだらどうなるかはわからない。
最悪な結果も想定しておいた方が良いだろう。
あまり時間もないと思い、俺はそのまま穴の中を潜りダンジョンの探索に向かった。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




