51.クマ男、移住する ※矢吹視点
「あいつから連絡来ないけど何してるんだ?」
俺は何度も親友の幸治に電話をしているが、留守番電話になってしまう。
終いにはメールを送っても無視されている。
あいつから一緒に住まないかと誘ってきたのに、完全に振られた感覚だ。
少し心配ではあるが、電車に乗ってあいつが住んでいる町に向かうことにした。
まぁ、探索者はどこかに家があるわけでもなく、ホテルとかに滞在していることが多いため、荷物もそこまで多くない。
移住する準備をするって言っても、やり残したことをしたぐらいだからな。
あれから俺も探索者としてランクを上げて、今はBランクになった。
実力的にもAランクに上がれるだろうと言われている。
ただ、一気にランクが上がると目をつけられるからな。
最近も誰かに見張られている気がして、背筋がゾクゾクとしていた。
特に男性と話していた時にそれを実感する。
電車を乗り継ぎ、最寄り駅から出ると、相変わらずの人の少なさに驚くばかりだ。
街中でもそこまで人は多くないからな。
「すみません! 娘を探しています!」
「見覚えがあったら、ここに連絡をしてください」
駅には俺よりも少し年上ぐらいの夫婦がチラシを配っていた。
風で飛んできたチラシを見ると、そこには娘を探していますと書いてあった。
ひょっとしたらこの夫婦の娘もダンジョンに取り残されたのだろうか。
過去にダンジョンで男性が取り残されて20年経ったという噂を探索者ギルドで聞いたことがある。
見た目は全く変わらず、ダンジョンの中で何があったのかと話題になった。
何のためにできたのか、何が起きているのか学者達の間でも研究することになったぐらいだ。
結局、ダンジョンは謎に包まれたままわからないという結果で終わったけどな。
「お兄さんは何しにここに来たの?」
そんな俺に女の子が声をかけてきた。
「ここに移住することが決まったからね」
その言葉を聞いて嬉しそうな顔をしていた。
「この町は何もないけど、山の方に喫茶店があるから来てくださいね」
女の子はチラシを俺に渡してきた。
ただ、さっきのチラシとは異なり、喫茶店のチラシのようだ。
どうやらチラシを配っている夫婦は喫茶店を営んでいるらしい。
彼女はそこの娘というわけだ。
「じゃあ、この探している子はお姉ちゃん?」
「うん……」
寂しそうな顔をさせたことに罪悪感を感じる。
こういう時に幸治なら上手くやれるんだろうけどな。
俺は不器用だから無理そうだ。
「あっ、よかったらこれ引越し祝いだからあげる」
俺は鞄に入っていたお土産を取り出して彼女に渡す。
子どもはお菓子が好きなはずだからちょうど良かった。
「えー、納豆味のチョコレートってなに?」
あれ?
子どもはお菓子が好きなはずだよな?
なんか思ったような反応が返ってこなかったぞ。
「これって人気じゃないのか?」
「んー、田舎だからわかんないや」
確かに田舎なら都会の変わった食べ物は中々見かけないからな。
きっとお土産になるぐらいだから、美味しいのだろう。
「大きいお兄さんありがとね!」
彼女はお土産を手に持って、夫婦の元へ走っていく。
やっぱり子どもは無邪気な方が可愛いからな。
彼女の両親も俺に気づいたのか頭を下げていた。
そんな両親が探している娘さんはきっと大事にされていたのだろう。
俺は2枚チラシをポケットに入れて、幸治の家に向かっていく。
チラシには緑の服を着たショートカットの少女を探していますと書かれていた。
俺はタクシーを呼び止めると早速住所を伝える。
「この住所にお願いします」
スマホに書かれた住所をタクシーの運転手に見せる。
「ここって誰か住んでいますか?」
「えっ……?」
まさかタクシーの運転手が幸治の住んでいる住所を知らなかったとは……。
ナビで検索をしても出てこないため、近くにある農場を目的に設定した。
以前もタクシーで幸治の家に向かったが、その時に運転していた長い髭が生えたおじさんは普通に連れてってくれた。
あまりこの辺の運転に慣れていないのだろうか。
あの時は連絡してタクシーに来てもらったから、何か違いでもありそうだ。
「いやー、この辺ってあまりいい噂を聞かないから、少し警戒しているんですよね。自殺スポットみたいな言われ方をしていますし……」
確かにさっきのチラシの少女も行方不明になっているし、木がたくさん生えている山の中だから、変な噂があってもおかしくないのだろう。
タクシーの運転手も自殺志願者を運ぶのは後味が悪いからな。
「ああ、俺は探索者なので中々死なないので大丈夫だ」
「探索者でしたか!? だから体が大きいんですね」
タクシーの運転手は探索者を見慣れているのだろう。
一般人なら探索者と言えば、野蛮な人という扱いにされることが多いからな。
「ここに鳥居もあるから不気味なんですよね」
前に駅へ向かう途中で鳥居を見たな。
今回も赤い鳥居が生い茂っている木にひっそりとしていた。
木に隠れているから、突然出てくるのもあり不気味に感じるとタクシー運転手は言っていた。
「じゃあ、この辺でいいですか?」
「ありがとうございます」
タクシー運転手もあまり山奥には行けないということで、俺は農場の前に降ろしてもらった。
ここから幸治の家までも、そんなには遠くないだろう。
運動だと思い、幸治の家まで歩いて向かうことにした。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




