50.ホテルマン、ケトになる
命の危険ってこんなに何度もやってくるのだろうか。
今まで優しくしていた妖怪達が今となっては悪魔に見えてくる。
「おい、開けてくれ!」
広間の外から声をかけるが、みんなこっちを見てはいるもののニヤリと笑っている。
ケトなんてよだれを垂らしているぐらいだから、謎のイノシシにしか目がいってないのだろう。
俺は一生懸命ワイヤーメッシュに指をかけるが、登れる気がしない。
こんなに硬いワイヤーメッシュを買ったのは誰だ!
ああ、この俺だよ!
「開けてくれええええええ!」
俺が叫ぶと逃げるところを失ったと思ったのか、謎のイノシシはさらに速度を上げて突撃してきた。
ついにここで死ぬんだな。
疲れた心を休めるために田舎へ移住したつもりが、全く休まることのない日々が走馬灯のように――。
「死にたくないよおおおお!」
ん?
ワイヤーメッシュが少し動いたぞ?
「「「「せーの!」」」」
妖怪達と声が重なると、ワイヤーメッシュの柵が開く。
俺は扉が開いたのを喜ぶことすらできず、そのまま体が広間に引っ張られる。
扉を開けるために声を揃えたのではなく、俺を引っ張るために、シル達は声を揃えていた。
そんな俺は中の広間に飛ばされていく。
――ガシャーン!
俺は洞窟に来て何回宙に浮いているのだろうか。
「ふく、うるさいよ?」
「静かにしないと呪うよ?」
「あまり叫ばれるの耳が痛いです」
「静かにしてください」
妖怪達の辛辣な言葉に再び俺の心は奥深くに沈んでいく。
すぐに扉を閉めると、謎のイノシシはワイヤーメッシュにぶつかってその場で止まっていた。
その瞬間に謎のイノシシも中に引き込むと、みんなで謎のイノシシを囲んでいた。
『ブヒッ? ブヒヒヒィィィ!?』
謎のイノシシの大きな叫び声が聞こえてくる。
やはりあいつら妖怪じゃなくて、悪魔だったのだろう。
どうやら俺は完全に謎のイノシシを中に引き入れるための囮だったらしい。
そのまま妖怪達に広間に連れ込まれて、集団暴行にあったというわけだ。
俺のところからは見えなかったが、素手で謎のイノシシを仕留めていた。
「ジビエ!」
「ご馳走だね!」
「イノシシだからぼたん鍋かな?」
「エルさん、具材がないのでぼたん焼肉になると思いますよ」
笑顔で謎のイノシシを引きずってくるが、俺はあいつらが怖くなってきた。
「ひょっとして俺を油断させて食べる気だろ……。今まで仲良くしていたのも食べる気で……」
「ふく?」
「あれれ? オイラが増えた?」
「飼い主が似るってよく聞きますよね」
「これって私達のせいじゃないですか?」
サラの言葉に他の妖怪達も目を合わせて、何かを話している。
「やっぱり俺を食べる気――」
「ごめんなさい。私が提案したばかりに……」
「ごめんね」
「ごめんにゃさい」
「ごめんなさい?」
サラを皮切りに次々と俺に謝ってきた。
本当に落ち込んでいる姿をみると、反省しているのだと感じる。
それにサラの作戦の通り、俺じゃなければ謎のイノシシをここまで連れて来ることはできない気もするしな。
「これからは説明しろよ」
それだけ伝えて俺も謎のイノシシの元へ近づく。
「うわー、すごいことになっているな」
集団暴行にあった謎のイノシシの体はボロボロになって倒れている。
妖怪達の素手で叩く強さを忘れてはいけない。
ツノうさぎの突撃を止めるほどのスイカを素手で割るぐらいだからな。
刺々しい体は折られているし、亀のように硬そうな体表面も剥がされていた。
絶対にあいつらとは喧嘩しないでおこうと、俺は心に決めた。
謎のイノシシの血抜きはツノうさぎ同様に吊り下げられた。
相変わらずシルの四次元ポケットからは、色々と道具が出てくる。
こんなに道具を入れているのに、食料が全く入ってないのは腐ってしまうからだろうか。
「お湯をかけるね!」
血抜きや内臓処理が終わればサラの妖術で出した水を温めて、謎のイノシシにかけて皮を剥いでいく。
素手で皮を引っ張っているところを見ると、やはり妖怪達は力が強いのだろう。
ネコのケトですら、皮を引っ張っているからな……。
「これで処理は終わったことになるな」
「ふく、はやくたべよ!」
「オイラもお腹空いたよ」
「私もペコペコです」
「エルさん、男性にお腹を見せないの!」
様々な反応をしているが、みんなお腹が空いたのは一緒だ。
洞窟に来てきっと4日目になるが、昨日も一つのカップラーメンをみんなで分けて食べただけだからな。
肉を切り分けて、早速フライパンで焼いていく。
――グゥー!
俺のお腹もさっきからずっと鳴っている。
少し獣臭がするが、美味しそうな匂いが洞窟内に漂っていた。
豚肉よりも赤みの部分が多く、歯ごたえもありそうだ。
タレは簡単に焼肉のタレで食べることになった。
本当は臭み取りのために漬け込んだ方が良いだろうけど、そんな時間は今の俺達にはない。
念の為に湯通ししたけど、臭みは少なくなっただろうか。
焼かれた謎のイノシシの肉を皿に置いて、みんなで手を合わせる。
「いただきます!」
しっかりお祈りしたら、すぐに肉にかぶりつく。
噛んだ瞬間に肉汁が飛び出てくる。
今回は薄めではあるが、豪快にステーキサイズにしてあるからな。
「うっ……うまっ!?」
多少臭みがあるのは覚悟していたが、思ったよりも臭みはなく、脂身も少ないためいくらでも食べられそうだ。
シル達を見ても、目をキラキラと輝かせているから相当美味しいのだろう。
これで俺達もしばらくは洞窟内で生きていけそうだな。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




