41.ホテルマン、スイカ割りをする
「こんなところに畑を作ってたんだな」
スイカに刺さったうさぎをシルと共に処理していると、やっと牛島さんは畑に興味を示した。
「ここに住む前から畑はあったんですけど、何もしなくても勝手に野菜ができてお得感満載ですね」
牛島さんに畑について話すことにした。
俺はうさぎより地下に畑があることに驚いたが、結構一般的なんだろうか。
俺の場合は先にシルと会っているから、人と感覚がずれているのか?
「こんな立派な畑があったら、ある程度の生活はできるもんな」
一般的に畑作業って結構大変だが、俺達は特に何もしていない。
ピザ窯を調べていた時に畑作業を配信している人もいたが、思ったよりも大変そうだった。
この畑はうさぎに気をつければ危ないことはないからな。
むしろ、あの穴からうさぎが出てくることを知ったから、今後は対策できるような気がする。
「牛島さんって罠の設置ってできますか?」
「罠って動物を捕まえる罠のことか?」
「あの穴からうさぎが出てくるので、そのタイミングで捕まえることができたら安全に狩猟ができるなーって……」
今までうさぎを捕まえる時は、畑作業をしていないと出てこなかった。
基本的には俺が囮みたいな扱いになっていたからな。
だが、出てくるところがわかれば、そこに罠を設置することで安全に捕まえることができる。
「あー、昔にうちの鶏を食べにきたやつを捕まえたことがあるけど、そんな罠で大丈夫か?」
やっぱり我が家に牛島さんは必要不可欠だな。
俺にとったらインターネットより、牛島さんの方が頼りになる。
「うっしー! うっしー! うっしー!」
そして、妖怪達からは牛島さんコールが鳴り止まない。
「おい、恥ずかしいからやめろ!」
口では嫌がっているが、牛島さんも満更ではないようだ。
俺達は牛島さんに依存している気がするが、大丈夫なんだろうか。
いや、もう牛島さんなしでは生きてはいけないから、依存していると認めよう。
「後で材料を買いに行くとして、先にスイカを食べようか」
「うん!」
俺達はスイカを持って地上に戻っていく。
「よし、準備できたな!」
「ふくー、なにもみえないよー!」
「今からスイカ割りをするからな!」
俺達は庭に出てスイカ割りの準備を始めた。
ちょうど良い木がないため、シルには麺棒を持たせている。
ちゃんと目隠しもしているから、シルは何も見えていない。
決して悪いことをしているわけではないからな。
「じゃあ、そこでグルグル回ってスイカ目掛けて歩いて……ドンっとやるんだぞ!」
妖怪達にスイカ割りの方法を教えて早速始めた。
「いーち! にー! さーん!」
みんなで数えてシルは歩き出す。
「んー、まえにすすめないー」
「ははは、シルちゃんどこにいくのー!」
シルはスイカと反対の方へ歩いていく。
「シル、スイカは反対の方だぞ?」
「へっ!?」
シルは向きを変えて少しずつ近づいてくる。
ああ、スイカの方ではなく、俺達に近づいてきた。
「シルこっちじゃないぞ!」
「ここには私達がいるわよ」
「もう! スイカはここにあるもん!」
シルは目の前にスイカがあると思ったのだろう。
そのまま麺棒をおもいっきり振りかぶった。
――ドン!
地面には小さな穴ができている。
ただ、問題なのはそこではない。
「絶対オラを殺す気だったぞー! 呪うぞ!」
「スイカとケトをまちがえた」
シルはケトの目の前で麺棒を振り下ろしてしまった。
「ごめんね?」
「嫌だもん! オイラプンプンだもん!」
すぐに目隠しを外して謝っているが、ケトは怒ってシルの言うことを聞こうとしない。
そんな様子を牛島さんはジーッと見ていた。
「おい、ケトが話しているぞ?」
「あっ……」
「ファ!?」
俺達はすっかりケトが普通に話していたことを忘れていた。
すぐに気づいたケトは牛島さんに近づき、喉を鳴らす。
「ゴロゴロ……にゃー!」
体をスリスリしてネコ感を演出しているが、もうすでに遅いだろう。
牛島さんの顔が引き攣っているからな。
それに気づいたケトはため息を吐きながら、立ち上がる。
ネコを演じるのをやめた。
「証拠隠滅すればいいのか……。あっ、もし勝手に誰かに言ったら呪うよ?」
最終的には牛島さんに対して脅し始めた。
「オイラはうっしーのことが好きだからさ? だからうっしーはそんなこと言わないもんね?」
我が家のネコはついにヒステリックからヤンデレに進化したようだ。
「おっ……」
牛島さんもどうしたら良いのかわからず、俺の顔をチラチラと見てくる。
「うっしーのご飯が食べられないなんて、生きている価値はないからね。そうしたらみんな呪ってしまえばいいんだね」
「わっ……わかった! ケトは少し変わったネコってことだな」
牛島さんの言葉にケトの顔が明るくなる。
一方で牛島さんは血の気が引いたような顔をしていた。
「ははは、バレたなら道連れですね」
この際、よく関わる人だからこそ、ちゃんと話した方が良いのだろう。
「ひょっとして兄ちゃんも――」
「ああ、俺は普通の人ですね」
「ネコだったりするのか?」
んっ?
俺はネコではなくて人間だぞ?
牛島さんは何か変な勘違いをしているようだ。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^ ) ジィー




