37.ホテルマン、緑に出会う
「つめたいね!」
「みてみて、ネコカキできるぞ!」
喫茶店を後にした俺達は川で遊んでいる。
タオルとかも持ってきていないため、どうしようか迷った時にはすでに遅かった。
妖怪達は目を輝かせて、川にダイブしていた。
「あー、まだまだぬるいわね。ここら辺全て凍らしたらだめかしら?」
雪女であるエルにとったら、川の水も冷たくないのだろう。
肌が白いから日焼け対策をしっかりしないと痛くなってしまいそうだ。
「あまり奥に行くと危ないから気をつけろよ!」
「はーい!」
「にゃーい!」
初めて入った川で妖怪達は楽しそうに遊んでいた。
「ふくー! ケトがいないよー」
岩の上で休んでいた俺にシルが声をかけてきた。
シルとエルはお互いに水をかけて遊んでいたが、ケトは泳いでいたはず。
さっきまでネコカキを披露していたからな。
ただ、周囲を見渡してもケトの姿は見当たらない。
川での水難事故は多く発生している。
その中でも死亡事故は多くない。
川に入り必死に探すと、川に流されているケトを見つけた。
はじめはネコカキをしていると思ったが、ケトは手足をバタバタとしていた。
「おい、今すぐに何かに掴まれ!」
明らかにあれは溺れているだろう。
俺は必死にケトのところまで泳いで行く。
流れが急に速くなっているからか、ケトにはすぐに追いつけそうだ。
手を伸ばすと何かを捕まえた。
俺は必死に引き上げて、様子を確認する。
「大丈……だれ!?」
引き上げたのは見ず知らずの女の子だった。
ケトって女の子になるのか?
「ゲボゲボゲボ!」
いや、まだケトは流されていた。
じゃあ、抱えているこの子は誰なんだろうか。
一瞬、川に引きずり込まれるような感覚になり、背筋がゾッとしてきた。
頭に思い浮かぶのは矢吹が言っていた、〝見えないやつを紹介された〟という言葉だった。
もしかして見てはいけないものを見てしまったのだろうか。
いや、すでに座敷わらし、猫又、雪女を見ていたら、怖いものはないはず。
それよりも今はケトを助ける方が先だろう。
俺はそのまま追いかけると、木の枝にちょうどケトは引っかかっていた。
ケトを肩に乗せて、ゆっくりと川に流されないように戻っていく。
「あれだけ奥に行くなって言っただろ」
「ごめんなさい」
「ネコカキ見て欲しいかったもん」
ケトは反省しているのか、尻尾を下げて落ち込んでいた。
ずっとネコカキを見てって言ってたもんな。
俺がちゃんと相手してなかったのが悪かった。
それにしてもケト以外にも、声が聞こえたような気がする。
ゆっくりと顔を動かすと少女と目が合う。
「ふくー! しんぱいした!」
シルが心配そうに駆け寄ってきた。
あそこで俺も流されていたら、それどころではなかっただろう。
「シルの知ってる子?」
「しらないよ?」
突然川から出てきた時は、一瞬幽霊かと思ったが、はっきり見えるためシルと同じ妖怪だと思った。
だが、シルも知らない妖怪なんだろうか。
川に来るのも初めてだったら、知らない妖怪がいてもおかしくない。
むしろ俺的には妖怪にしたいぐらいだ。
身長はシルとそこまで変わらず、小学生に上がったかどうかのような見た目をしている。
それに緑色のワンピースを着ているため、どことなくシルに似ていた。
横に並んだら姉妹と言われても納得してしまう。
水の妖怪だと服の色もあってか、河童しか思い浮かばない。
髪がショートカットだから尚更そう思うのだろう。
こんなに可愛らしい河童はいるのだろうか。
「わたしはシル! あなたは?」
「私は……サラです」
そんな俺とは違って、シルは彼女と仲良くなろうとしていた。
どうやら名前はサラというらしい。
サラ……? 皿……?
河童じゃん!
名前まで河童を連想させてしまう。
「君は迷子かな?」
「ちがうよ」
周囲を見てもこの川には俺達しかいないため、サラは迷子とかではない。
そうなると妖怪で間違いないはず。
さすがに幽霊とかはないよね……?
シルよりもはっきり見えているため、きっと違うはず。
「いっしょにあそぼ?」
「うん!」
シルは河童のサラの手を握り、再び川で遊び出した。
年が近い友達ができたようで嬉しそうにしている。
「ケトは遊ばなくていいのか?」
「またオイラを遊ばせて溺れさせる気?」
ジトっとした目でケトはこっちを見てくる。
溺れたのは自分の責任だけどな……。
「私も疲れたのでしばらく休憩します」
俺達は日陰でシルとサラを眺めながら、ゆっくりと過ごした。
「シル帰るぞー!」
「はーい」
少しずつ陽が落ちて、夕暮れ時になってきた。
川から家まで距離もあるため、早めに帰らないといけない。
「またね!」
「うん……」
俺達が帰るって言ったら、どこかサラは寂しそうな顔をしていた。
こんな田舎の川へ遊びに来る人は少ないから、せっかくの遊び相手ができて楽しかったのだろう。
さすがに河童は水があるところでしか生きていけないからな。
「ふく、サラもおとまりだめ?」
シルもそれに気づいたのだろう。
我が家に河童が住む場所はあっただろうか……。
水が常時あるところって風呂しか――。
「あっ、露天風呂があったか!」
露天風呂ならほとんど使っていないため、河童が住むにはちょうど良いだろう。
それよりもシル達は、我が家にお泊まりをしている感覚だったことに驚いた。
民泊に泊まっているのは、妖怪達だったってことか。
「「ダメかな?」」
シルとサラはキラキラした目で俺を見ていた。
そんな目で見られたら、嫌とは言えないだろう。
「サラも一緒に来るか?」
「「いいの?」」
「ああ!」
シルとサラは二人で手を繋いで喜んでいた。
「サラちゃん、よかったね!」
「うん!」
我が家に幼女の河童が一緒に住むことになった。
やっぱり我が家は妖怪民泊じゃないのか?
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




