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35.ホテルマン、喫茶店に行く

「なぁ、あんなところに鳥居があるんだな」


 矢吹を車で送っていると、突然矢吹は鳥居について話し出した。


 確か家に戻ってくる時、尚且つ夜にしか見えないはずが矢吹には見えたのだろうか。


「たまに見えるらしいよ」


「本当に変わったところに住んでいるんだな」


 矢吹はここをどこだと思っているのだろうか?


 ただの田舎……いや、妖怪憑きの田舎だったな。


 駅に着くと矢吹はすぐに車から降りていく。


「おい、待ってるぞ!」


「ははは、心配しなくても戻ってくるからな」


 矢吹はいつものように笑みを浮かべて駅の改札に向かって行く。


「やぶ……いや、大丈夫か」


 久しぶりに見送った親友の姿は、どこか小さく今にも消えてしまいそうな気がした。


 きっと矢吹なら荷物を持って戻ってくるだろう。


 なんとなくだが、長年一緒にいる俺はそんなような気がしている。


「ふく……?」


 そんな俺のことをシルは心配そうに覗きんでいた。


 我が家には座敷わらしがいるから大丈夫だろう。


「ありがとな」


「シルはなにもしてないよ?」


 俺にとってはシルがいるだけで、何か変わる気がしたからな。


「さぁ、喫茶店にいくか!」


「きっしゃてん!」

「早く本場のトーストを食べるぞ!」

「喫茶店には珍しい魔導具はあるのかしらね」


 各々目的は違うが、喫茶店には行く満々のようだ。


「すぐに調べるからな」


 俺はスマホの地図を使って、喫茶店の位置を確認する。


「なっ……」


「どうしたの?」

「問題か? 邪魔なやつは呪うぞ?」

「スマホの使い方がわからなかったのかしら?」


 エルは俺をなんだと思っているのだろう。


 さすがにスマホの使い方ぐらいは知っているからな。


「思ったよりも遠いところにあるぞ?」


 駅近くに来たら喫茶店の一つや二つはあると思っていた。


 だが、喫茶店もショッピングモール近くまでしかない。


 やっぱり喫茶店に行くだけでも、不便な田舎だと改めて感じた。



「んっ、こんなところに川があったのか」


 喫茶店に向かう道中、川の音が聞こえてきた。


 どうやら近くに川があるようだ。


 流れもそこまで強くなければ夏のアクティビティとして利用できるかもしれない。


 バーベキューなら俺達が料理をしなくても良いからな。


 川を越えてショッピングモールとは反対の方へ車を走らせると、山小屋のような喫茶店を見つけた。


「きっしゃてん!」

「早く行くぞ!」

「ここには何があるのかしら」


 さっきから車が縦に揺れるほど、妖怪達の興奮は止まらない。


 妖怪が店内に入っても大丈夫なのか確認しないといけないな。


 ネコの姿をしている猫又は特に確認が必要だ。


 俺は車内で待ってもらうように伝えて、店内に入っていく。


「おはようございます」


 どこか静かな店内に俺よりも少し歳上の夫婦が椅子に座っていた。


「次はどうしたらいいのかしら?」


「やっぱりお金を払ってでもニュースに――」


「今大丈夫でしたか?」


「おお、お客さんでしたか」


「今すぐに準備しますね」


 やはり田舎だから、ここもあまりお客さんが来ないのだろうか。


「お客様は……一人ですか?」


「いや、ネコが車にいるんですが、さすがに無理ですよね……?」


 店内にはお客さんはいないが、ここから人が集まってくるかもしれない。


 それに店内にネコを連れて入るのもな……。


 (呪いを振り撒く猫又だけど……)


「この時間はあまりお客さんが来ないので大丈夫だと思いますよ」


 女性は優しく微笑むとケトの店内利用を許可してくれた。


 ちょうどお客さんが集まりにくい時間だったのだろう。


 座敷わらしがいるから、タイミングよく運が良かったのだろう。


「本当ですか?」


「ええ、せっかくみんなで来てくれたのに可哀想じゃないの。少し暑いですが、テラス席も用意できますよ」


 どうやらテラス席も用意してあるらしい。


 ここからだとちょうどさっき見えた川を眺めることになりそうだ。


「一度確認してきますね」


 俺は車に戻って妖怪達に確認することにした。


「ふく、どうだった?」

「喫茶店に入れるか?」

「何か面白いものはありましたか?」


 店内にネコであるケトを連れていくにはリードを着けないといけない。


 ただ、ケトはリードを着けることを嫌っている。


 落ち込んでいるケトならリードを着けても気にしないが、普段は嫌がることが多い。


 勝手に着けたら、いつものヒステリックが始まるからな。


「ケトにリードを着けてもいいなら大丈夫だぞ」


「なぁ!?」


 シルとエルはケトをジーッと見ていた。


 今の反応を見ても、リードはあまり着けたくないのだろう。


 テラス席を使えば良いが、少しずつ暑くなっている状況で雪女であるエルが耐えられるのだろうか。


「なんだ! 美味しいものが食べられるならいいぞ! ふくのご飯よりはうまいんだろ?」


 うん、我が家のネコは食欲には勝てないようだ。


 それにサラッと俺を貶してくる。


 ケトは自身でリードを着けると、嬉しそうに二足歩行で喫茶店に向かっていく。


「おい、お前はネコだからな?」


「はぁ!?」


 今頃ケトは気づいたのだろう。


「ミャアー……違うか。ニョオー……あれ? どうやって鳴いてんだ?」


 すぐに手をついてネコのように鳴き方を練習していた。


 よほど喫茶店が楽しみで鳴き方を忘れたのだろう。


――カラン!


 ケトの鳴き声に気づいて、喫茶店の扉が開いた。


「あっ、ネコちゃんだ!」


 扉を開けたのはシルと同じぐらいの少女だった。


 ケトが気になるのか、すぐに寄ってきてケトに抱きついた。


「にゃー!」


 呪いを振り撒く猫又に、そんな簡単に触れても大丈夫なのかと思ったが、ケトはいつものように鳴いていた。


 人前じゃないと、中々上手く鳴けないようだ。


「お客さん3人とネコちゃん1匹です」


 少女の声が店内に響き渡る。

「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」

「「呪うよ?」」

 シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。


| |д・)ωΦ^)ジィー


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キッチンカーと巡る異世界グルメ ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~
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