34.ホテルマン、移住を勧める
「うっ……やぶきんも大変だったな」
俺は矢吹の話を聞いて涙が止まらなかった。
ずっと様子がおかしいと思っていたが、俺とは別の道を歩いた家族がこんな目に遭っているとは思いもしなかった。
探索者は死と隣り合わせなのは聞いている。
だが、目の前で大事な仲間が死ぬところを見たら、俺でも正常ではいられないだろう。
「やっぱり俺達は普通の生き方はできないな」
養護施設で育てられた俺達にはみんな様々な過去がある。
家族がいない俺達には生きなきゃいけない理由がない。
それでも俺は矢吹が生きて帰って来れたことがただただ嬉しかった。
「よし、やぶきんも一緒に住もう!」
「はぁん?」
「俺がお前の家族になる!」
真っ暗な部屋のはずなのに、矢吹が少し呆れたような顔をしているように見えた。
別におかしなことは言っていないからな。
大事な家族がいたら、絶対に帰らないといけない気持ちになるだろう。
それに座敷わらしや猫又、雪女と妖怪パラダイスの中に探索者が増えても全く何も思わない。
我が家は少し変わっているやつばかりだからな。
世間では探索者が危ない存在や気味の悪いやつと思われているかもしれない。
ただ、普段から俺を呪おうと、脅してくるネコの方がよっぽどタチが悪いからな。
むしろ探索者の方が一般的だ。
「にゃー」
今も扉の奥で鳴いているような気もするが、気にしないでおこう。
「なぁ、別に良いだろ? できれば料理担当で――」
「はぁん!? それ俺じゃなくてもいいだろ?」
「そんなこと言うなよ。待ってるからな!」
「はぁー、相変わらず強引というのか……」
矢吹をスキル鑑定のために、役所に連れて行ったのも無理やりだったからな。
時計をチラッと見たら、丑三時だった。
「とりあえず寝るぞ。金縛りには遭いたくないからな」
あのケトの鳴き声も、金縛りと何か関係しているのかもしれないからな。
俺はすぐに布団に包まって目を閉じる。
ケトが一匹、ケトが二匹……。
「はぁー、本当にこいつの無理やりは俺を困らせるな」
矢吹の独り言が聞こえていたが、俺はすぐに眠ってしまった。
翌朝、目を覚ますとすでに矢吹は服に着替えて、荷物をまとめていた。
「早起きだな」
「お前が一緒に住むって言ったからだろ?」
俺は首を傾げる。
夜中に起きて色々と話したが、たくさん話したからかあまり覚えていない。
それに少し寝ぼけていたからな。
覚えているのは矢吹が大変だったってことぐらいだ。
「はぁー、夜中だから寝ぼけていたのか。とりあえず駅まで送ってもらってもいいか?」
「そんなに急がなくてもゆっくりしたらどうだ?」
「そんなにゆっくりしていたら、移住する気も失せちゃうだろ。この辺何もなさそうだしな」
それを言われたら俺は何も言えない。
本当にこの辺は何もないからな。
俺も着替え終わる頃には、シル達も起きて朝食の準備をしようとしていた。
「やぶきんを送っていくけど付いて来るか?」
「行くー!」
「お散歩だー!」
「たまには出歩かないといけないですもんね……」
妖怪達もみんなで矢吹を見送ってくれるのだろう。
「せっかくだから喫茶店にでも寄って何か食べるか」
「「「喫茶店!?」」」
妖怪達の声が重なると、ドタバタと玄関に向かっていく。
「妖怪って外に遊びに行けるんだな……」
初めてシルが外に出た時と同じことを矢吹も思っていた。
「矢吹も喫茶店に――」
「なぁ、これって魔石か?」
矢吹は皿の上に置いてある石の山が気になっているようだ。
畑に出てくるうさぎから、たまに黒く輝いた石が出てくる。
魔石をテレビで見たことはあるが、もうちょっと鮮やかな色をしているぞ?
それに黒色ではなかったからな。
捨てようとしたら、シルに怒られてからは飾るようにしていた。
「いや、うさぎからよく出てくるから、胆石みたいなやつじゃないか?」
「この辺にいるウサギも苦労しているんだな」
矢吹はそのまま石を元にあったところに戻した。
「せっかくだからお守りとして持っていけ」
「おいおい!」
俺はいくつか石を手に取ると、強引に矢吹のポケットに入れた。
決して処理に困っていたわけではないからな。
ちゃんとお守りとして渡したから問題ない。
それに多少数が変わってもシルは気づかないだろう。
だって、本当に山積みになっているからな。
「ふく、まだー?」
「早く来ないと呪うよ?」
「早く行きましょ!」
まだ喫茶店に連れて行ったことがないから、妖怪達は興味津々のようだ。
「やぶきんいくぞ!」
「ああ」
急かされるように俺達は玄関に向かう。
そういえば、ケトはネコだけど喫茶店に入っても大丈夫だろうか。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




