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33.クマ男、ミノタウロスと戦う ※矢吹視点

「今だ!」


 俺の合図に剣心は隙をついてミノタウロスに斬りつける。


「まだ傷が浅いか」


『グワアアア!』


「こっちもいくよ!」


 俺は一歩下がりその場でしゃがむ。


「サンダーボルト!」


 由真の声に反応して、雷がミノタウロスの頭上を目掛けて落ちてくる。


 空もないところから雷が落ちてくるって、普通に考えたら恐ろしいよな。


 ダンジョン旭岳は洞窟のようなところに繋がっている。


 ダンジョンの中は様々な場所があり、広い草原や雪原、砂漠地帯などまるで海外旅行に来たような風景をしている。


――ドスン!


 ミノタウロスが地面に膝を突いた。


 体長3m近いバッファローみたいなのが、立って襲ってくるため、上から拳を叩きつけられないように、這いつくばらせた。


 しかも、拳だけなら良いが、蹴りまで放ってくるからな。


 警戒しながら俺と剣心で畳み掛ける。


 まぁ、俺は盾で攻撃をずらしながら、相手の姿勢を崩すのがメインになる。


 Sランクである探索者は両手に大盾を持って、圧迫死させるぐらいだからな。


 それが女性だって聞いた時には、探索者はやはり人間ではないという言葉がしっくりきた。


 俺はミノタウロスにそのままぶつかると、ふらついた拍子に剣心は支えている脚に斬りつけた。


『グワアアアアア!』


 ミノタウロスの雄叫びが洞窟内に響く。


 そのまま地面に倒れたらこっちのもんだ。


 あとはみんなで袋叩きする。


 次第にミノタウロスは動かなくなった。


「やったー!」


「私達でもミノタウロスを倒せたよ!」


「さすがやぶきん!」


「いや、剣心のおかげだ」


 俺達はミノタウロスを倒せたことを喜んだ。


 前回はあと一歩のところで勝てずに、その場から逃げてきたからな。


 ダンジョンにいる魔物はしばらくすると、ダンジョンに吸収されるのか消えていく。


「うっし! 魔石とミノタウロスの角だな」


 地面には橙色に輝く魔石と大きな角が落ちていた。


「橙色って直接電気になる魔石よね?」

「角も武器の素材として優秀だよ!」


 由真と由奈は高価なドロップ品に喜んでいた。


「これで目的は達成したから帰るぞ」


 剣心はドロップ品をアイテムボックスに入れると、俺達はダンジョンを後にする。


 来た道を戻る必要があるため、安全面を考えるとあまり奥深くにはいけない。


「これで私達のランクも上がるかな?」


「Bランクになれたらいいな」


 魔物も探索者同様にランクづけされており、ミノタウロスはBランクと言われている。


 魔物と探索者のランクは同等と言われており、Cランクの俺達はパーティーでなければBランクの魔物を倒せない。


 ミノタウロスが簡単に倒せるようになったら、Bランクに上がることができるだろう。


「おい、止まれ」


 俺は周囲の静かさに違和感を感じた。


 前もミノタウロスに見つからないように地上に戻った。


 それなのにミノタウロスは一向に姿を見せない。


 会ったのは倒したミノタウロス一体だけだ。


「走るぞ!」


 さっきから金属が地面を擦る音が遠くから聞こえてくる。


 しかも、だんだんと音が大きくなっている気がした。


「えっ? なんでだ?」


「やぶきんが走れって言ったら走るの!」


「そうよ! 私達よりやぶきんの方が強いんだから!」


 この中で次にランクアップをするならきっと俺だ。


 実力ならすでにBランク相当はあるからな。


 ただ、タンクの役割をしているから、俺一人ではミノタウロスを倒せないのが現状だ。


 由真と由奈は俺の実力を信じているのだろう。


「話す暇があるなら走れ!」


 俺は後ろにいる仲間に声をかけた。


 だが、この時にはすでに遅かった。


――ドスン!


 振り返ると同時に俺の目の前に拳が通り過ぎた。


「えっ……」


 あまりにも素早い動きに、俺は全く反応ができなかった。


「剣心! 由真! 由奈!」


 声をかけるが全く動く様子はなく、その場でぐったりとしている。


『グオオオオオオ!』


 全身の震えが止まらないほどの魔物の雄叫びがダンジョンに響く。


「ミノタウロス……?」


 さっきまで戦っていたミノタウロスと姿形は似ている。


 だが、ミノタウロスよりも体は倍近く大きい。


 まるで一戸建ての家と対面しているようだ。


 体も茶色から黒に変色しており、すぐにミノタウロスよりも強い上位種だと気づいた。


 俺は急いで盾を構えて、仲間達のサポートにはいる。


 由奈がいればある程度の傷は回復するだろう。


「お前の相手は俺だ!」


 俺が挑発をすると、大きな岩が落ちてくるような拳が下された。


――ドン!


 拳による風が巻き上がり、鈍い音がダンジョンの中に響く。


「くっ!」


 脚に痺れが走る。


 あと数発は受け止められるだろう。


「かかってこいやあああああ!」


『グオオオオオオ!』


 さらに挑発をするとミノタウロスは雄叫びを上げた。


 だが、それは俺に対してではなかった。


 ミノタウロスの足元には血だらけの剣心が立っていた。


 由奈の回復が間に合って参戦したのだろう。


「やぶきん……逃げろ!」


「へっ……?」


 剣心の言っていることが理解できなかった。


 大きく腕を振るうと、円を描くようにアイテムボックスの加工がされた魔石が飛んできた。


 あれは俺達みんなで稼いだやつだ。


 リーダーである剣心が持つと約束したはずだが……。


「おい、どういう――」


「俺らはもう無理だ……」


 その言葉に胸の奥がざわつく。


 無理ってどういうことだ?


 由奈がいれば俺達はまた戦える。


 逃げることだってできるんだ。


「あきらめ――」


「幸せになれよ!」


 その言葉を最後に剣心の頭上からミノタウロスの拳が振り下ろされる。


 拳が触れる瞬間、剣心の顔は笑っているように見えた。


 目の前の出来事に俺は夢を見ているようだ。


「おい、由真! 由奈!」


 すぐに由真と由奈を見るが、全く反応がない。


 いや、正確に言えばすでに二人の体は消えて無くなっていた。


 ダンジョンで亡くなった探索者は装備品だけを残して、ダンジョンに吸い込まれる。


 まるで俺達も魔物と言われているかのように消えていく。


 さっきまでいた剣心すら、ダンジョンは取り込んでいた。


 反対の手に斧を持ったミノタウロスが近づいてくる。


 残された俺にはもう逃げる気力も残っていない。


 俺一人では生きていける気がしない。


 それだけパーティーの仲間達が俺の中の支えであり、生きる目的になっていた。


「ああ、俺にはあいつがいたか」


 ふと、幼い時から一緒の施設で兄弟のように過ごしたあいつの顔が思い浮かんだ。


 ニヤニヤと笑みを浮かべながらミノタウロスは近づいてくる。


 ミノタウロスは大きく斧を振る。


「あいつは元気かな……」


 あの当時は辛かったけど、毎日が楽しかったな。


 良い仲間に出会えたのもあいつのおかげだった。


 俺は死を覚悟して目を閉じると、腹部に痛みが走る。


 だが、俺の頑丈な体は、大きな斧の刃では真っ二つに切り裂けなかったのだろう。


 俺はその場で倒れる。


 これで俺もあいつらの元へ行けるだろう。


 微かに映るミノタウロスは俺を見て笑っているだろう。


 最後に憎いミノタウロスの顔でも焼き付けようと、再び目を開けると、ミノタウロスは何かに怯えていた。


 そしてすぐにその場から逃げるように走っていく。


「せっかく美味しそうな牛肉を逃してしまいましたね」


「そんなのいいわ。それにしてもここに良い男が落ちているわよ」


 大きな盾を持った女性と探索者とも思えないドレスを着た女性が近寄ってきた。


 明らかに俺が感じたこともない魔力の多さに、すぐに格上の探索者だと気づいた。


「ここで死なれたら居心地が悪いわね」


 それだけ言って、俺に何かを食べさせてミノタウロスを追いかけて行った。


 なぜか魔力が回復しているような気がする。


 切り裂かれた腹部も次第に傷が塞ぎ、どうやら俺だけが死なずに助かったようだ。

「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」

「「呪うよ?」」

 シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。


| |д・)ωΦ^)ジィー


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キッチンカーと巡る異世界グルメ ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~
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