29.ホテルマン、幼馴染がやってくる
我が家に雪女のエルが加わると、生活が著しく変化した。
「これは何ですか?」
「あー、これはなんでしたっけ?」
「おいおい、ここまでの地図がすぐに検索できるアクセスマップQRコードだぞ」
「らしいよ?」
エルは電化製品に興味があるらしく、最近はパソコンにハマっている。
ちょうど牛島さんと一緒にホームページ作りを再開しているところだ。
外は暑いから雪女には、インドアでできるパソコン作業がちょうど良いのもあるだろう。
「やっぱり兄ちゃんより、奥さんの方が機械は強そうだな」
それに俺よりは確実にパソコンの扱い方が上手いからな。
今ではエルもこの生活に慣れて、俺の妻という扱いになっているらしい。
さすがに雪女って紹介はできないから、そう思われても仕方ない。
「みんなで頑張りましょう!」
「うん、兄ちゃんが一番できてないからな?」
「さぼりー!」
「ふふふ、楽しいですね」
そんな俺達を見てエルは笑っていた。
「そういえば友達が来るんだろ?」
「そうなんです! 久しぶりに会いますね」
前にあったのは成人式の日だった気がする。
それからは俺の仕事が忙しくて、会う機会は少なかったし、中々環境的にも会いづらかった。
「お邪魔虫は退散するか」
「うっしー、かえるの?」
「にゃー!」
「もう少し聞きたいことがあったんですが……」
いつのまにか俺より牛島さんに妖怪達が懐いている気がする。
やっぱり妖怪も胃袋を掴まれたら、離れられなくなるのだろう。
どちらかといえば俺は懐くというより、憑いているイメージだからな。
最近は金縛りが強くなったし、気づいたらエルも隣で寝ているからか一番広い部屋に移動した。
間違っても雪女に手を出すことはないから安心してくれ。
調べたら雪女って人間を一瞬にして凍らせることができるらしい。
ひょっとしたら犯罪者より怖いのかもしれない。
いや、簡単に呪うことができるネコがいるのも忘れていた。
今は使いすぎて熱くなったパソコンを冷やしたり、部屋の温度を下げてくれるから問題ないだろう。
彼女自身がちょっとした電化製品みたい。
それにケトも暑いからか、床でずっとゴロゴロしている。
平和な妖怪達だ。
――ピンポーン!
しばらくすると我が家のインターフォンが鳴った。
玄関の扉を開けると、まるで時が戻ったような気がした。
「よっ!」
全く顔は変わっていないのに、体は以前よりも大きくなって大人になったんだと実感する。
「やぶきん、久しぶりだな!」
俺はそのまま抱きつく。
いつもいきなり抱きついては、投げ飛ばされていた。
それが俺達の挨拶だ。
俺は身構えるが、全く飛んで行く様子はないようだ。
「そうだな」
チラッと顔を見ると、久しぶりに会った家族はどこか元気がないような気がした。
こんな反応はあの出来事以来だな。
「いらっしゃい――」
俺の後に続いて妖怪達もやってくる。
だが、矢吹の姿を見てどこか警戒しているような気がした。
「あー、すまないな」
「いや、大丈夫だ。俺は慣れてるからな」
「そこは慣れたらダメだろ!」
矢吹は昔から体格が良くて、クマみたいだからな。
「えーっと、今一緒に住んでいるシルとエルとケトです」
順番に説明すると一応みんなは頭を下げている。
ただ、まだ警戒は解けていないようだ。
初めて民泊をやった時はそんな様子はなかったが、この間支配人が来たことで、警戒心が芽生えたのだろうか。
ケトにあいつらを呪ってもらえばよかったな。
「探索者の矢吹だ。こいつとは小さい頃から一緒だな」
「むっ! いまはシルといっしょ!」
「ふくは渡さないぞ!」
「私も彼がいないと生きていけないんです」
なぜか矢吹と我が家の妖怪達が取り合いをしていた。
ああ、本当に俺って妖怪達に取り憑かれているようだ。
エルに限っては俺なしでは生きていけないとまで言っている。
まだ会って数日しか経っていないぞ?
「相変わらずみんなに好かれているな。それよりも今ネコが話さなかったか?」
「ふぁ!?」
ケトは驚いたのか、二足立ちになって家の中に走って逃げていく。
牛島さんの前では普通のネコを演じていたのに、やっぱり無理なようだ。
もうここまで来たら伝えないとずっと怪しんで、リラックスして泊まれないだろう。
兄弟のような矢吹ならどこか大丈夫な気がするしな。
俺は矢吹以外誰もいないことを確認すると、矢吹の耳元で話す。
「あいつら実は妖怪なんだ」
「ふーん。昔から変なのに好かれていたもんな」
ん?
それはどういうことだ?
俺が首を傾げていると、矢吹も首を傾げていた。
「幼い頃、見えない何かを俺に紹介していたぞ?」
なんだその怪しい子どもは……。
どうやら俺は昔から取り憑かれやすい体質だったようだ。
暑い夏に少しホラー要素を取り入れてみました?
作者はすでに夏バテ中です。
熱中症に気をつけてください| |д・)
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




